見出し画像

卓上遊技再現演義『楊範・鄭令蔓伝』とは②

前回に引き続いて、2001年8月に発行した「楊範伝映像的中原導覧」の記事を元に、「楊範・鄭令蔓伝」の小説中では詳しく語ることができなかった設定や、TRPGとしてプレーされた時の様子などを紹介したいと思います。

3:『帝国』

ヤン達の前に立ちふさがる強大な敵「帝国」…本編内でも中原に強大な影響を及ぼすだけでなく、テレマコスたちの故郷を既に滅ぼしたという事実が語られている。ここでこの「帝国」について説明する。

『帝国』と中原の位置関係

 ヤン達の住む中原から遙か西方、およそ一万キロの位置にある。間にはステップと砂漠が広がり、陸路、塩の砂漠を抜けてオアシス沿いのルートで一年以上、中原南部から海路で(遠回りだが)ゆくこともできる。
 帝国自身は東西数千キロに及ぶ広大な地域を、三十以上の属州に分割して統治している。それぞれの属州は中央から派遣された総督と属州政府軍が強力な軍事支配を行っているらしい。総督は普通帝国中央の大貴族の一族に連なるものがなっている。

帝国の民族と言語

 帝国の主要民族はカナン人とよばれる白人系の種族であるが、それ以外にも雑多な民族が住んでいる。純血のカナン人は帝国中央部の貴族の一部にしか存在しない。大帝国が誕生したときに征服していった各地の人々が混じり合って帝国の民族を構成しているからである。ただ、いずれもヤン達中原人系の民族とはかなりことなっている。
 帝国の共通の言葉は「帝国語」(新カナン語)と呼ばれる。帝国の前身となったカナン諸都市の言語が元になっているが、それ以外にも征服した各地の言葉の影響を受けている。

帝国の社会制度

 「帝国」は古代ローマ帝国と同じように身分制度が存在する。貴族階級、市民階級、無産市民・外国人階級、奴隷階級である。元老院議員となるのは貴族だけである。
 奴隷制度はほかのどの地域よりも厳しい。奴隷によって生産力を得ている帝国では、奴隷の数の確保が重要な課題となっている。おおよそ人口の6~7割が奴隷階級と言われている。

皇帝のいない帝国

 帝国は独特の神権国家の形態を持っている。「帝国」と呼ばれているにも関わらず、この国には「皇帝」は存在しない。一二〇年前の皇帝イサリオス帝を最後に、この国の玉座にはだれも座っていないのである。この秘密をめぐる戦いについては、「シザリオン編」で扱われている。

 代わりにこの国の中心となっているのは、大貴族達の会議である「元老院」、帝国軍を率いる「帝国神将」、女性だけの修道会「聖母教会」などである。楊範伝に登場するティベリウスやロウハンはいずれも「帝国神将」であり、さらにティベリウスは帝国貴族の一員でもある。

帝国女神

 帝国は他の世界の国家と比べて圧倒的な軍事的優位を誇っており、すでに中原を含むカナン世界の半ば、そしてテレマコスたちの故郷サクロニア世界の主要部を征服している。帝国がここまでの覇権を確立できた理由は、優れた軍事技術や魔法、社会制度もあるが、なにより「帝国女神」の存在が大きい。
 帝国の国家神である「帝国女神」は、驚くべきことに「地上に降りた神」そのものなのだ。帝国女神の正体はいまだにわからないことが多い。真の神であることだけは間違いないが、それが救世主なのか、それとも世界を滅ぼしかねない邪神なのかは誰も答えられないだろう。
 ただ、彼女を戴く帝国が、ヤン達の住む中原を侵略していることは事実なのだ。

ヤンと帝国女神(絵:竜門寺ユカラ)

帝国神将

 帝国軍は本国軍と各属州軍とに分かれているが、いずれも「帝国神将」とよばれる強力なリーダーを擁している。帝国神将は帝国軍や帝国市民の中から実力で選び抜かれた指揮官であるが、それ以上に特筆すべきことは彼らの持つ強力な魔力である。魔神そのものの強力な力を自由に操ることができるのである。
 もちろん帝国人以外でもこういう力を得ることはある。深く神に帰依した司祭や、特別な冒険をしたキャラクターが同様に強大な力を持つことはあるが、これらは当然大きな制約をもっている。例えば楊範伝でヤン自身も狂暴化したときには強力な魔神のような力をふるうことできた。しかしこの場合本人の意識が失われるなど、多大なリスクを伴っている。いずれにせよこれは多分に素質や過去の特殊な体験など、偶発的に力を得たキャラクターたちである。
 帝国の恐ろしさは、これらの強力な魔神の力を組織だって獲得する方法を開発しているところである。テレマコスらの調べでは帝国神将候補生はこれらの魔神の力を、ある特殊な教育と儀式で獲得し、帝国神将となるのである。貴族でなく帝国市民、帝国出身者以外の人物でもなることができる帝国神将は、帝国の中で地位を得ようとする野心と才能ある若者にとって登竜門となっている。
 このような技術を持つ帝国軍が世界で最強の軍となるのは想像に難くない。テレマコスの故郷のサクロニア、そして今、中原がこの帝国の圧力に屈しかけているのも当然のことだろう。
 ただし、現在の帝国神将は大貴族出身者もすくなくない。もともとは市民軍であった帝国軍は次第に帝国門閥貴族の影響下におかれつつあるのである。帝国自身も次第に当初の形態から変質が始まりつつあるのである。

