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責任を負う者、愛し続ける者(1/2)——最終編3章・感想【ブルーアーカイブ】

「きっと私たちは、永遠にお互いを理解する事なんて、できないと思う。」
「理解できない他人(もの)を通じて、己(たがい)の理解を得ることができるのか」

・「私」は何者か。「あなた」は何者か。この問いに答えるのは、ある点においては容易だ。どこに生まれ、どんな環境で育ち、現在はどんな立場にあり、何をしているのか。何を愛し、何を憎むのか。そうしたパーソナリティに焦点を当てれば、少なくとも社会的な文脈においては、「私」や「あなた」という存在の輪郭を浮かび上がらせることができる。

・しかし、誰かを知ろうとするほどに、誰かを愛そうとするほどに、人は他者との不連続性を思い知らされる。愛する者の全て知り尽くしたところで、その苦しみから逃れることはできない。心理学や脳科学によって証明された命題、決定論、人体の構成成分を列挙されたところで……やはり私にとって「あなた」は永遠に理解できない異邦人であり続けるだろう。

生の根底には、連続から不連続への変化と、不連続から連続への変化とがある。私たちは不連続な存在であって、理解しがたい出来事のなかで孤独に死んでゆく個体なのだ。だが他方で私たちは、失われた連続性へのノスタルジーを持っている。私たちは偶然的で滅びゆく個体なのだが、しかし自分がこの個体性に釘づけにされているという状況が耐えられるずにいるのである。私たちは、この滅びゆく個体性が少しでも存続してほしいと不安にかられながら欲しているが、同時にまた、私たちを広く存在へと結びつける本源的な連続性に対し強迫観念(オプセッション)を持ってもいる。

「エロティシズム」p.24-25
ジョルジュ・バタイユ 酒井健訳

……きっと彼女は最後まで愛していたのだろう。親しい人物を「リンちゃん」と呼びながら。いつも微笑みながら。お人好しすぎると小言を言われながらも。純粋無垢に人を愛し続けた。だからこそ、何かをきっかけに深い孤独と絶望の底に叩き落とされた。それでもなお彼女は愛し続けた。「"きっと"私たちは、永遠にお互いを理解する事なんて、できない"と思う"」という曖昧な口調は、諦め切れない叫びであるようにも聞こえる。

・「理解できない他人(もの)を通じて、己(たがい)の理解を得ることができるのか」——彼女が手にした答えは何か。そこに辿り着くまでに、どれほどの孤独と苦悩があったのか。最終編3章「アトラ・ハシースの箱舟」の初見感想をお届けします。

<前回の記事はこちら>


砂狼シロコ——自分との向き合い方

「私の役割は、すべての命を「別の場所(あのよ)」に導くこと——
——これは砂狼シロコ が、この世界に存在した時点で確定した未来。」

・シロコ曰く、私は色彩によって意志を捻じ曲げられているわけではない。これは私自身の本質(いし)。この世界を定められた未来へ導く——すべての命を別の場所(あの世)へ導くことが自分の役割。洗脳されたわけじゃないのよ、私は元々こうだったのよ、という語り口だ。

・…………いやわかんないじゃん❗❗ そう思い込んでるだけかもじゃん❗❓ ま、カントリーマアムでもはむはむしながら待っててよ。ふふん、実はね、忍術研究部の三人が元に戻す方法を探して——

「色彩によって反転した者を元に戻す方法など、存在しない。」

無いってさ❗❗❗❗❗❗
もーーーー❗❗❗❗❗❗💢💢

・…………いやでもそうよな。腑に落ちた。メタ的解釈ではあるが、「シロコが元に戻りました。めでたしめでたし」という単純なハッピーエンドにはならないだろう。サオリもミカも、罪が全部チャラになったわけじゃない。運命に翻弄され、罪の意識に溺れながらも、自分の可能性に目を見開き、責任を持って未来へ歩み始めるまでの過程が描かれた。そんなエデン条約編における「変えがたい現実の中でいかに自分と向き合うか」というテーマが、シロコにも投影されているのだろう。それを踏まえて見ると——

