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出版編集の「揉めごとは対人コミュニケーションに尽きる」問題

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

編集者は、常に多くの案件を同時進行させているわけですが、その中でトラブルが発生してしまう案件も少なくありません。

本づくりの工程において、原稿を書くとか、ラフを切るとか、専門職ならではといえる作業に関するものは、それほど問題になることは少なく(質が低い・スピードが遅いなど個人の問題はあるけれど)、むしろ一般的な仕事と同様に、人と人とのコミュニケーションに関するトラブルがほとんどだといえます。

制作進行が思わしくない案件の背景には、必ずといってよいほど、人間同士の揉めごとが起こっているものです。

一冊の本の制作に関わる人数は意外に多い

書籍編集の仕事は、「ひとり黙々とデスクワークをすること」が中心と思われがちなのですが、実は制作には多くの人々が関わっており、編集の仕事で比重が高いのはおそらく「制作関係者との連携」だと思います。

編プロの編集者である私の立場から見ると、まず企画の責任者である「出版社の担当編集」と、「著者・監修者の先生」という2つの軸をなす存在がいます。この2軸が企画の核であり、この2軸間で制作全体をコントロールするのが「編プロの編集者」といえます。

また、制作陣には「デザイナー」「ライター」という本の品質を左右するキーマンがおり、さらに誌面のビジュアルを担う「イラストレーター」「カメラマン」「モデル」「スタイリスト」「ヘアメイク」といった多くのスタッフが関わっています。最近では制作に「出版営業」が関わるケースも増えていますね。

しかも、大規模な企画の場合は、複数の編集者でチームを編成する場合もあり、そうなると、関わる人数もそのぶん膨れ上がっていきます。

制作の中心となるのは、ディレクションを行う編集者(編プロが入る場合は、ほぼ編プロ編集者が担当)であり、すべての関係者にイメージの共有・意思統一を図りながら、完成に向けて作業を進めていきます。

関わる人数が多いだけに、対人コミュニケーションが重要になってくるのは、言うまでもありません。

永遠に未熟な新チームで臨む

本づくりは、一冊の本をつくるために、毎回「新しいプロジェクトチーム」を編成して、ミッションの達成を目指す、といったイメージが近いかもしれません。

ある程度慣れたメンバーで制作すれば、チームの熟成が多少は図れるものの、主軸のひとつである「著者・監修者の先生」は毎回変わるわけですから、毎回新チームで臨んでいるのと同じこと。キャリア年数を積んでも、トラブルが絶えないのは、「永遠に新チーム」だからに他なりません。

そうした前提であるため、初めて組む「出版社(編プロ)の編集者」「ライター」「デザイナー」など、「読めない因子」が増えるほど、プロジェクトチームに不測の事態が起こる可能性は高くなります。

突出した個性&初顔合わせゆえのリスク

こうして考えると、やはりトラブルの割合として多くなるのは、ほぼ毎回初めて組むことになる「著者・監修者の先生」とのコミュニケーションに端を発する問題といえます。

多くの人々を惹きつけ、著者になるほどの人物であるからには、やはり個性も人並みではないことが多いのは必然。編集者が「対人が苦手」と、腰が引けているようでは円滑なコミュニケーションなど不可能です。

「内容を根本から変えたい」
「この作業負荷は聞いていない(やらない)」
「この件から降りたい」
「担当編集を替えてほしい」

割と経験の浅い編集者の場合、著者・監修者側からこのような企画の進行を脅かす要求がなされ、私自身、相談を受けることも少なくありません。しかし、このようなケースでは、著者や監修者が個性的で特殊な人物だから理不尽な要求をしてきたとは限らないと思います。そこに至るまでの「サイン」が出ていたはずなのです。多くは、それを見過ごし、極端な結論を出させるまでに追い込んだ編集者側の責任であると、個人的には思います。つまり、コミュニケーションの不足です。

このようなトラブルは、著者・監修者に限らず、版元や編プロの編集者とも起こりますし、ライター、デザイナー、カメラマン、誰とでも起こります。

そもそもコミュニケーションの不足が原因なので、普通ならそうした問題に発展しないように「サイン」を読み取って、トラブルを未然に防ぐ行動に出るはずです。こうした「人の心を汲む」のが苦手という人に問題は起こりがちで、「トラブルを繰り返す編集者は、今後も繰り返す」という悲しい現実があります。

トラブル回避に特殊能力はいらない

では、なにかトラブルを回避する策はないのでしょうか? 
ということで、個人的に意識すべきだと考える「編集者のトラブル回避7つの行動」を挙げてみました。

  • ウソをつかない

  • 突然の(無理な)作業を要求しない(予告する)

  • 返事は素早く

  • 相手をしっかり理解する(話を聞く・勉強する)

  • できる線での現実をはっきり提示する(交渉する)

  • 約束を守る

  • 協力に感謝する

おそらく、これだけでほとんどのトラブルは回避できるはずです。というか、普通すぎる常識的な行動ですよね?

でも、いろいろなトラブルの原因を探っていくと、これらができていないケースがほとんど。人やチームをスムーズに動かすことに、特別な能力は不要というわけですね。

ここにスキル的なことは一切入っていません。原稿を書いたり、ラフを切ったりするのが遅いと問題が起きるのでは? と思う人もいるかもしれませんね。

でも、正直に早めに現状を報告し、できる線で交渉して、その期限(約束)を守れば揉めることはありません。期限を調整してくれたことに感謝すれば尚です。

忙しい監修者の先生であっても、原稿チェックの日程を早めに予告し、分量を知らせ、先方の都合に合わせて日程調整し、約束すれば、「これはできない、聞いていない、この件を降りる」なんて、特別なモンスターでもない限り、言うはずがありませんよね?

編集者の仕事には、いろいろと想定外の問題が起こりがちですが、コミュニケーションの常識さえ守っていれば、ほぼ未然に防ぐことができるのではないかと、個人的には思います。

文/編プロのケーハク

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