見出し画像

読者から支持される本作りに一番重要なスキルとは?

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、コミュニケーション力、憑依力、深掘り力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

その中で、今回は「憑依力」についてです。

では、詳しく見ていきましょう。


憑依力とは?

憑依力とは、読者に乗り移る力のことです。

これは、“いい本”を作るために一番重要なスキルです。

読者に乗り移るくらい、読者の立場に立つことができれば、必ずその読者にとってベストな本になるからです。

実用書の場合、読者の役に立つことが求められます。

憑依するくらい、その人の考えや気持ちを深く理解できれば、困っていることや欲していることがわかります

そのような求められていることを本の中で表現できれば、必ず読者の役に立ちます。


読者とは誰のことか?

では読者とは誰のことでしょうか。

本ごとに異なる想定読者、ターゲットです。
ターゲット読者を誰に設定するかによって、提供する本の形が変わります。

本づくりをするとき、ターゲットは細かく設定する必要があります。

同じ初心者の読者でも、人によって好みや理解しやすいものが異なるからです。

文字を読み慣れている人ならば、文章が中心の実用書が好まれるでしょうし、そうでない人にとっては、図解が多いほうが理解しやすくなります。

そのためにはペルソナの設定が必要です。

ペルソナとは、「その商品を購入する人のモデル像」のことです。
本の場合は、読者の絞り込みをして、モデル像を決めることになります。

ペルソナを設定するときは、イメージできる具体的な一人まで掘り下げていかなければなりません。

性別、年代、居住地、職業、趣味などだけでは足りません。
年収や家族構成、独身ならば恋人の有無、平日・休日の過ごし方、性格、ものの考え方、こだわり、通勤経路……などを掘り下げていくことになります。

もちろん、好きな本のジャンルや月に何冊くらい読むのか、といった本に関係することは必須です。

これらをしっかりと時間をとってターゲット読者を絞り込みます

私の場合は、具体的な1人の読者をはっきりとイメージできるようにするため、書き出しています。

たとえば、高齢者向けの本のペルソナをしたときは、

  •  今は元気だが「健康に不安がある」72歳の女性

  •  国分寺市駅から徒歩10分の場所に40坪の一軒家に夫婦2人で暮らしている

  •  住宅ローンは完済。貯蓄は1,000万円以上あり、2人とも仕事はしていない

  •  収入は、2人の年金をあわせて30万円

  •  公園などのゴミを拾うボランティアに週1回、参加

  •  子供は45歳の娘1人で船橋市に住んでいる。

  •  子供は18年前に結婚し、その夫は同い年で孫は16歳の男の子1人

  •  子供とは月に一度くらい会い、電話やLINEで週1回くらい連絡を取る

  •  週一、高齢の夫と2人で都内に出掛け、2時間の散歩しながら町を見て回る

  •  夫婦ともども魚が好きで、週に5回は魚料理を食べる

  •  書店には週1回通い、健康書、料理レシピ本、手芸本、小説を週1冊程度読む

  •  テレビは、国内旅行の番組と、絵画・博物館の番組が好き

といったようなことを、上記の何倍も書き出しました。

ひと通り書き出した後は時間をおき、翌日に「こういう人って結構多いな」と思えるかどうかを見直します。
「ちょっと特殊な人で、あまり多くないかも?」と感じたら、ペルソナで考えた項目を書き直したり、書き足したりします。

そうすることで、モデル像をはっきりさせていきます。

ターゲットにマッチした本にする

ペルソナの設定を行えば、そのターゲット読者にマッチした伝え方を考えられるようになり、読者が求める内容の本作りができます。

私の場合、図解する実用書が多いため、

  •  文字と図の割合をどのくらいにするのか?

  •  イラスト中心か? 図表中心か?

  •  イラストならタッチはどうするか? 

  •  図版のやわらかさはどのくらいにするか?

  •  言葉遣いはどうするのか?

  •  漢字の量や難しい表現をどのくらいにするか?

  •  専門用語をどのくらい使うか?

  •  どういう順番の構成にすれば、理解しやすいか?

など、どのような実用書にするかが見えてきます。

このときに注意点があります。

本は「汎用品」であるということです。

ペルソナを設定し、その人にあわせすぎると、その人だけにマッチした本になってしまいます。

たとえば、「ハローキティが大好き」という人をモデル像に設定した場合、使用するイラストはキティちゃんがベストになるでしょう。

しかし、そこまで狭めると「特注品」に近くなってしまい、購入する読者の絶対数が少なくなってしまいます。

そのため、一人のターゲット読者に絞りながらも、広げていく必要があります。
広げていくときは、メインターゲットの人が気にしない、許せるといった範囲で考えていきます。

この広げるときのサジ加減が難しいところでもありますが……。


憑依するためにすべきこと

ターゲットを絞り込んだら、その人に乗り移る努力をすることが必要になります。

その読者の気持ちを理解するために、読者の立場に立って深く考えることです。

一番いい方法は、実際に、そのような本を購入している読者に話を聞くことです。
その数は多ければ多いほど、憑依しやすくなります。

一方で、その本を買わないような人の意見は、あまり参考になりません。

つい、してしまいがちなことは、家族や友人、同僚のような身近な人に意見を聞くことです。
このような人たちの意見は、ターゲット読者と考え方が異なるケースが多いため、「そういう考え方もあるんだ」程度の参考にするくらいでちょうどいいでしょう。

ただし、そのテーマの本を買わない層でも参考になる人はいます。

代表的なのは、同僚の編集者。彼らの意見は、仕事柄、読者の立場で考える癖がついているため、参考になります。
普段から、お客さんの立場に立つことに慣れている人の意見も、役立つでしょう。

また、購買層の読者と同じことをするのも大切です。
料理レシピ本ならば実際に料理をする、英会話本ならば外国人と話してみる、糖質オフ本ならば糖質オフの食べ物を積極的に摂る、SNSマーケティング本ならばSNS広告から商品を購入するなど、実際に経験できることは自分でしてみることです。

そうすれば、読者に憑依しやすくなります。

企画した本のテーマと少し離れていても、その読者が好きなものを見たり、行動してみたりすることも役立つでしょう。

普段から、憑依力を身につけるための努力を続けることも重要です。

それには、想像力を働かせる癖をつけることです。

日々、相手の立場を考えることを試していけば、少しずつ力がついていきます。
相手の立場を、自分に置き換える練習も、憑依力アップにおすすめです。
相手を観察するように心がけることも、想像力に磨きがかかるでしょう。

しかしながら、憑依力は、一朝一夕では身につきません

もちろん、私もまだまだです。
「あ、想像力が足りなかったな」と反省することはよくあります。といいますか、しょっちゅうです。

それでも、憑依力が“いい本”を作るために一番大切なスキルと考えていますので、努力は続けています。
少しずつでも力がつくように、今後も訓練を重ねていきます。

ちなみに、憑依力は、本作りの場面だけに生きるスキルではありません。
仕事をしている人ならば、すべての人に必ず役立ちます。

あなたも、相手の立場で考える憑依力を身につけましょう



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

本づくりの舞台裏、コチラでも発信しています!

Twitterシュッパン前夜

Youtubeシュッパン前夜ch

この記事が参加している募集

編集の仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?