「……でも、私は先生を傷つけたくない。
だから、キヴォトスからいなくなってほしい。」

・シロコはわざわざ忠告しに来た。シャーレに訪れるなんて、それなりにリスクがある行動のはずだ。それでも伝えに来た。先生を傷つけたくない。だから手を引いてほしいと。自分の本質や未来は変えられずとも、大切な人を守るために、できるだけのことは精一杯やる。それが彼女の覚悟だ。ヒヨリ、ミサキ、アツコを守るために道を踏み外して行ったサオリと重なるものがある。はたして、シロコにも別の未来があるのか、自分の可能性に目を見開くことはできるのか——それを模索するのが先生の務めになるのだろう。

・……うん、やっぱりシロコは優しい子だ。銀行強盗を提案したのもみんなを守るためだったもんね。今も必死に頑張ってるんだよね。ありがとう。先生も最善を尽くすよ。もしシロコに別の道があるなら一緒に探したい。だから——

ダンダンダンッ(躊躇なく発砲)

ちょちょっ❗❓❗❓
ストップ❗❗
リンちゃんストーーップ❗❗✋💦

シロコが消えた空間に飛び込む。

あっ待ってシロコ ❗❗
うおおおおおおっ❗❗

うおっ……まぶしっ……
ここどこぉ❗❓

誰ぇ❗❓

えっ……

誰ぇ❗❓

「あなたが、「色彩」の嚮導者……!?」

立ち絵あるの❗❓

「——先生っ!!」

情報が……
情報が多いっ……!!


正しき責任のあり方

・シロコは謎空間にワープ。先生は何とか戻って来れた。時を同じくて、キヴォトス各地で超高濃度エネルギーが再び観測されていた。

「ううん、それは言い訳にならないんだ。
……私はシロコを守らなきゃいけなかった。
それが——「大人」である私の責任だから。

・反転したシロコ、虚妄のサンクトゥム再出現の予兆——こうなったのは全部私のせいだと先生。予知夢で最初から全部知っていたのに止めることができなかった。リンは「先生は最善を尽くしました、なのに私が力不足なばかりに」と擁護する。それでも先生は、全ては「大人」である私の責任だと主張し、過去を悔やむ。

・……これはねえ、痛いほど理解できますね。「あの時、ああしていれば、こうしていれば……」誰にだってそんな後悔が一つや二つはある。自責の念に駆られることがある。それこそ、枕元で今日一日を振り返って「もっと自分が気を付けていればあのミスは防げたはずだ」といった小さな話から、ふっと学生時代のことを思い出して「あの時は友達にひどいことを言ってしまった」「もっと就活と資格勉強を頑張ってたら」なんてことまで。そんなどん詰まりの思考に陥ると、やがて「私は駄目な人間だ。親不孝者だ」と自分を責めるに至る。

 自己認識は、一切の認識のなかでもっとも苦いものだが、人びとが何にも増して、修練するのを嫌うものでもある。朝から晩まで、さまざまな妄想の現行犯としてわが身を逮捕し、一つ一つの行為の根因にまで容赦なく遡り、自分で作った法廷で敗訴を重ねてみたとて、どうなるものでもあるまい。

「生誕の災厄」p.56
E.M.シオラン 出口裕弘訳

・どうなるものでもない。それでも人は自責を止められない。と、ここで一喝したのは——

「——そういう不安がないと言ったら嘘になるんだけどさ。」
「でも、それとこれとは話が別でしょ?」
「だから、先生はいつもみたいに「なんとかなる」って構えててよ。その方が似合うからさ。」

・ホシノ先輩に「めっ」されたいけどなあ、俺もなぁ〜……って言うとる場合かっ。

・この発言、ホシノ自身がかつてそうだったからなんだろうな、と。アビドス生徒会長の遺体を発見したのは彼女だ(エデン条約編3章ヒナの発言)。きっと自分を散々責めたのだろう。「私がもっと頑張れば守れたはず。それに、あんなにひどいことばかり言ってしまって……」と。大切な存在を失って初めて気づいた。先生が今この状況に打ちのめされているように。

