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高齢者施設の特性からCOVID-19感染対策を考える:文献クリティーク

今回ご紹介する論文は、2020年5月、The New England Journal of Medicineに掲載された、高齢者施設におけるCOVID-19集団発生時の疫学調査についてです。

疫学調査とは

”感染症の疫学調査は、感染症の流行が起きたときに、患者がいつ、どこで、どのような人にどのくらい発生しているか、どのように感染したかなどについて調査をします。病気の性質を知って、対策を決めるために必要不可欠な調査です。どのような人が病気になりやすいか、どのような場所で患者が発生しやすいかなどを知ることによって、感染を予防するための対策を立てることが可能になります。”                       引用:日本疫学会, https://jeaweb.jp/covid/glossary/index.html#ekigakuchousa

論文タイトル

“Epidemiology of Covid-19 in a Long-term Care Facility in King County, Washington”

論文の概要

背景
長期療養施設は、入居者が高齢で慢性基礎疾患を有する割合が高く、また、医療従事者が地域の施設間を移動するため、COVID-19集団発生によって重篤な転帰をたどるリスクが高い環境である。

方法
ワシントン州キング郡の介護施設でCOVID-19の確定症例が確認された2020年2月28日以降、シアトル・キング郡公衆衛生局は、CDC支援のもと、症例調査、接触者の追跡、曝露者の検疫、確定症例・疑い症例の隔離、現場での感染予防と制御の強化を開始した。

結果
3月18日の時点で、入居者101名、医療従事者50名、訪問者16名の計167名のCOVID-19症例が確認されており、この施設との疫学的なつながりが確認されている。入居者のほとんどの症例がCOVID-19に一致する呼吸器症状を有していたが、7名の入居者には症状がなかった。入院率は施設入居者54.5%、訪問者50.0%、スタッフ6.0%であった。入居者の致死率は33.7%(101症例中34例)であった。3月18日の時点で、キング郡ではCOVID-19の感染が少なくとも1件確認された長期療養施設は合計30カ所確認されている。

結論
COVID-19の感染が急速に拡大している状況下では、長期療養施設へCOVID-19の持ち込みを防ぐために、感染の可能性のあるスタッフや訪問者を特定・除外し、感染の可能性のある患者を積極的な監視と、適切な感染予防・管理対策を実施する措置が必要である。

COVID-19パンデミックにより世界中が混乱する中、確かな情報の発信を可能とする専門チームの存在

米国の疫学調査チームには長い歴史があり、教育を受けた人が国内に配置され学術レベルも高いことから、感染症発症時には、専門家が現場に入り込み、対策と調査までが迅速に行われる体制が整っていることも学びました。本論文でも、公衆衛生局とDCDが現地調査に入っていました。

そして、COVID-19の地域での集団発生事例に関する報告はこれまでになく、高齢者施設における感染対策の参考となり、社会貢献度も高い論文でした。<被引用数934回(2021年6月17日現在)>

今回の論文の評価は…

臨床活用度 A                           論文の評価 A

論文の評価の理由とディスカッション内容

施設をまたぐ感染の拡大の経時的な流れが図で示されており分かりやすく、初動対応が感染拡大防止につながるなど多くの学びがあったことから、臨床活用度・論文の評価ともにAとしました。

参加者の感染管理認定看護師や大学教員は自施設だけでなく、地域での感染対策の役割も担っています。高齢者施設では、情報をどこで入手すればよいのか分からない、情報共有できる相手や場を求めていること、そして、少ないスタッフで介護度の高い高齢者のケアを行っている現状から、高齢者施設の特性を踏まえた感染対策を行う必要性についてもディスカッションしました。感染管理認定看護師、研究者として何ができるのか、改めて考えるきっかけともなる論文でした。

書誌情報
May 21, 2020 N Engl J Med 2020; 382:2005-011 DOI:10.1056/NEJMoa2005412

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