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フィリピン医療の実態?を通して考えるフィリピンでのオフショア開発時のポイント

怖い話を聞きました。

先日、エネルギッシュな70代の日本人の社長さんと会食した際の話です。
この方はフィリピンで起業し、30年あまりシステム開発の事業を営んでいる敏腕経営者。さすがに30年もフィリピンで生活していると色々な出来事があるようで、フィリピンの酸いも甘いも光も影も知り尽くされているようです。
30年前というと、私が留学していた1999年〜2000年よりも更に前のこと。
その時代から生き抜いている方の蘊蓄や忠告はとても参考になりました。

たっぷり3時間の社長様の独壇場、、、
そのお話の中で特に印象に残っているのがフィリピンの医療実態についてです。
曰く、「フィリピンの病院は気をつけた方が良い」と。

なぜか。


社長:「入院したら、結構、コロッと死んじゃうのだよねー」
宿利:「!!!!!!? え? どういうことでしょう?」


社長様ご自身の経験や知人の事例などから幾つかの考えうる理由を教えて頂きました。
(*あくまでも社長様の自論です。決してフィリピンの医療関係者の皆様の献身を疑うものではありません)

■フィリピンの病院に注意すべき3つの理由

  1. 対症療法的である

  2. 衛生管理面の意識が低そう

  3. 優秀な人材が不足している



1. 対症療法的である。

日本で体調が悪くなり病院に行った際のことを思い出してみて下さい。
例えば私が先日発症した腹痛のような場合、まずは丁寧に症状や直近の食事、服薬履歴などをヒアリングされた後、触診等で診察します。更に、症状によってはレントゲンや腹部エコー、胃カメラ、生検等々から根本的な原因を追求することになるかと思います。その後、症状と診察結果に基づき、類似症例を含む様々な科学的見地及び医師の知見を踏まえた適切な処置を行うことになります。当然、ある程度の科学的根拠や根本治療につながる原因が判明した後に処置している訳です。(と、信じています。。。)
一方、フィリピンの場合はすべからく医師の経験と勘に基づく対症療法なのだとか。
初診でえいっと薬を処方し、ダメなら次の薬、それでもダメなら他の薬や方法を考える、、、と、基本的にいきあたりばったりなお医者様が多いようです。時には、処方した薬の副作用が発生し、その副作用の対症のために処方した薬の副作用でまた薬を処方し、、、と無限ループに入ることもあるのだとか。

ほんまかいな。。。

と、思う訳ですが、その社長様の知人の方が、節々が痛くて歩ける状態でなくなったために救急に駆け込んだところ、医者に処置してもらったものの一向に症状が改善しない。そこで、違う薬、違う薬、と試しているうちに、一週間ほどで亡くなってしまったそうです。
日本でも対症療法にならざるを得ない症例もあるかと思いますが、どこかフィリピンのそれとは本質的に違う気がしますね。そういえば別記事「マニラでの家探し」でもお伝えした通り、そこでも行き当たりばったりでした。

実はシステム開発の現場でも、一部でそうした事象が散見されます。
例えば日本人の開発者であれば、設計書を見て全体感を理解し、どう作れば良いかを先に考えてからコーディング(プログラミング/開発)に着手します。日本のシステム開発に携わっている方々からすれば、至極当たり前ですよね。。

一方で、フィリピンでは「とりあえず作ってみる」ところから始める人が多い様子。うまく処理が回らなければ、違う方法を試してみる。結果、違うところに影響が出てバグが出る。。。まさにモグラ叩き。それでは予定通りに構築できるわけがありません。
日本人の感覚からすると理解できない非効率的なアプローチなのですが、どうもそういうきらいがあるようです。さすがにこのアプローチの差については許容することが難しいので、少しずつ考え方やアプローチを変えていってもらうよう実務を通したトレーニングが必要な状況と言えます。


2. 衛生管理面の意識が低そう

フィリピンで病院に入院すると、なかなか病状が改善せず、すぐに退院することができないことも多いらしいです。
その社長様の知人の方が胆石か何かの摘出のために手術を行った際のこと、日本であれば腹腔鏡手術などで早ければ手術当日に退院するレベルの病気のはずが、一向に退院許可がおりない。一週間もするとだんだん顔色も悪くなり「これは何かおかしい。。。」と思い再検査依頼したところ、敗血症になっていたとか。つまり、手術した傷から何らか感染症を引き起こす細菌が侵入し、炎症を起こしていたのです。聞けば、病院の空調設備の問題なのか、看護師の衛生管理の問題なのか、院内で二次感染することも多々あるのだとか。
結果、その知人の方は別の病院に転院したものの、時既に遅く、しばらくして亡くなってしまったそうです。

フィリピンではコロナ禍前から誰でもサニタイザー(アルコール消毒液)の小さなスプレーを持ち歩いていて、しょっちゅう手を消毒しています。それでも大気中に漂う膨大な細菌類には対処できないということでしょうか。
真実の程は分かりませんが、日本の病院と比較して衛生面の管理レベルは低いと考えたほうが良いのかもしれません。