・それでもホシノは再び立ち上がった。もし自分に果たすべき「責任」があるなら。それは過去を悔やむことじゃない。今この時において、最善を尽くすことでしか——「なんとかなる」と構えることでしか果たし得ない。そんな思いに駆られながら、アビドス対策委員会のみんなを支え続けてきたのだろう。

・……ふと目頭が熱くなる。ホシノがその小さな背中に背負っているものは、対策委員会編で私が垣間見た以上に重いものなのだろう。うん。ありがとうホシノ。おかげで目が覚めたよ。そうだよね。自分を省みることも大事だけど……「私のミスだから気にしないで!」ってどーんと構えながら、次の最善手を考えなきゃいけない。それが「大人」としての正しい責任のあり方なんだ。さあ行こうか。シロコを連れ戻すために。キヴォトスを守るために——


ウトナピシュティムの本船

【SCP-280-JP】縮小する時空間異常

・観測したエネルギーの流れを辿ってみると、ある一点から放出されていることが判明。キヴォトスの上空75,000メートルにある構造体。その周囲は黒い球状の被膜に覆われている。ここを占領しないと、また虚妄のサンクトゥムが生成されてしまう。

・ヒマリ、ヴェリタス、エンジニア部の協力により、試しにミサイルぶち込んでみる。しかし、なぜか通り抜けてしまった。どうやら物理的干渉ができない模様……いやどうすんねん❗❓

・と、ここで動いたのは浦和ハナコ。ミレニアムのデータを参照し、シスターフッド、図書委員会、ティーパーティ、各々の情報を持ち寄って解釈を進めた結果、一つの仮説に行き着いた——って、さらっと言ってるけどやってることすごいなハナコ!? そういえば、エデン条約編3章でも、情報が錯綜する中で敵の目的に勘付いたり、睨み合いが続く各団体を取りまとめたりしてたな。まさに才気煥発。将器に溢れている。引く手数多だったのもうなずける。

「……一種の「状態の共存」が起きているようです。」

・ハナコ曰く、虚妄のサンクトゥムと例の構造体は一種の「状態の共存」が起きている。例の構造体を覆う黒い被膜は「全ての可能性(多次元解釈における世界線の分岐)が分岐しないまま混ざり合っている」「無限に広がる多次元の実在と非実在が、混ざり合ってしまった混沌とした空間」。ゆえに存在が確定した世界からの物理的な介入ができないとのこと。

・言葉が難しいが……「シュレーディンガーの猫」のようなものだろうか。キヴォトスは箱の外側。箱の中の猫は死んでいるか、死んでいないか——外側からでは箱の中を観測できないため、二つの結果が共存していると見なすことになる。ええっと、でもユウカが「観測はできるけど、干渉はできない……」とつぶやいてるから、この思考実験とは厳密には違うのか。そのふわっふわの状態、全ての可能性が分岐しないまま混ざり合っている状態が、私達にはマクロ的に見えているのか。感覚としては「二重スリット実験」の方が近いか……?🤔 うーん、とりあえずパッションで理解しておくか。いずれにせよ、こちら側は存在が確定している状態だから、物理的干渉ができないと。

「同じ状態であれば、多次元内部の確率や状態の共存とは関係なく、互いが「同じ空間」に存在する事になります。」

・黒い被膜をどう突破するか。こっち側は存在が確定していて干渉できないなら、私達もあっちと同じ状態に——全ての可能性が分岐しないまま混ざり合っている状態になっちゃえばいいのよ、という理屈に至る。しかし、それを実行するには、大前提として、その無限に分岐するパターンを全て計算できなきゃいけない。現代科学では不可能だ。現代科学では、ね。ふむ……こういう時に手がかりを得られそうなのは、やはりあの人物しかいない。

「今こうして、私に尋ねる行為そのものが、
どんな代償であれ差し出す覚悟がある——という事なのですね。」

・ということで先生は黒服に接触——と、さらっと会いに来ましたけど。黒服が言っているように、強い覚悟を感じられる場面だ。この時の先生は、情報を引き出すためならそれこそ「大人のカード」を使うことも辞さない覚悟だったはずだ。「乱用すれば私達と同じ結末を迎えることになりますよ」(最終編2章第1話)と黒服から忠告されたカードを、である。実際、対策委員会編でも黒服に差し出したもんな。結局このカードが何なのかまだわからないけど……先生、あんた大丈夫なのか……?

