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出版業界にもある。セクハラ、クソバイス、名誉男性であれとの同調圧力。

私が過去に受けた言葉による暴力、その後の二次加害について書きます。気持ち悪くなる人もいるかもしれません。実際に気持ち悪い、クソな話です。「あ、無理かも」と思った方は飛ばしてくださいね。でもできれば多くの方に読んでほしいから、気力体力のある方は最後までお付き合いください。知ってください。

「あんたのその顔と体、毎晩オトコとセックスしているな!」

入稿でほぼ編集部員全員がそろっていたある晩、ご機嫌で編集部に現れた某有名男性作家は、編集部に響き渡る声で言った。なめ回すように私を見て。
さすがに編集部はビミョウな空気に包まれた。その場に居る男性たちは、互いに目配せし、困った表情ながらうっすら笑いを浮かべている。そして私は一身に、「この空気を変えるのはおまえの仕事だ」との圧を感じた。

「何おっしゃってるんですか~。原稿をなかなか締め切りどおりにいただけないから、デートする時間もありませんよ~」

どうだろう、精一杯の“気の利いた”返しをしたつもりだが、空気が変わったかどうかはよくわからない。でも明らかに私の隣りに居たSさん(編集部のエラい人)はホッとした表情を浮かべたと思う。そのあとも、某先生は私のルックスについてわちゃわちゃ言ってたけど、トイレに逃げ込んだからよく聞き取れなかった。

ここまで読まれた方は、「あ~女性編集者が大物作家にセクハラされたけど、立場上文句を言えず悔しがる“あるある”話か」と思われたかもしれない。そのとおりだ。そのとおりなんだけど、某先生への怒りと失望は、「まあ作家だし。あれだけの傑作を書いているし。多少のゲスくらい許してやる」で済んだ(ほんとうは許しちゃいかんのだろうけど、職業病で、作家とか著者とかデザイナーとかには人としてのダメダメさをどうしても容認してしまう)。
私がいまも忘れられず、なんなら時々夢にまで見るのは、トイレ籠城後に「ねえねえ」と声をかけてきた、男性編集者のクソバイスなのだ。
(「クソバイス」参考=『アドバイスかと思ったら呪いだった。』犬山紙子 著、ポプラ文庫)

「さっきのあれ、◯◯先生の発言はさすがに引いたけど、ああいうのを適当にかわすのも俺らの仕事のうちっていうか、高い給料もらってるんだからあれくらいうまくあしらえないとあなた編集者としてこの先やってけないし、◯◯先生の表現は下品だけどブスとか言われるのよりはましなんじゃないの。あなたそこそこかわいいけど芸が無いから、この先も編集者続けたいならああいう体験もうまく利用して、作家から『こいつやるな』と思われるくらい賢くやって、そこですげえ作品立ち上げられたら初めて一人前(略)」

つまり、「名誉男性」たれ、とのアドバイスをされたのだ。
笑顔でサラリとかわしたり、「相手も悪気はなかったのだ、素直で正直なだけなのだ、むしろかわいいぢゃねえか」と擁護したりすべきだと。作家とは加害性を共有したうえで(したからこそ?)信頼関係を結び、すばらしい作品を生み出す場に立ち会う――それができてこそ“ザ・優秀な女性編集者”なのだ、とな。

いまならそれが完全無欠のクソバイスだと秒でわかるけど、当時の私はまだほぼ新人。ウブだった。「それ違うから」と指摘してくれる人もまわりにいなかった。当時の常識では、この男性編集者の言う内容がけっしてとんちんかんではなく、ほんとうに仕事のデキる女性の条件リストに上記の項目が入っていたのだ。
そして私はこっぱずかしいことに、“ザ・優秀な女性編~“とやらに、なりたかったんだ・・・・・・。

だから、努力して名誉男性になった。
セクハラされるのは、私がいつもニコニコしてゆるふわだからなめやすいのだろうと、あえて黒一色の服を着たり、笑顔を封印したりした。油断すると舌っ足らずな話し方になるので、NHKの深夜ラジオでキリッとしたしゃべりを学んだ。
そんな上っ面の自衛以上に、心がダメージを受けないように、何かあっても貝のように黙るかバカみたいに笑い飛ばすか、寝る前に甘いものを胃の中に流し込み脳をボーッとさせるかして、 “なかったこと”にしていた。

ところが、やっぱり私は“ザ・優秀な女性編~“とやらに、なれなかった。

名誉男性にならなくたって、じゅうぶん、編集者として働けるのは、いま私の後輩たちが証明してくれている。あのときあの男性編集者がとうとうと垂れた講釈は、大嘘だ。
声を大にして伝えたいのは、名誉男性歴を続けてしまうと、呪いが解かれたあと、とてつもないダメージを負う現実だ。メンタルに不調が出てきたり、自分を許せなくて自己肯定感がぐっと下がってしまったり。 “なかったこと”にしていた報いは、こういうカタチで現れる。

だから、こうしてこれからもしつこく自分の体験を書く機会をもとうと思う。私のフォロワーを生まないように。後輩たちの未来をふさがないように。

文/マルチーズ竹下

東京の出版社で、生活全般にまつわるアレコレをテーマにした書籍の編集をしている。韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』を見終えてバーンアウト中。ペンネームは、犬が好きすぎるので。

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