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【詩】方舟はもう戻らない

そよご 冬青 風よんで
そよご 赤い実 そよ吹かれ
いい気になって おどったら
おっちょこちょいが ころんと落ちた

沖には 方舟 もう見えない
ぼくが乗るはずだった 舟
水平線で くるんとめくれ
地球の裏側 星の国
そよご 冬でも 青い葉が
消えた 赤い実 風に訊く
見えなくなった あの舟で
ぼくを探している人 いるのかな

方舟に乗れなかった者
すぐに死が来るのでしょうか
来ないとおもう人 手をあげて
そよごの葉陰 ふて寝をするのは
ぼくとおんなじ 
乗せてもらえなかった 外れくじ

さあ、これからだ 願ってしまおう
水平線のうらがわで 
方舟を待つ 大波大風大嵐
龍が嚙み砕くのは 簡単だ
ねえ、口に出そうとすると こわいね
少しだけ

方舟に乗れなかった きみ 
はじめて会ったときより
ずっと 気に入っているよ
島にはもう 二人しかいないからさ
暖かな風が 海からやって来る日には
野原の真中 ぜんぶ脱いじゃえ
もう誰も 駄目と言わないし

そよご 赤い実 火傷かい
血のいろにじむ いたずらかい
ふたりで蜜をすすり合っただけ
こうしてみれば 北風の真下でも
ぼくらは ほらね、春の蜂
鏡に映したみたいな 二人のからだ
すこしちがった 蜜のあじ
最後の日まで 
受粉の真似ごと、なぁんてね

そよご 青い葉 あたりを見ても
どれも 枯木さ 背をむけて
そよご 赤い実 おっちょこちょい
どこかの土で くちるだけ


冬青の実
冬にも青い葉があるので、この名前になったそう。
秋に熟した赤い実は、冬まで残って
色のすくない季節のかわいいヤツです。



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