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vs横浜F・マリノス

【今節を振り返りたくなった理由】

今季のセレッソはサッカーのあるべき姿の1つであるエンターテインメント性に溢れている。それが今季のサッカーを見返してまで振り返らなくなった理由の1つである。(仕事が忙しいとかロティーナ解任をまだ引きずっている、という理由ももちろんあるが…)例えば心揺さぶる映画をあれやこれやと理屈で語ってもサブくなるだけで、今のセレッソのサッカーを僕みたいなド素人があれこれ書いても中身が薄く、敵チームの見直しにしかならないなぁ、と思っていた。エンタメは心で感じるもの、というのが僕のポリシーなので、セレッソを見てその場で心を揺さぶられればそれで良いし、それもまたサッカーの大事な一面だろう。特にコロナになって、当たり前だったスタジアムでの感情(前向きも後ろ向きも)を爆発させる瞬間がなくなり、改めてスタジアムでサッカーを観戦し、周りの知らないサポーターと一緒にハイタッチしたりするあの素晴らしい空間が懐かしく思える

ただ、今節のセレッソは様々なトラブルが発生し、セレッソは昨年のようなロジカルなサッカーを繰り広げた。ただ別にエンタメ要素が減ったわけではなく、若手や新加入選手がチームのピンチにおいて激しく戦う姿勢を存分に見せてくれた。要は心を揺さぶられつつ、頭もフル回転させてくれるような面白い試合だったのである。結果を除いて。

ということで久しぶりに試合のレビューをツラツラと書いてみたい。そんな試合のメンバーは下記の通り。進藤、新井、松田力が今節抜けた選手の穴を埋め、ベンチにも山田、中島、松本などのこれまで出場機会が限られている選手が入った。

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【マリノス~王道の最短距離でのポケット狙い】

マリノスが目指したい形は「ポケット(ハーフスペースの奥)」→「ゴール前」の王道ルート。ただ、この設計図は前後半やメンバー交代で少しずつ変わった、と見ている。

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何パターンかあったが、前半は両サイドが共に同じ形を採っていた。1つは「大外にWGが張り、勝負に勝ってポケットに侵入してセンタリング」のルート。これは両WGが個人で勝負できるスピードがあるからできる技。その時、ポケットを取ればCFと逆サイドのWGが詰めることを徹底していた。

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左右で違った点は畠中とチアゴが共に右利きという点で、左サイドはCBからの一本で松田の背後をエウベルが狙えるが、仲川へのパスはセレッソ側に流れてしまうので一本で狙えない、というところだろうか。(清水戦のレビューご参照)

とは言え、1vs1の勝負に絶対はない以上、勝負できない時のルートが必要になる。それは大外に張るWGがボールを持ち、ハーフスペースにSBやIHがインナーラップしてポケットを取ってセンタリング、というルート。

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そして深さが取れてもポケットを上手く取れないなら、後ろに戻して大外からのセンタリングという第3の矢を準備していた。

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じゃあこれが効果的か?と言われると、(結果論に過ぎないが)恐らく多くの人が「効果的ではなかった」と答えるだろう。何度かピンチを招いたが、マリノスのサポーターは「持っているけど攻めあぐねている」と感じ、セレッソのサポーターは「持たれているけど危ないところは守れている」と感じていたはず。一本でも惜しいシュートが決まっていればそういった印象はないだろうが、なぜ上手くいかなかったのか?をセレッソ側の視点で少し考えてみたい。

【セレッソ~遺産のブロックと個人のブレンドで迎え撃つ】

多くの人がなんとなく気づいているだろうが、セレッソは原川がいた時と藤田がいた時で大きく変わっている。当然ロティーナに仕込まれていた藤田、奥埜のラインになればロティーナの残り香を感じさせるし、原川になればクルピの好みで前へのアグレッシブさが増す。ここはパエリアが好きか、シュラスコが好きか、くらいの話でしかないので、そこに良し悪しや正解はないと思っている。勝つためには点が必要だし、失点しないことも重要になってくるが、それを両取りできないのがサッカーの難しさと面白さだろう。

今節のセレッソのブロックはボールを持つことができる強いチーム対策の王道である「外回りの許容」⇒「ポケットの遮断」がテーマ。なので前から順に追って見てみるとFWはCBへのアプローチをほとんどせず、確実にボランチを消すことを徹底する。こうすればCBは中央突破を諦めて外回りを開始してWGにボールが渡る。これができればFWのタスクは完了。今季のセレッソはこの1stディフェンスが上手くいっている点で前からの守備は比較的安定している。

