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卓上遊技再演演義 GFSセッション記録1998-2002 ②

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20年以上前に著者がサークルで遊んでいたTRPGのセッションのリプレイ小説シリーズです。 第6期「ヤン編」がこのほど同人誌として改定再版することになりましたので、記念にその前史に… もっと読む
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シザリオン編第2部「呪縛の終焉」目次

序章 「な … まさか … あんなものが … 」 SECTION 1  魔道皇帝の帰還  1.「皇帝イサリオスは帰ってきた」  2.「時代が、代わった」  3.「知っていることを話してくれ」  4.「殺し合いは始まっていないのか?」  5.「来たか」  6.「そんなことだと思ったわ」  7.「 … 昆虫 … 」  8.「あの女官はカウンタースパイ?」  9.「お待ちしておりました。陛下」 SECTION 2  烈の犠牲  10.「皆様方を天空城にご案内するように」  11.「

序章「な…まさか…あんなものが…」

 帝都は燃えていた。赤々と天を焦がす炎に待ち全体が照らし出され、それは幻想的な光景だった。その中を逃げ惑う人々、そして無抵抗の彼らに襲いかかる戦士達 …  帝都の中には今や2種類の人間しか存在していなかった。ただうろたえ、無抵抗に殺され、略奪されるだけの市民と、略奪する側の奴等である。彼らは帝国の高度な文化や芸術品など興味も理解も示さず、ただ欲望の赴くまま金と宝石と、酒と乙女だけを求めて街中を荒らし続けていた。至る所で死と悲鳴と泣き叫ぶ声と荒々しい怒鳴り声が充満していた。

1.「皇帝イサリオスは帰ってきた」

「おいっ、起きろっ」 「クレイさんっ!」  クレイの頭の中にがんがんと響き渡るように声がする。一人は低い、ドスの聞いた声 … もう一人はまだ若い、幼さが残る青年の声だった。  クレイはその2つの声が自分の眠りを妨げていることが苦痛だった。甘美な … 死へ彼をいざなうような眠り … このまま永遠に眠ってしまえば、楽になれるだろう。そう … 目を覚ませばまたあの空虚な飢えが彼を待っているのだから …  だから … 眠らせてくれ …  しかし、そんなクレイの願いを声の主二人

2.「時代が、代わった」

 隠れ家 … 正確にいうと洞窟に戻ったあと、今度はクレイが(断片的にだが)彼の身の回りに起きたことを話した。もっともクレイが話下手であることは周知の事実だし、それに加えてどうも今回クレイ自身があまり話したがっていないような素振りもある。かといってレムスにしてみれば「はいそうですか」というわけにはいかない。ヴィドが食料工面に出かけている以上、できるだけレムスが状況の把握に勤めなければならない。(ジークにこういうことを期待できるはずもない。)  クレイは、実は事の中心部に一番近い

3.「知っていることを話してくれ」

 ヴィドが食料調達から帰ってくると(ヴィドはこの大食漢集団を食わせるために周囲の街をあたって食料を集めていたのである)、可愛そうにクレイは再び質問攻めに会うことになった。もちろん今度はヴィドからである。  といってもまあ、さっきレムス達に説明した以上の情報がでてくるわけもない。 「まあ、まずはまだ合流していない他の方々を捜すしかありませんね。特に烈さんを … 」 「そうだな。」  ヴィドは烈のことに関しては他の連中よりも好意的に見ているらしかった。恐らくこのパーティーにや

4.「殺し合いは始まっていないのか?」

 聖母教会の「難民キャンプ」ともいうべきものは、他の市民たちのキャンプから多少離れた小高い丘の上におかれていた。野外神殿、というのは帝国ではもはや見られることはなくなったものなのだが、こういう事態になれば仕方がない。とにかくこの聖母教会の臨時寺院は天蓋一つない開けっぴろげの場所だった。  寺院を訪ねたクレイたちは、そこで数名の女祭たちの出迎えを受けた。女祭たちはクレイの無事を噂で聞きつけていたらしい。あまりびっくりした顔もせず彼らをにこやかに迎え入れる。そしてある大きなテント

5.「来たか」

 もう夜だというのに舞い戻ってきたクレイに、聖母教会の女祭達は … 狂喜乱舞した。非常に困ったことなのだが、クレイの子供っぽさがのこる甘いマスクとレスラーそのものの逞しい体躯はこの聖母教会の女祭「ども」のあこがれの的である。(まあ聖母教会の支配は上は貴族の貴婦人から、下は娼婦まで幅広いので仕方が無いのかも知れないのだが … )それにクレイは折り紙付きの「半神」である。御利益狙いとかいうのも含め、これ以上好条件の相手はもうめったにいるものではないというのだろう。  クレイも身に

