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編集者に必要な調べる力とはどんなものか?

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、コミュニケーション力、調査力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

その中でも「企画力」と「コミュニケーション力」の2つが最重要スキルであるこもとあわせてお伝えしていました。

今回ご紹介する「調査力」は、重要なスキルである「企画力」と関係が深いモノです。

では、詳しく見ていきましょう。

アイデアを本にするためには調査力が必須

書籍の企画では、「新しいテーマ」「流行っているテーマ」を見つけ出すことが大切です。

「好奇心力」によって、このようなテーマの存在に気づいたときは、それが本の企画として成立するかどうかを調べることになります。

企画を提案するときに「何人くらいの方に本を買っていただけそうか」を、ある程度、予測する必要があるからです。

そのため、それを裏づけるデータが求められます。

会議にて「本が売れそう」と思われなければ、企画を通すことはできないのです。

裏づけデータの王道は、類書の売れ行き

裏づけデータとして、一番わかりやすいのは類似本のデータでしょう。
企画として考えたテーマですでに出版されている本が売れていれば、現時点でニーズがあることになるからです。

出版業界で、代表的な書籍の売れ行きデータは書店のPOSデータです。

紀伊國屋書店グループのPubLineといわれる有料の売上データはその代表でしょう。
その他、三省堂書店グループや丸善ジュンク堂書店グループ、未来屋書店グループ、くまざわ書店グループなど、全国展開している書店グループから有料で提供されているPOSデータもあります。取次(出版業界の問屋さん)の日販やトーハンの有料データもあり、とても役に立ちます。

これらのデータから実際に売れていることがわかれば、「ハズレが少ない」ことの裏づけとして使用できます。

ひと昔前は、これらのデータで売れている本の類似本が多数出ていて、後発のそれらの本も売れていました。

しかし、年々、類似本がなかなか売れない状況になってきています。

類似本が出版されても、それまで売れている、一番はじめに刊行された本が、さらに売上を伸ばしてていくケースが多いのが現状です。

後発本が売れるためには、読者にとって魅力的な、大きな差別化が必須になっているのです。
差別化とはターゲットを変えることで、そのターゲットに魅力的なモノを提供することが求められています。実用書の場合は、内容の構成だけでなく、デザインやイラスト、図などによって、想定読者にマッチした見せ方が求められるでしょう。

このような自分の企画と似たテーマの本の売れ行きデータを収集することは、企画を提案する前の基本です。

企画を実現するための調査としては、この基本から始めるケースがほとんどでしょう。

その後、さらに売れそうなことを裏づけるためのデータ収集が必要となります。

この例は、次の項目で紹介します。

新しいテーマの裏づけデータに必要なモノ

まったく新しいテーマの場合、類書がありません。

そのため、本が売れそうかどうかを判断するのがむずかしくなります。

類書の売れ行きデータ以外のモノが求められるのです。

たとえば、

 ・SNSのトレンド上位になっている
 ・テレビで何度も取り上げられている
 ・雑誌の特集記事で取り上げられている
 ・読者が多いWebサイトなどで人気記事になっている
 ・コミュニティが多数ある

などが挙げられるでしょう。

これらをキチンと調べて企画書に盛り込んだり、別資料を添付したりすることが必要です。
売れている類書がある場合も同じです。類書の売れ行きデータ以外に、上記のような別の裏付けが求められます。

このときに大切な視点が

 ①本が発売される時期まで、そのトレンドが続いているか?
 ②本という媒体で、お金を払ってまで読みたいモノか?

でしょう。

書籍は企画から刊行まで、6カ月や1年程度かかりますから、人々の興味がそれまで続いているかを検討しなければなりません。

また、いくら流行っていても「無料だから」というケースは多々ありますし、「なかなか本を買ってまで情報を入手したくない方々だけに流行っている」ケースも少なくありません。

流行っているからOKではなく、これらをクリアする裏づけデータも必要となるのです。

このような調査は容易ではありませんが、ここでキチンと手間をかけないと企画を実現できません。

普段から「企画が通らない」と感じている編集者には、これらの調査力が足りなく、手間をかけていない方が多いのではないでしょうか。

ただし、例外があります。

会議のメンバーや決裁者が、その分野に明るい場合です。企画として提案されたテーマの知識を多く持ち、つねにアンテナをはっている場合は、企画提案者が収集する裏づけデータが少なくても、企画が実現するケースが増えるということです。

しかし、それを当たり前と思っていてはダメです。企画が通らないだけでなく、多くの読者が求める、売れる本づくりにもつながりません。

調べ抜く力は必要なのです。

調査力が求められる他のケース

調査力は、本づくりにも必要なスキルです。

特に、内容の裏どりをするときに調ベ抜く力は必須です。

初心者・初級者向けの実用書は、著者ではなくライターが原稿を執筆するケースがたくさんあります。

ライターは文章のプロですが、そのテーマのプロフェッショナルではありません。
内容についての専門家は監修者になります。

監修者が几帳面な方でしたら、内容チェックもキチンとしていただけるので問題ないでしょう。

しかし、性格が少しアバウトの方を監修者に迎えた場合は、要注意です。チェックモレが多数、生じるからです。
もちろん、几帳面な性格の方でもモレはあります。

そのため、裏どり、ファクトチェックが必要になってくるのです。

大手ならば社内に事実確認をする校閲を行う部署があるため、任せることができるかもしれません。
中小の出版社でも予算が多い企画でしたら、外部のプロに校閲を任せることもできるでしょう。

しかし、年々本が売れなくなり、予算が厳しくなっている実用書の世界では、外部に校閲をお願いする予算がとれません。

そうしますと、残っているは編集者だけです。

編集者がファクトチェックを行わないと、内容確認にモレが生じ、そのまま出版されてしまいます。間違いが残ったまま刊行されてしまうのです。
そのような事態を避けるために、調べ抜く力が求められるのです。

じつは、これが大変な手間で多くの時間をとられます。
裏どりは信頼性の高いモノで行う必要があるからです。

内容の真偽について、責任の所在がはっきりとしていないWikipediaなどは参考にはなりますが、裏どりの元データにはなりません。信頼できるところで事実確認をしなければならないのです。
信頼できるモノとしては、白書や公官庁のホームページなどのデータがその代表でしょう。

繰り返しになりますが、信憑性の高いところを探し出すのはカンタンではありません。でも、慣れてくると短時間で信頼できる情報にたどり着くことができるようになります。

このような裏どりを行うスキルも調査力のひとつです。

このように、内容の裏どりや企画の裏づけなどに調査力が求められます。
編集者が身につけておきたいスキルの一つとして調査力は欠かせないスキルなのです。



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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