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編集者がプレゼン力を必要とするタイミング

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、コミュニケーション力、キャッチコピー力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

今回は、その中で「プレゼン力」についてご紹介します。

では、詳しく見ていきましょう。

プレゼン力を求められる3つのタイミング

実用書の編集者にプレゼン力が求められるタイミングには、大きく分けて3つあります。

 ①企画を通すとき
 ②著者・監修者を口説くとき
 ③営業部門に伝えるとき

それぞれお伝えしましょう。

①企画を通すとき

編集者が会社から期待されていることは「売れる本を作ること」です。

そのためには、まず企画を考えることから始まりますが、容易に売れる企画が見つけられるものではありません。
企画を生み出すため、編集者は常に考え続けているといっても過言ではないでしょう。
そのような中で、ようやく「これならイケるかも?」と見つけた企画でも、その裏づけのための調査を続けていくと「読者から求められてなさそうだ……」という結果が判明することがほとんどです。
企画書に起こす前に、自分の中でボツになる企画が山ほどあるのです。

そのような中でも、まれに調査結果の良好な企画が出てきます。
それを企画書に落とし込んで会議に挑みます。

このときに求められるのが「プレゼン力」です。

会議の参加者が全員「○」を出す場合は問題ありません。
プレゼン資料や会議の場での説明でみんなが「売れそう」と感じたり、プレゼンは今ひとつでも、テーマ自体が参加者の張っているアンテナに引っかかる企画であったりするケースです。

問題は「△」や「×」の意見の人がいたとき。このようなときに、プレゼン力がより求められるのです。

 ・なぞこの企画が読者に求められるのか?
 ・なぜ今なのか?
 ・お金を出してまで買っていただけるのか?
 ・どのくらいの数の読者に買っていただけそうか?

などを、簡潔に伝える必要があります。

これができないと、企画がボツになってしまいます。
プレゼン力のある人ならば「○」になって企画が通り、そうでない人は「×」となってしまうのです。

企画をプレゼンするためには、上記のような要素を過不足なくおさえ、「参加者に一番届きやすいものはどんなものか?」について、話す順番と同時に伝わりやすい企画書や客観的な情報が載っている補助資料を作っていきます。

そのときに、最も重要なのは事前の調査です。

「自分だけの思い込みではなく、実際に多くの読者が求めている」ということを客観的に証明する情報の収集です。

わかりやすいのは類書データ。売上数や刷り部数のような数値情報は当然ですが、客層、地域なども調べる必要があります。
ターゲット読者へのヒアリングも、できる限り行います。それも率直な意見を集めます。私の場合は、ビジネス書をよく読んでいる友人にヒアリングし、彼らから忌憚のない意見を聞いています。
ネットニュースやSNSの話題性、検索されている数、ネットコミュニティの状況といったネット情報も欠かせません。

これらの調査から得た客観的な情報を企画書や補助資料に落とし込みます。
ただし、これらは過去のデータ。本ができあがるまでには半年以上かかることが多いですから、6ヶ月後の未来に、その企画が売れるという資料につなげなければなりません。

どのような順番が、一番、参加者に届きやすいかを考える力もプレゼン力のひとつです。
これは資料だけなく、話す順番も大切で、その順番を決めるのもプレゼン力なのです。

プレゼン力を駆使して、編集者は企画を通していきます。

②著者・監修者を口説くとき

プレゼン力は、著者や監修者にオファーするときにも必須です。

「著者・監修者は、この人」と決まっている企画では、著者・監修者に参加していただかなければなりませんので、必ず口説く必要があります。

これまでに一緒に本づくりをしたことがある著者・監修者でしたら、スムースにいくケースが多いでしょう。

プレゼン力を求められるのは、これまで一緒に仕事をしたことがない、はじめての著者・監修者に依頼するとき。とくに、面識のないベストセラー作家にお願いしたい場合は、よりプレゼン力が求められます。

著者・監修者サイドが、オファーを受けるかどうかの決め手は、人によってさまざまです。
あえて分けるとすると、私は以下の3つの理由に分類されると考えています。

 ・その企画に興味があるか?
 ・報酬が適正か?
 ・編集者に情熱があるか?