6.「そんなことだと思ったわ」

 クレイが見た、信じられないもの … 味方である聖母教会の大女祭を暗殺しようとした烈の姿 … この異常な光景を彼はすぐには仲間に話すことは出来なかった。何かの間違いではないか … そういう気がしてならなかったからである。  しかしこの問題はそのまま何も手を打たないでいいものではなかった。悩んだ挙げ句、クレイはレムス達に事の顛末を告げざるを得なかった。 「ほ、本当ですか!?クレイ様!」 「まさか、烈さんが!?」  ヴィドやレムスは半分怒ったような表情でクレイに問い詰める。ク

7.「 … 昆虫 … 」

 数日ののちのこと、クレイ達がイサリオス帝の動きを実際に探り始める頃になって、再び帝都に事件が起きた。といっても爆発騒ぎとかそういうものではない。今まで数週間に渡って閉鎖されていた帝都の城門が開き、都市内への帰還が許されると言うことになったのである。  今まで不気味がって城壁に近づかなかった市民(難民と言うべきか)達も、いよいよ家に帰れるとなってさすがに喜びを隠さなかった。手に手にまとめた荷物やなにやらをもってぞろぞろと城門の側に集まってゆく。  クレイ達はクレイ達で同じよう

8.「あの女官はカウンタースパイ?」

 新築の大宮殿に行くことになったのはクレイ、レムスのほかにタルト、リキュア、ジーク、そしてヴィドの6人だった。ジーク自身、本当は乗り気ではなかったのだが、レムスが「行くでしょ?行くんだよね。」と、完全に予定事項のように宣言すると、しぶしぶ … 隷属の鎖教団の大司祭スレイブマスターの正装をどこからか持ち出してきたのである。(ジークの正装姿は同じスレイブマスターだったことのあるリキュアですら始めてみるということだった。)といっても、スレイブマスターの正装というのは、これは結構脱ぎ

9.「お待ちしておりました。陛下」

(あれは!転送装置!?)  タルトが見たものは明らかに転送呪文だった。どこか他のところから瞬間的に人や物を別のところに移動させる呪文 … タルトが得意とするテレポートと同じようなものである。ただ、それにしてもどこか妙な感じがするものだったが … いずれにせよその手の呪文であることは間違いない。  しかし、いくら何でもこういった呪文を宮殿の中で … それもたかだか宴会の料理を運ぶのに多用している … これはさすがのタルトも驚くしかない。「移動と変化」のルーン力を身につけている

10.「皆様方を天空城にご案内するように」

 クレイは … クレイの中のルーン力は無意識のうちにその巨大なエネルギーを放出していた。クレイという宿主の身を守ろうとしたのである。その力はクレイ自身の理性すら完全に奪い去るほどのエネルギーだった。  クレイは獣のように吠えた。いや、「野獣」のルーン力が吠えているのである。それはクレイの口を強引に押し開き、雄叫びとなって空を裂いた。  その巨大なエネルギーは彼を分解し、天空城へと連れ去ろうとする「回廊」の力を破壊した。クレイはそのまままるで狼のように宮殿を走りぬけた。 *

11.「あなたが本当に」

「せっかくだが、烈 … 俺たちはこれで行くよ。」 「玄関を開けてお迎えするというのに、裏口から入るようなものです、それは … 」 「しかたがないだろう。さっきの奇妙な光、あれは俺にどんな効果をもたらすか判っているはずだ。」 「ですから申し上げたのです。『抵抗しないで下さい』と … 」  抵抗しないことが出来ないのだから面倒なのだが … そうでなかったとしてもクレイ達に烈の招待状に応じる考えはなかった。玄関から入るといえば聞こえがいいが、要するに敵(と決まったわけではないが)

12.「余をここで殺すことは出来ぬ」

 皇帝イサリオスはクレイの無礼極まる言葉を聞いても、微笑を絶やさなかった。余裕の笑みである。どういう理由でこれほどまで余裕があるのか … クレイには想像できなかった。 「さすがはクレイ … いや、ロキ … 」 「 … !」  イサリオスはクレイの真の名を呼んだ。クレイは一瞬背筋がぞっとするほどのショックを受ける。イサリオスの余裕は … 少なくともはっきりとした根拠があるのだ。 「しかし、余を本物のイサリオスではないというのは『正確』ではないぞ。余はあくまで本物だ。ただし