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実用書に必要な「図解力」とは?

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、憑依力、文章力、語彙力、などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

今回は、その中で「図解力」についてご紹介します。

では、詳しく見ていきましょう。


類書との差別化には図解の違いが必須

私が編集する実用書のほとんどは「図解」です。
文字中心の実用書を作ることもありますが、9割は図解を多用した本です。
文字だけの本を読むことに慣れていない人に向けた書籍や、図解があったほうがわかりやすいものを編集しています。

そして、私が携わっている実用書のほとんどは、類書があります。

類書があるということは、差別化が必要ということです。

私の場合は、主に

 構成の差別化
 見せ方の差別化

を組み合わせることによって、オリジナリティを出そうとしています。

今回紹介する「図解力」とは、さまざまな図解の中からどの図解を採用するかを選ぶ力です。

図解が多用されている実用書では、文章だけではわかりにくい部分を、図やイラスト、写真などを使うことで理解しやすくしています。

私の場合は、文章のシチュエーションを表した「イメージイラスト」ではなく、テキストの内容を図版にして、よりわかりやすく解説する「図解」が中心です。


どこを図解にするか

まず、「どこを図解にするか」を決めます。
これが図解力の第一歩でしょう。

著者自身が、原稿の時点で挿入している図表だけでなく、「この部分も図にしたほうがわかりやすい」と思ったときは、図解を増やします。

もちろん、「イメージイラストを入れたほうがわかりやすい」と考えたときは、その案を活かします。

ただし、私が編集している図解本には、見開き単位(2ページや4ページ)で展開する本が多いため、図版を入れるスペースも同時に検討しながら、決めていきます。

そのため、図解したかったけどあきらめるというケースもあります。

この「どこを図解するか」を見極める力が図解力の大きな要素なのです。

図解にはさまざまな手法がある

図解にも、さまざまな見せ方があります。

テキストを四角や丸、三角(□、○、△)で囲むだけでも、十分な図解ですし、矢印(→、←、↓、↑)でつなぐのも図解の一つの方法です。
引出線や吹き出しを使って解説を入れるケースもあります。

たとえば、以下の文章があるとします。

  定年後の働き方には、いろいろあります。
  ①いまの会社で継続雇用(再雇用)、
  ②別の会社に転職(再就職)、③思い切って自分で起業、
  ④配偶者にも働いてもらって夫婦2人で収入を増やすなどです。

これを図解したものが以下です。

『人生100年時代 50代からのお金の基本』P145より

上記では、テキストで紹介している項目にそれぞれ15〜20文字程度の解説を加えています。

この解説を加えるかどうかも、図解力の一つです。

上記のような□や○で囲って図版化したもの以外にも、さまざまな図解があります。

表も図解の代表でしょう。

罫線で囲んだだけの表も図解の一つの見せ方ですし、それを色分けすることもできます。

これらは編集者だけでなく、図版入りのビジネス文書、特に企画書やプレゼン資料を作成している方でしたら、日常的に行っている図解でしょう。

たとえば、以下の文章を図解するときの例を紹介しましょう。

  就業している人は、「15〜64歳:78.4%、60〜64歳:79.0%、
  65〜69歳:50.8%、70〜74歳:33.5%、75歳以上:11.0%」です。

これを表にすると、以下のようになります。


表にコメント(説明)を付けることで、「解説付き表」にしたものが以下です。


さらに、グラフ化して色をつけ、コメントを吹き出しで入れたものが以下になります。

『人生100年時代 50代からのお金の基本』P145より


上記の3つは、すべて図解ですが、どれを選ぶのかは編集者が決めます(著者と相談しながら)。

この本のケースでは、最後に紹介したグラフの案にしました。
この図解が「一番、読者にわかりやすい」と考えたからです。

この「どの図解を選ぶか」「そもそもグラフ化した案が浮かぶか」が図解力です。

もちろん、別の見せ方もあるでしょうし、そのほうが読者がわかりやすい可能性も十分にあります。
それこそ、10人の編集者がいれば、10通りの表現になるでしょう。
すべての編集者は、「読者にわかりやすい図版はこれだ!」と考え、決定しています。

いずれにせよ、「想定読者にわかりやすい図解」を考える力。それが図解力です。

とくに、類書の多い図解本を作る機会の多い編集者には、この図解力が求められています。
見せ方の違い = 差別化の一つだからです。

図解の世界も奥が深く、いつまでも考えられます。時間があれば、別の見せ方を考えられる。つまり、ブラッシュアップできるのです。

しかし、図解の実用書の場合、1冊の中に図版が50〜100、場合によっては200もの図が入ります。

この数を、刊行時期に間に合わせるように、次々に考えていくには、自分の引き出しに「さまざままな図解の案」がなければなりません

これの引き出しの多さが図解力です。

奥が深い分、終わりがありませんから、図解力を磨き続けることが、図解の実用書の編集者には必要なのです。

もちろん、私も、本・雑誌やネット記事などを観察し、場合によってはスマホのカメラで撮ったり、プリントアウトしたりして、インプットを続けています。

それによって、引き出しの中身を増やし、紙面にアウトプットできるように努め続けています。


今回は、「編集者が身につけておきたい15のスキル」の中から、「図解力」についてご紹介しました。
いかがでしたでしょうか。

今回の記事に使用した図解が使われている本は『人生100年時代 50代からのお金の基本』です。

https://www.amazon.co.jp/dp/440510414X/



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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