驚くのは、それがBGCという先進的な地域にある一番大きな病院での事例であったということ。
「最後の砦はこの病院」と言われる病院のようですが、それでもそのようなレベルだとすると、かなり怖いですね。
もっとも、フィリピン初心者の私のために社長様が「日本と同じ感覚でいてはダメだよ!」と注意喚起するべく敢えて誇張してお話くださったようにも思いますが(そう信じたい。。。)、それにしてもショッキングな内容でした。

オフショアでの開発に限ることではありませんが、システム開発の現場でも「二次感染」と同じ様な「バグの二次発生」への考慮はとても重要です。せっかく不具合を修正したにも関わらず、別の箇所に影響を及ぼしてデグレしてしまっては元も子もありません。目先のバグへの対処だけでなく他のプログラムや機能への影響も考慮した修正が求められますし、修正後にリグレッションテストを行うことによって、そのような「二次感染」が発生していないか確認する必要があります。
オフショア開発を進める際、フィリピンのメンバーに対しても、こうした「二次感染を未然に防ぐ為の考慮」について先回りして考えられるよう、その対処方法や状況について日本のメンバーと意識合わせしておくことが重要かと思います。なにせ、日本の「当たり前」=フィリピンの「当たり前」ではありませんので。

3. 優秀な人材が不足している

ご存知かもしれませんが、フィリピンの公用語は実は「フィリピノ語(タガログ語)」ではなく「英語」です。フィリピノ語は「国語」なのです。その為、小学生の頃から皆英語で授業を受け、授業中や廊下などでも英語で話すことを求められます。結果、よほどの田舎か教育を受けることのできない貧困層以外は全員英語を話すことができます。
この英語力こそ、フィリピン人材の付加価値を高めている大きな要因と言えます。
言い換えると、優秀な人材であればあるほど、この付加価値である英語力を活かし、高い収入が期待できるUS等の英語圏に出ていってしまうのです。
社長様曰く、「結果、母国フィリピンに残っている医療従事者は、そこそこレベルの人しかいない」のだと。

なるほど、理に適っています。

ただ、さすがに日本と同じ規模の人口を誇るフィリピンですので、これだけの労働人口がいれば優秀な人材の全てが海外へ行ってしまうという訳でもないのかなと思います。
実際、システム開発の現場で働くフィリピン人の同僚を見ても、技術力は皆高く優秀です。
もちろん、前述のように「考え方の違い」や「言語の壁(日本語力)」、「システム開発アプローチの文化的背景に基づく違い」(例:請負文化 vs. Time & Material文化。別記事参照。)などから認識の齟齬によって品質に影響を及ぼすことがあるのも事実です。
実際、日本のプロジェクトメンバーから「生産性が低い」「期日通りに対応できない」と指摘を受けることもあります。しかし、多くはミスコミュニケーションにより発生した不具合への対処とリカバリーに時間を要しているケースのように思われます。
そうしたミスコミュニケーションに起因する課題は、この先一緒に仕事をする機会が増えれば増えるほどお互いの理解が深まり、ある程度自然に解決していく部分もあるでしょう。

とはいえ、こうした課題は、日本のメンバーが英語でコミュニケーションを正しく取ることができていれれば起こり得なかったことかもしれません。
いや、「正しい英語」である必要はないのです。
フィリピン人とて英語はあくまでも第二外国語であり、家族や友人とはフィリピノ語で会話しています。日本語については日本のプロジェクトのために少しでもコミュニケーションを円滑にしようと必死で勉強してくれている訳です。英語圏の仕事でも十分に高い収入を得ることができる中、敢えて日本以外では使えない日本語を勉強してくれていることに、感謝しこそすれ、、、、と言っても過言ではないのではないでしょうか。
そう考えると、小学生時代から曲がりなりにも英語を勉強しており高い教育水準を誇る日本人が「英語は話せないので、日本語前提でお願いします」と開き直ってしまうシーンを目の当たりにすると、少々残念な気持ちになってしまいます。
せめて、先進国としての意地を見せて英語でのコミュニケーションにトライしてみる姿勢を持ってほしい。拙い言語力でありながらもお互いがお互いを分かり合おうとするフラットな姿勢があれば、たとえ正確な言葉でなくても、コミュニケーションの齟齬による不具合の発生やバグの二次発生による後手後手の対応も抑えられるように思います。


そんな訳で、社長様よりお聞きしたフィリピン医療の実態?のお話に驚愕しつつ、フィリピンのオフショア開発現場の状況と重ねると、なかなか考えさせられる考察を得ることができたのでした。
これぞ生産性改善や品質向上の鍵のようにも思う今日この頃です。

ではでは、今日はこの辺で。
Bahala na! (なんくるないさ!)