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先ほど述べたようにここでマリノスのWGは仕掛けてポケットへの侵入を好むが、ここはセレッソの両SBも全く引けを取らなかった。松田陸はその能力の高さをここ何年も見せ続けているのですべてのサポーターがそのクオリティを熟知しているが、新井もまたそれに引けを取らない選手だった。その自信は試合後の「守備については、ある程度、自分がストロングにしている部分は通用しました」というコメントからも伺える。

縦への個人突破で縦横無尽に切り裂けなかったマリノスは次にIHやSBがポケットを狙ってくる。ただポケットを取るだけでは不十分で、この時に侵入するマリノスの選手はマークを外さないといけない。その理由はパスコースの問題(マーカーが間を埋めてしまうと、パスを出す空間が狭い⇒出し所が選手の頭上を超すしかない⇒ゴールラインに近いので、浮き球はたいてい外に出てしまう)と中の選手がマークを外した一瞬で勝負を決める必要性があるので、ラストパスはダイレクトであることは必須となる。しかしここでは、WGにセレッソのSBが誘き寄せれられて外に釣り出されても、セレッソのボランチが付いて行くので大きな問題は起こりにくかった。

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しかし、マリノスは国内トップクラスの矛を持っているので、絶対にポケットへの侵入を防げる保証はない。そんな状況でもみんなが意識高く立ち位置を守って対応できていたので、ピンチで失点しなかったのだろう。ここはメンバーが変わってもできることを示しており、中断期間のチームの進化が見えた点だと感じた。昨年まではポケットを取られても、藤田やデサバトの足元にボールが吸い寄せられ、まるで相手が彼らにパスをしたようにトラップしていたシーン、そして相手の中へのパスがやたらとヨニッチ、瀬古にぶつかるシーンが多かったと思う。その配置はポケットのボールホルダーに対峙するSB-ゴールエリア角に立つCB-深いマイナスを遮断するボランチの3枚によるL字配置が鍵となる。

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この位置関係を保てていれば中へのパスはピンポイント出ない限りセレッソのDFにぶつかるし、仮に内側にカットインされても、松田、進藤が前へ出てブロックに入れる。そのためシュートはファーに巻くボールか股下を抜いてニアをぶち抜かれる以外ほとんど起こらなくなる。

そしてマリノスの最後の矢、深さを取ってから後ろに戻してセンタリングを繰り出すが、セレッソは中の高さと枚数で勝てていた。

【マリノス~ポケットへの道が混雑するなら、ルートを変えるべし】

高さがない以上、マリノスのルートが「ポケット」→「ゴール前」であることには変わりはない。何度か惜しいチャンスを作っていたので、ポリシーを貫き通すマリノスなら後半も愚直に王道ルートを最短距離で攻めてくるかと思ったが、ここでマリノスのナビは「別ルートでゴール前を目指そうよ」と示してきた。そしてそのルートは左右で少し違っていたように感じる。

まず右サイドの仕組みだが、「WGが少し下がって幅を取る」⇒「WGの前にIHが侵入する」⇒「IHがそのままorWGが大外からポケットを狙う」という3段ルート。5レーンは同じ列に並んではいけない、という原則があるが、これはそのルールを少しだけ破った亜種。ゴール前への侵入には少しの手間暇がかかるものの、セレッソのボランチが付いてこないなら、IHがそのままポケットへ侵入すれば良いし、付いて来る場合でもセレッソのブロックを崩して深さを取れる、という観点でセレッソのボランチが果たしてどこまで付いて来るかを確認したかったのだろう。マリノスは後半開始15秒で早速その形を繰り出してきた。

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ただ、このネックは大外からポケットを狙うのが個人突破が特徴ではない喜田だったこと。新井の背後は取れてセレッソのブロックが少し崩れたが、セレッソは藤田が付いて行くことでポケットへのコースを消してしまうので、ルートを変えてもポケットを侵入することはできなかった。

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そして反対の左サイドは前半みたいに奥深くのポケットを回避する。まずはエウベルや高野の推進力を活かして「セレッソのブロック間隔を広げさせる」⇒「深さと幅を取る」⇒「ペナ角に戻して、そこから天野や扇原がクロス」というルート。大外には前へスピードで運べる高野とエウベル、IHには天野や扇原というピンポイントでボールを蹴れる選手がいるからこそできる技だろう。選手の特徴とチームの形をしっかり融合させているマリノスらしい攻撃だった。ただ、やっぱり高さと枚数不足という問題は解消せず、ゴール前へボールは飛んでくるが、セレッソも守れている、という状況が続いていた。