「そして、不可解な存在である「先生」……果たしていつまで耐えられるものか……」
(第2話)

・意外にも黒服は無条件で解決策を教えてくれる。マエストロとの会話を見る限り、先生が何をしでかすのか、興味をそそられているのだろう。「クックックッ……おもしれー先生……」と。先生にわざわざ忠告しに来たり、ビジネスを放棄して先生に解決策を教えたり。それらの行動は案外、惚れた弱みと呼べるものなのかもしれない。ふーん、なるほどね……後でコハルと語り合うか。

・黒服曰く、例の構造体は「アトラ・ハシースの箱舟」(<Key>によると箱舟本体ではなく、箱舟を複製したもの)。古のキヴォトスの民「名もなき神」の遺産。いわゆるオーパーツ。時計じかけの〜編2章で<Key>が「コード名「アトラ・ハシースの箱舟」起動プロセスを開始します」と言ってる場面があったな。その時に顕現しかけていたやつか。

・現在のキヴォトスにおいて、この箱舟に対抗できる手段はただ一つ。古代兵器「ウトナピシュティムの本船(もとぶね)」。箱舟が「神秘」であれば、こちらは「恐怖」。カイザーコーポレーションはこれを発掘したことで有頂天に。サンクトゥムタワーを占領し、キヴォトスを乗っ取るクーデター計画を実行した。しかし、そこに運悪く(あるいはそのタイミングを狙い撃ちされたのか)虚妄のサンクトゥムが出現。本船を起動するにはサンクトゥムタワーの機能が必要不可欠だが、それが破壊されたことにより計画は破綻。やむなく撤退することになった。もはや誰にもこの兵器を扱うことはできない——

「サンクトゥムタワーに匹敵するオーパーツ——
「シッテムの箱」の所有者以外には。」

・そう、先生を除いて。

・この古代兵器を起動すれば、先生の肉体は取りかえしのつかない被害に遭う、死に至る事さえあり得る。黒服はそう忠告するが、先生の覚悟は変わらない。それほどまでに危険な兵器とは、いったいどんな代物なのか——

「そう——宇宙戦艦です。」

!?!?!?!?!?

うおおおおおおおおおお!!!!!!

「宇宙戦艦……古代文明……ふふっ、これは研究のし甲斐があるね!」

宇宙戦艦! 古代文明! 「こうなったら"アレ"を使うしか……」「しかし動作テストが充分ではありません!」「適性パイロットは一人だけ……」「構わん! 全ての責任は私が取る!」というお約束の流れで登場する秘密兵器! ロマンの塊じゃねーか! FOOOOOOOOO!!!!

「はい、時代は「宇宙RPG」です!このジャンルは最高です!」

・アリスもそう思います! と、付いて来てくれましたが——

「今、あなたが立っている「オーパーツ」は……遠い昔、私たちの敵が箱舟に対抗すべく生み出した対箱舟用の「決戦兵器」なのです。」

・<Key>が起動しようとしていた「アトラ・ハシースの箱舟」、そのメタ兵器とも言えるのがこの本船である。いわば今のアリスは、天敵に乗っているようなもの。起動した瞬間にアリス(名もなき神々の王女)に牙を剥くだろう。