これらを総合的に判断されると考えています。

著者・監修者が「その企画に強い興味をお持ち」であれば、まずOKが出ます。報酬金額が、著者・監修者の想定と大幅にずれていなければ引き受けていただけます。
もちろん、スケジュール的に厳しいというケースもありますが、そこは調整できるところでしょう。

プレゼン力が必要とされるのは「興味なくはないけど……」というケース。
このようなときは、報酬が重要な要素になります。

しかし、私が在籍しているような中小出版社は、大手のような高い印税を支払うことはできません。
さらに、図解の実用書では、著者・監修者以外に、イラストレーターやカメラマン、本文のデザイナーなど、さまざまな方にご協力いただきながら本づくりをします。そして、それらの方々の報酬も少なくありません。
予算がそれらの方々にかかりますので、著者・監修者への報酬は、テキストが中心の本のような金額をお支払いすることができないのです。
そうしますと、お金以外の面で口説かなければなりません。

そのとき大切なのが「編集者の情熱」だと思っています。

「なぜ、この本を出したいのか?」「なぜ、○○先生でなければならないのか?」を情熱を持って伝えることが大切です。

私が手がけている初心者・初級者向けの実用書は、類書も多数あり、著者候補・監修者候補も何名かいらっしゃいます。
その中で、「なぜ、○○先生でなければならないのか?」は重要です。
これを伝えるのは、プレゼン力以外のなにものでもありません。

このように著者・監修者にオファーを受けていただくために、プレゼン力が求められるのです。

③営業部門に伝えるとき

売れる本を作ることが求められている編集者にとって、自分が担当した本を売ってもらう必要があります。

書籍だけに限らず、世の中の商品の売れ行きは「商品力 × 営業力」の式で成り立っていると考えています。多くの読者に求められている本でも、営業力が弱ければ売り伸ばすことはできません。
ここでいう営業力とは、PR活動などを含めた広い意味です。

本を買っていただくルートはいくつもありますが、メインは書店の店頭とネット書店でしょう。
ここに営業するのは、編集者ではなく、営業部の人々です。
本の存在を告知するのは、編集者自身がSNSで発信するケースもありますが、PR部がある出版社ではその部門の人の力を借りるケースもあるでしょう。

つまり、編集者自身が営業するわけではないのですから、他の部門の人々に、その本の良さをしっかりと理解してもらわなければなりません。

そのためには、営業する他部署の人々が腹落ちするまで、きちんと伝えることが必須です。
実際に営業する人が理解していなければ、その先の人々、たとえば書店員さんに伝わるわけはありません。

書店業界も厳しいため、近年は書店員さんの人数が少なくなっています。
たとえば、数年前は「店長+社員+パートさん」の3名体制だった実用書棚が、現在は「店長+パートさん」の2名体制になっているという例は枚挙に暇がありません。

そのため、書店員さんへ営業できる時間も短くなっています。
忙しい合間の時間を、少しだけ割いていただくのが精一杯だからです。

つまり、短時間で、本の良さや読者に求められている事実を伝えなければなりません。

営業する人が、それをできるようになるには、営業部門に伝える編集者のプレゼン力が求められるのです。
ポイントがまとめられた簡潔な資料を準備し、それをベースにわかりやすく説明する。それによって営業部門の人々が腹落ちするまで理解する。それをベースに営業し、営業先が納得する。
このスタートが編集者ですから、プレゼン力が重要なのです。


上記①〜③で解説してきたように、編集者にはさまざまな場面でプレゼン力が求められます。
私もまだまだですが、プレゼン力を磨き続けていきたいと思います。


今回は編集者がプレゼン力を求められる3つの場面についてお伝えしました。
いかがでしたでしょうか。




文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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