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とは言え、このルート変更によってセレッソは前半以上に押し込まれることになる。これまでは最短距離でポケットを目指していたため、ポケットを狙う部隊が遅れたらやり直してくれたマリノスだが、後半は「セレッソが取りに来ないなら」ということで少し時間をかけてセレッソ陣内に侵入してきた。そうなるとマリノスがやり直す回数が減るので、セレッソは常に自陣に押し込まれることになってしまった

ただし、守備の基本形が崩されたわけではないので、セレッソは押し込まれる時間が長くなっただけでピンチが大きく増えたわけではなかった。そのためこの試合は1点がモノを言う展開だろう、と感じ始めていた。

【その後の後半をザっと・・・】

セレッソの2トップは前半から守備で多大な貢献をしつつ、決定機も何度か作れていたが、押し込まれる展開になって後ろとの間延びが顕著になってしまった。そのため、セレッソは奪って蹴り返しても、2トップに入らない&奪われるという展開が続く。特にハイボールを蹴り込んでも日本屈指の強靭な2CBに対して、肉弾戦が強みではない2トップは相性が悪かった。なのでここで山田、加藤の2トップになれば、もう少し競り勝てるだろうから、このしんどい展開を解消できるかも?と思ったが、小菊コーチの選択はJ1デビューの中島。苦しい展開でもミドルで一発決める力を持っているので、これもまた面白そうな選択だな、と思った。ただ、やはりマリノスの迂回ルートに苦しみ、セレッソが押されて回収して蹴り返すという展開は変わらない。

その後、加藤や山田も入り、空中戦で何度か勝ちつつ、時には空中戦を回避して攻め入るもマリノスの厚い壁に阻まれた。そんな拮抗した展開が続く中、ルーズボールは残念ながらオナイウの足元へ。セットプレーで決められ、時間を上手く使われて万事休す。相性の良かったマリノスに久方ぶりの黒星を喫した。

【試合後の感想をツラツラと】

セレッソは良く戦えていたと思う。ただ、ブロックを自陣深く敷くなら、やはりビルドアップで自陣から回避する能力は押し返すためにも必要不可欠だと感じさせられた。

そんな苦しい試合でも輝いていたのが、進藤、西尾、新井の3人と後半から出てきた山田、加藤。進藤はさすがというクリーンな守備を繰り出し続け、西尾は得点ランキングトップの前田に一切仕事をさせなかった。新井は昨年の片山を見ているように、前後への運動量が多く、肉弾戦でも一切負けていなかった。山田と加藤は強い相手にも競り勝っていたし、後半からゴール前への勢いを付けてくれた。クルピはメンバー固定制だが、これらのメンバーが戦えることを示したことは、今後の戦いにとってのポジティブ要素だろう。そして元彦はもっとできるはず。これは期待を込めて。確かに強靭なCBに競り合いを求められる展開で交代出場後は少し苦しんだが、力で持って行くシーンは観ていて後押しさせられる。J3時代や新潟時代のプレーがJ1で繰り出されることを今か今かと待っている。

最後に、みんな大好き水沼宏太が特異な存在であることを改めて確認した。ハッキリ言って背も高くないし、足もサイドアタッカーにしては速くない。かと言って足元の技術やドリブル能力がずば抜けて高いわけでもなく、ほとんとどのプレーが右足一本。プレーに気迫は感じるとても応援しがいのあるモチベーターだが、気迫だけでプロのサッカー界で通用できるはずがない。でも常に2桁近いアシストをする。なんでかな?とずっと思っていたが、やっぱり水沼のキックはちょっと異次元なんだと思う。

マリノスに限らず攻撃側がポケットを取りたいのは、そこから中央へのパスは中々ズレないし、仮にズレても相手に当たったり、味方が身体を投げ出してゴールインしてしまう(=得点に繋がる確率が高い)から。だからこそ「大外からのクロスの出し手と受け手はお互いに点と点で合わせることを狙うのではなく、受け手は複数名で面を作って中に入り込み、出し手はその面を目がけて狙いなさい」と言われる。これは出し手も受け手もミスをする前提で多少のズレをカバーできるからである。だが、水沼は大外からでも平気で受け手が作った面の中にある点をピンポイントで狙撃できる。思い返せばセレッソ時代にもよくそんなところに出したなぁ、というゴールをアシストしてくれていた。出場時間が長くないのできっちりと確認できていないが、水沼が入ってマリノスの右サイドはポケットを狙う選択を減らし、大外からのクロスが増えたようにも感じた。これまで防いでいた壁を無力化できる水沼はやはりとても上手い選手である。マリノスの両WGは香車が基本形なので中々スタメンには名を連ねないが、そのようなチームで他の選手と違った特徴を出して結果を出せる水沼はやはりマリノスに不可欠な選手だろう。

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