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飛び散る、怒り

免許更新センターで記入用のペンが有料であることが引き金となり対象構わず怒り狂う話。

僕大阪住んでた頃なんでもう、10年以上前なんですけど、免許の更新やいうことで、ま行ったんですよ。でそん時はね、なんかね車で来ないで下さいてハガキに書いてるんすよ、でなんでや思て行ったらもうなんか工事中やいうて、でもう全部改装してますーいうて、で、ご迷惑お掛けします、あなるほど駐車場も工事車両で潰してるから無いんやなーということで、まあまあ更新して終わってたんですよ。で3年後、また来たんですねハガキが。ほで今度は車で来なって書いてないんで、車で行ったんすよ。ほなこう段々近づいてきたときにですね、もうなんやキレーな建もんになってて、でそのライトがこう照明がこう見えるんすよ。なんかちょっと段なったとこに、夜これライトアップしてる感じになってるやん、何を金掛けとんねん!でまあ駐車場も綺麗やから、ま、ま広いし、停めるとこあったからまいいんですけど。で入って、で1番の窓口行って、で1300円か2000円か払て、であのこれ書いて、3番行って下さい、で、ほでそこの後ろの台のとこで書いて下さい、台のとこ行ったらこう斜めにこう書く、立ったまま書くとこあって、でペンケースみたいなんあって向こうもこう向かいっ側から書けるように斜めなっとんすよ、でこう横長い。でペンケースにペンないんすよ。なん、なんでないねんペンどこにもないんすよ。3年前はあったんすよ。ほで1番の窓口行って、すいませんあのペンないんですけどーって言ったら、100円です。はぁ?、いやいや。貸して。なんでペンお前これ書くだけ、なんで100円払わなあかんねん、おかしい、ペンケースがあるやんけ、なんであんねんペンケース。いやすいませんあのー皆さん買って頂いてるんで、下見たらもう大阪の奴らがもう泣く泣くキレながら買うたんか知らないですけど、そこの購買部みたいになとこで買うたボールペンの袋いっぱい落ちてるんすよ。でもう皆んなそれペンケースに置いて親切で行ったらええのに皆んな腹いせに持って帰っとんすよ。やらしい。ほでお前これお前キレーーな建もん建てて、夜ライトアップできるように施設まで、しくさって、この上まだボールペンで金取んのかと。あかん。貸せ。いやもう皆さん買って頂いてるんで。書いてへん。ハガキにボールペンとか。いやよくご覧になって頂ければ。駐車場の意識ばっかりあったからよう見たら黒または赤のボールペン持参って書いてあんねん。んあああぁ!ウチに無いねんボールペン、無い人どうすんねん、だから貸せ。いや申し訳ございません、これあのじゃあそこまで仰るんでしたらあの12番の窓口行って言ってもらえますか?言うて。で、分かった。でそいつ1番の奴ボールペン2本ぐらい挿してるんすよ。それ貸せやだから。いやあのこちらの方は(ダメです)言うて、12番の方にお願いします言うて。分かった。ほな12番行ってあかんかったら、それ貸せよ。約束ひとつしとこ思て。ほんならその女が、、分かりました。だから今貸せや!!


四方八方に散る怒り

この話の面白さは、関係のないものまで怒りの対象になっていること。なぜペンが有料なのか、という怒りは3年前の施設改装に遡る。

ライトがこう照明が見えるんですよ。夜これライトアップしてる感じになってるやん、何を金掛けとんねん。

この怒りは一般的に正常なもので、そこそこウケる掴みの部分。共感指数としては平均台。しかし木村は、それとは直接結び付かない部分にも怒りを散らす。ここが凄い。

例えば、

・買ったペンを親切で置いて行かない奴ら
・頑固にマニュアル接客をする職員の奴
・小さく書かれた持参物の注意書き
まさに木村祐一の真髄。

これ以外にも直接怒りは表していないけれど「それにもキレんの?」っていう面白さもある。それは次の項で。

 

彼をモデルに作ったんじゃないかと思えてしまうような映画(「フォーリング・ダウン」)があるんですけど、これ大好きなんですよ。

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平凡な中年男性が、些細なきっかけと偶然の積み重ねからストレスを爆発させ暴走する様を描く。Wikipediaより

この映画と木村から学べることは、公平性と偏見(常識と非常識 )それぞれの円が交差した部分が面白いということ。つまり、なんで怒ってるのか理解できるけどそんなにキレること?みたいなバランス感覚。個人的には強引に論理立てた偏見の笑いが好き。これは共感ディテールの採用基準のひとつと言えるかもしれない。

ウチにないねんボールペン、ない人どうすんねん。

これは完全に非常識に寄っているし、分かるけど強引ちゃうかってなると思います。でもここまでくると常識的な理論からは外れても、積み立てた怒りの勢いだけでいくらでも笑いになってしまうのが面白いところです。

 

イヤミな説明過多

「関係ないものまで怒りの対象になっている」ことの可笑しみ。ひとつ大きな怒りに直面すると、もう周りのすべてに苛立ってくる現象。経験あると思います。

台のとこで書いて下さい。台のとこ行ったら(中略)向かいっ側から書けるようになっとんすよ、でこう横長い。

この説明いる?っていう。

これ書類記入用の台について説明をしてるんです。同じく不満げな口調で。別に記入用の台が後に関係することはありません。ブチ切れしすぎて関係のない台にまで怒ってるんじゃないかと思うと、段々面白くなってきます。

 

木村流の文法

ガキの使い「浜田雅功の快脳!マジかるハマダ」ダウンタウンの理不尽シリーズのひとつ。

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理不尽な要求に応えられなかったガキメンバーが楽屋に帰った浜田に謝罪しに行くという展開。その中で松本人志がこんな言葉を残しています。

こいつらもう謝りの気持ちが強すぎて文法分からへんようになっとるなっていうのがあいつ大好きなところやから。

そして、月亭方正が謝罪します。

浜田さんが寝てはって、その骨が好きなテイだという浜田さんの気持ちで、浜田さんは寝てはってて、僕らがその骨を取ろうとして、浜田さんの寝てはってたっていう。

滅茶苦茶です。何言うてんねんお前さっきから、と案の定めちゃくちゃ怒られます。

文法を守っていない文章は人を惹きつけます。僕はそう信じてます。意識的に守らないのではなく感情が高ぶりすぎて滅茶苦茶になった文法が魅力的で面白いんです。その法則を応用すれば意識的に人間臭い文章は作れます。

 

木村さんの場合、この文章です。

なんでペンお前これ書くだけ、なんで100円払わなあかんねん、おかしい、ペンケースがあるやんけ、なんであんねんペンケース。

これです。この無秩序さが本当に大好きで、文頭に「なんで」「おかしい」と感情的なワードが優先されてるんですけど、「なんでペンお前これ書くだけ」の文法を正すと「お前、なんでこれを書くだけのペンに」となります。これだけ荒らしても意味は伝わる訳です。

 

+α 木村語

来なっ・しくさって・腹いせ

・来なっ(くなっ)
来るなっの一文字省略ですけど響きも鋭いし他の動詞でも応用できそうで、単発で笑かすワードとしての威力はデカい。

・しくさって
木村らしい嫌味な表現。しやがって、より灰汁が強いというか攻撃性が強い。

・腹いせ
腹癒せ=怒りや恨みを他の方に向けて紛らせ気を晴らすこと。使っていこ。

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