見出し画像

毎度、大なり小なり揉めごとを寄せ付けてしまう編集者は「敬意力」を磨くといい!?

シュッパン前夜のメンバーの中でも、編集者歴が長いほうですが、毎回、仲間が執筆するnoteの記事を読んでは「すごいなあ・・・・その通りだよ・・・・」と唸ってしまうマルチーズ竹下です。
ケーハクさんの記事『出版編集の「揉めごとは対人コミュニケーションに尽きる」問題』については、文中に登場する「永遠に未熟or新しいチームで臨む」の文言に深く頷きましたし、高橋ピクトさんの記事『編集者の「読みたくなる」見出しのつけ方』を読んだら、進行中の原稿の文中見出しが気になり見直してしまいました。

どちらも多くのスキをもらっているので、私と同じように共感した方が多いようです。裏を返せば、みなさん、少なからず揉めごとに悩んでいたり、自分のコミュニケーション能力に自信がなかったり、ふわっとつけた見出しのまま校了に至ったりしてしまってるのかもしれません。
今回は、そんな〝編集者あるある〟の中でも、現場で大なり小なり起こりがちな「揉めごと」について、私なりの考えを書きたいと思います。

仕事の進め方は常に変化している

といっても、回避するための具体的な方策ではなく(そちらについては他の方が役立つ記事をたくさん書かれています)、心の持ちよう、のほうについて。私が勝手に「敬意力」と呼んでいるものについてのお話です。

ざっくり見積もって30年、出版社に勤め、編集の世界に住んでいます。と自己紹介すれば、大抵の方が「ベテランですねー」と返してくれます。ベテラン、を辞書で引くと、〔長年の経験を重ね、その道に熟達した人〕との意。うん、前半は自分に合致してる。でも後半の〝熟達〟に引っかかり、さらに辞書で引くと、〔熟練して上達すること〕とある。熟練・・・・上達・・・・うーん、どちらもしっくりこない。なぜなら、著者が変われば、毎回私は〝未熟〟で〝新〟人の編集者になるからです。
もちろん〔長年の経験を重ね〕たおかげで基本的な制作スキルは身につけているつもりですし、知識と経験を携えて打ち合わせには臨場しますが、ときどきそれらがスッとリセットされてしまう出来事が起こるのですね。

著者、とひとことで括りましたが、現在の出版事情において既存のジャンルにおさまらない書籍が数多く登場してきたように、著者のあり方も千差万別になってきました。執筆を生業にしている人から、著作は本業の販促物のひとつと言い切る人、また自らチームを組み、自分は監督の立場で個々メンバーに得意分野を任せて原稿を作りあげる人もいます。

個々の具体が見えて、初めて「ここ、どうする?」に突き当たる

著者のありようが多様なら、進行方法も百人百様になるのが常です。雑誌ならば編集部が築きあげたスキームや方針にのっとることを求められますが、書籍の場合はイチから決めていくのがすじなので、まずは企画立ち上げの初期に基本的事項について双方で希望やNG項目などを話し合い、曖昧な点を潰しておくのが望ましい。
ところが、揉めごとを寄せ付けてしまいがちな編集者の現場では、制作がスタートし、個々の具体が見えて、初めて「ここ、どうする?」に突き当たることが多いのではないでしょうか。
レイアウトどうする? イラストを追加する? 文章は敬体(です・ます調)?それとも常態(だ・である調)?? ・・・・これらはわりあいイメージしやすいので初期の頃に潰しておけますが、意外と些末な事柄が最後まで尾を引くことも。たとえば、表記統一をどこまで徹底させるか、組版はどの時点の原稿で行うのか、スケジューリングはどこまで細かく詰めるのか・・・・など。また、校正作業の行い方も著者やジャンルによって変わります。最近は「校正紙は必要ない。PDFで校了までやる」という著者も増えてきましたし、また本だけではなく宣伝物すべてに目を通し、自分のチェックを受けたもの以外は発信してはならず、という著者もいます。

著者のリクエストにはできる限り応えたい、そのうえで売れれば本望! なのが私のスタンスなので、わりとそのあたり、著者にはいちいちメールで問い合わせます。それをきめ細かな気くばりと感謝されることもあれば、「めんどくさいから勝手に判断して!いちいち聞かないで!」と叱られることも。その結果、自己判断で良きはからいをしたつもりが、「そっちじゃない!!」とキレられる場合も・・・・。まあそんなふうに、一冊作るごとに、何かしら起こるのが私のスタイルというやつね・・・・と、心をととのえるために緑茶を飲んでは物思いにふけるのでした。

ファンとしての思いを総動員させるのが「敬意力」

とはいえ、心が病みそうになることも過去にはありました。見るに見かねた上司が、途中で担当を降りるよう命じられた企画もあります。そこまでいかずとも、著者やスタッフとうまく連携が取れず、結果スケジュールがもたついて(しかし校了日は迫る!)心が折れそうになるケースも・・・・。

その時に私が発動させるのが、「敬意力」です。

敬意とは、読んで字の如く、うやまう気持ち。相手を尊敬する心。企画立ち上げの時、また原稿執筆や制作を依頼する時、私が〝あなた〟を選んだのには、あなたにしか言えない言葉や語れないストーリーやメソッドがあると信じたからにほかならない。その時に抱いていた〝あなた〟への憧れ、ファンとしての思いを、ふたたび総動員させるのです。
え、そんなスピ子的な方法、あり・・・・? と引かないでください~。 正しい深呼吸が、無意識でやっている呼吸法とは異なるように、ちゃんと丹田に力を入れ、気を集中させないと発動できないんです。

なぜ自分はこの著者に声をかけたのか?
なぜ自分はこのライターさんに取材執筆を依頼したのか?
なぜこのデザイナーさんに・・・・・このカメラマンさんに・・・・イラストレーターさんに・・・・・・そこには明確な理由があり、理由のベースにあるのは「あなたの仕事が好き」にほかならないはず。

シュッパン前夜メンバーのゴファンさんは、編集者には企画力や調査力、構成力文章力など15の能力が必要だと説かれていますが、もし私のようにコミュ力や調整力がいまいちで毎度なんらかの揉めごとを大なり小なり寄せ付けてしまう人がいるならば、ぜひ「敬意力」を発動させてください。

もちろん、揉めないように、ちゃんとコミュニケーションを取り、伝えるべき点を最適なタイミングで伝え、すみやかに話し合うよう努めるのは編集者だけでなくあらゆる仕事の場において大前提です。でも、にっちもさっちもいかなくなり、気持ちが前を向けなくなったら使ってみてください。

えと、制作期間中は揉めていても、校了したあとは著者とはそれなりの関係を築けていることを最後に付け加えておきます。皆様、いつもありがとうございます。

文/マルチーズ竹下

本づくりの舞台裏、コチラでも発信しています!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?