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発信者目線で「面白いだろう」と捻り出した本は売れず、こんな本が「必要だよね?」とユーザー目線でふんわり生まれた本ほど売れる問題

今宵、本の深みへ。
編プロのケーハクです。

主に実用のジャンルですが、これまでたくさんの本を企画したり、つくったりしてきました。

出版社からのオーダーを受け、企画立案から制作までマルっと一式請け負うわけですが、最近は「とにかくヒットする本をよろしく!」的な恐るべき依頼が増えてきました……。

特にはじめて取引をする出版社の場合は期待が大いに膨らんでいるようで、「すでに成功する気満々」で依頼してくることがほとんど。

こちらも継続的な受注がかかっているため、失敗が許されないようなプレッシャーのなかで、企画を提案し、より売れる確率が高い(と思われる)傾向を読み取りながら実制作に取り掛かります。

すべての場合、ヒットを期待する

で、シビアな話ですが、実際に数本連続で外したりすると、依頼の件数がグッと減ってきます。少なくとも3本やったら1本は当てないと、高い評価を得ることが難しい(並の編集者と思われる)と個人的には感じます。

厳しいご時世なので、並の編集者のままだと、私のような編プロ編集者の仕事はどんどん減ってきます。

今後、業界全体的に出版点数が絞られてくることが予想されますし、制作機会が減ってくれば、それだけ少ないチャンスをものにしてくれそうな「デキる編集者」に依頼したくなるのは必然です。

とうこともあり、私は、毎回必死かつ貪欲にヒットを狙っていきます。

しかし、そう、うまくは行きません。

自信を持って提案し、つくった本でも「震えるほどコケる」ことがしばしば。本を売ることはとても難しいとつくづく痛感します。

とはいえ、長年やっていると、なんとなく売れる傾向のようなものも見えてきた気がします。

震えるほどコケた編集者のヒットの法則

いわゆる、私(発信者側)が「この企画は面白い! 絶対売れる!」と知恵を絞って「捻り出したもの」ほど、コケやすいということです。

それよりも、読者(ユーザー)にとって、「こういう本は必要だよね?」と自然と「浮き上がってきた企画」ほど成功する傾向にあると。

企画を考えねば……という追い込まれた状況になるほど、「読者の必要」を無視した思考に陥り、発信者側の視点で「面白さ」を判断してしまうことがありませんか(私は陥りがち)?

実際「面白さ」ばかりに注目しても、その判断基準は個人によって大きく異なるので、予測が外れるリスクが高くなるのは当然です。

実用の場合は、特に読者にとっての「切実な問題」と、それを解決するために「絶対必要な対策」に目を向けたほうが、手に取ってもらえる確率が上がります。そして、その切実な問題を抱えている分母が多いほど、ヒットにつながりやすくなるのではないでしょうか?

例えば、新星出版社さんで企画した「サクッとわかるビジネス教養シリーズ」のケース。

この企画は、初めて役職に就いたり、責任あるチーム仕事を任されたりする30代のビジネスパーソンをコアターゲットにしています。

かつての自分もそうでしたが、30代のときは仕事の物量で体力も削られるし、人間関係の中心になることも増えて精神的に追い詰められることが多い時期です。

そんなとき、文字びっしりの本なんか読みたくもないし、読む時間も余裕もないというのが正直なところ(毎日の生活に必死)。でも、立場的に知識や教養の幅を広げることは必要で、どうにか1時間くらいでサクッとポイントを学べる方法はないかな〜と、悩んでいるのではないか?

というように妄想し、導き出したのが、「ビジネスに必要な知識や教養をビジュアルで直感的に理解できる本」。本好きの知識層からは嫌われそうな本ですが、やはりそういう本を必要としている読者はいたようで、現在もシリーズ本が続々と発売されています。

別のケースでは、小学館さんで提案した「世界一細かすぎる筋トレ図鑑」。筋トレをやっている人々は、基本的に目的意識や計画性というものを強く持っており、勤勉で筋肉の知識を追求することが大好きな傾向にあります。

正直、筋トレの知識はすでに既存の本から十分得ているだろうと考えました。必要なのは、日々のトレーニングで鍛えたい細かい部位の設定と、それに応えるたくさんのトレーニング種目。なので、普通は載せるべき理論的な解説(第1章的な読みもの)はできるだけ省き、より多くの種目を掲載する「超実践的な図鑑」とすることにしました。

また、トレーニーがジムに持ち込むことを想定し(紙の本はジム内に持ち込めない)、電子書籍のユーザーが多くなることも考えました。普通の本なら見開きでダイナミックに見せるページも必要なのですが、この本の場合は、電子でも見やすいよう、種目の解説は単ページ完結のレイアウトで構成することに。

このように、読者のリアルな生活シーンと、そこに生じる悩み、おぼろげに求めている解決策、どのように利用するかなどを事細かに妄想し、自然と浮かんできた企画が、結局はヒットする傾向にあるように感じます。

「人々の生活に寄り添う」という実用書の基本は、時代が変わったとしても、普遍的なものなのでしょう。

ですので、本を企画するときは、発信者側の自己満足的な面白さに溺れず、「読者の必要」に向き合っていきたいと思います。

ん? 今回のテーマは、どうやら反省か……。

文/編プロのケーハク

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