帝国元老院

 帝国の大貴族達の会議。立法権を持つ。帝国成立時からの貴族だけでなく、各征服地の旧王族、大貴族から元老院議員になったものも多い。各属領地では旧王族の影響力は現在でも根強いため、帝国各地の利益代表者として機能している。執政官など帝国の統治機構の要職、執政官や各州の総督などはこの元老院で選出される。
 特に大きな力を持つ「五大家」は帝国政府の要職を占め、大きな力を持っている。楊範伝で登場したティベリウスは五大家の一つダキア家の一員である。元老院と他の五大家、帝国政府の実態については、最新シリーズ「リンクスの断片」で登場する。

聖母教会

 聖母教会は帝国の精神的指導者であり、帝国の女性達が多数入信している。表向きは女性達の教育や慈善事業、医療事業をなどを行う団体だが、もう一つの顔として帝国占領地への帝国文化の浸透を担うという目的がある。また強大な神性魔法と儀式呪文により帝国の敵と魔術戦を行ったり、精神支配の魔力で敵を操ることもできる。帝国女神の誕生や、最強の女神将ジャコビーの謎などと深くかかわっており、聖母教会は帝国の秘密の最奥部にいるのは間違いない。
 本編で登場するアナスタシアはこの修道会の大女祭である。最高位の大教母テアドラは帝国女神に直接仕える「最高神官」の一人である。

大教母テアドラ(絵:武器鍛冶帽子)

帝国魔道士会

 本編では出番は少なかったが、忘れることができないのは帝国の魔道師たちの学術団体「帝国魔道士会」である。帝国の魔法技術に責任を持つ強大な結社であり、世界中の魔法技術を貪欲に集めている。

『帝国』の野望

 帝国の目的は謎が多い。少なくとも帝国女神自身は慈愛に満ちた存在である。しかし彼女に付き従う帝国軍は世界を侵略して領土を広げている。さらに直接統治が困難と思われる遠隔地にも帝国の影は及んでいる。
 これには魔法的な秘密がある。帝国は世界各地に存在する強大な魔法や神器を奪うこと、さらには他の地域の神を倒し、帝国の神に置き換えることで魔法的に征服することを狙っているのである。帝国との戦争は地上の闘いだけでなく、神界での闘争でもあるのだ。
 しかし今や帝国のドクトリンはいろいろなところでほころびを見せつつある。それについては今後のストーリーで明かすことになる。

『帝国』中原派遣軍諸将

「楊範・鄭令蔓伝」で登場した帝国のキャラクターについて紹介する。

ティベリウス(陳当将軍)

帝国の中原派遣軍を率いる帝国神将。ダキア家の一人。地方に飛ばされたという不満を抱えており、麻薬をばらまくことで私腹を肥やすことしか楽しみがない。純粋な帝国人以外の人間に対して強い侮蔑の感情を持つ。神将としての力は不明だが、一軍の将を任されている以上それなりに強い。事実当初はヤンを追い詰めていた。またファンの正体を見抜くなど、帝国神将の能力の片鱗を見せていた。

ティベリウス(陳当)(絵:武器鍛冶帽子)

ロウハン

ヤンの宿敵となる帝国神将。巨大な黄鉞を振り回す。暴力と破壊の力を持つ魔人。ヤンと同じ金髪碧眼、第三の目を持つことから、同族の出身と思われる。ヤンを倒す機会があったにもかかわらず、あえて見逃すような行動をとっている。何を企んでいるのかは本編のメインストーリーとなる。聖母教会の大女祭アナスタシアとの軋轢がもう一つの軸。

ロウハン(絵:竜門寺ユカラ)

アラクネ

ロウハン付きの女神将。蜘蛛の糸を操る能力を持つ。トリッキーな戦い方がメインとなるため、戦士としての腕前はヤンに及ばなかった。

女神将アラクネ(絵:武器鍛冶帽子)

大女祭アナスタシア

中原派遣軍付きの聖母教会大女祭。帝国軍を魔法的にサポートし、中原に帝国の魔法拠点を作るために活動している。陰謀を得意とし、何度もヤン達を苦しめる。しかしその中でロウハンの野望に気づき、ヤンを殺すことで野望を阻止しようとするが…

*実は計4名の挿絵担当者がみんな彼女のことを描いたという大人気キャラ

大女祭アナスタシア(絵:竜門寺ユカラ)

次回予告

今回は敵役となる『帝国』の紹介と登場人物について説明した。
次回はその他の登場人物や用語についてまとめていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?