・だから王女よ、一刻も早くこの舟から離れてほしい——これは警告ではななく、願い。誰にも届かない声でそう語る。彼女なりに心配してくれているようだ。

・しかし現状、この本船をおいて他に対抗手段はない。そして、ほとんどが演算機能で埋め尽くされている本船を守り抜くためには、アリスのレールガン(光の剣:スーパーノヴァ)が必要。それが現実だ。エンジニア部、ヴェリタス、ヒマリを中心に、本船を操縦するための準備が進められる。ミレニアムの生徒はこういう時とても頼りになりますね。夜通しの作業になるだろうから出前取るか。

・それにしても……最終編1章で先生が「宇宙戦艦や巨大ロボットが登場したって構わないんだよ」と言ってたけど。まさか比喩じゃなくなるとは。巨大ロボット(KAITEN FX MK.∞)も宇宙戦艦も登場しちまったよ。ブルアカ、何気ない描写が伏線になるの末恐ろしい。驚かさればかりだ。

・先生はあの時「どんな未来であろうと、私たちは乗り越えていくのだから」とも言っていた。宇宙戦艦、宇宙RPG。それがどれだけ荒唐無稽な夢物語であろうと、歪な創作であろうとも。不完全な書き手にしかなれずとも。どんな未来であろうと、突っ走ってやろう——


「理解できない"運命(もの)"を通じて、"今"の理解を得ることができるのか」

・本船の準備を進める過程で、ヒマリとハナコが会話を交わす。天才同士ということもあって、なかなかハイコンテクストな会話内容だ。言外のニュアンスが強く、空中戦の様相を呈している。ちょっと整理してみます。

「私、「トキ」の事に関しては絶対にリオを許せないんです……」

・リオは演算サポートAIに偽装して本船に潜入。ヒマリに協力を申し出る。しかし、ヒマリはこれを拒絶。ヒマリにとって、リオは「本当に卑劣極まりない女」。トキを孤立させ、危険な武装(アビ・エシュフ)を与え、あまつさえ、生徒を殺めるという倫理に反する任務の片棒を担がせた。自分の手は汚さずに、悲劇のヒロインを気取った。そして、計画が頓挫した途端に自分は失踪し、トキを置き去りにした。

・トキは「皆の役に立ちたい」という思いに駆られて、今なお最前線で戦っている。そんな彼女の悲壮な決意を——他人の孤独や罪悪感を、あなたは少しでも考えたことがあるのか。本当に卑劣極まりない。エリドゥの事件を解決に導いたのも先生達の手腕なのだから、今回もあなたの力は不要。今すぐ船から降りなさい。そうまくし立てる。

・飄々とした性格のヒマリにしては言葉が強い。よほど怒っているのだろう。……意外だな。この子は誰かのためにこんなに怒れるのか。誰よりも頭脳明晰でありながら、理性で抑え切れない激情を内に秘める少女。見る目が変わりますね。

・そんなヒマリに似た生徒がいる。浦和ハナコだ。

「ええ、皮肉(アイロニー)を語った寓話の……
予言を避けようとして、悲劇を招いてしまった王のお話です。」

・「まあまあヒマリさん、そう怒らずに……」と仲裁したり、「そうっすよねえ❗ 俺も許せねえっすよリオの野郎ぉ❗💢」と同調したりしたくなるのが人情だが、ハナコは直接伝えることはしない。代わりに寓話を語る。とある王の物語。王は破滅の予言を授けられた。その未来を避けようとしてあらゆる努力を尽くした。しかし、むしろそんな行動の結果、愛する者達を全て失い、国を破滅させることになってしまった。明確な元ネタは無さそうだが、近いのは「オイディプス王」か。

「預言者を追放し、戦争を起こせるほどの権力を持ち——
そして、神託を授けられた「王」であった。其れが、王の最大の過ち。」

・セイアの見解によると、これは王が「王」であったことが原因。王にそんな職能がなければ、そもそも予言を授かっていなければ、破滅へ至ることはなかった。王は何も間違っていなかった、と。……こういう逆説めいたことを言うの、いかにもセイアらしい。「ライ麦畑でつかまえて」とか好きそう。頼む早く実装来てくれ。絆トークで死ぬほどイチャイチャしたい。「先生も物好きだね……私なんかと居て愉(たの)しいのかい?」って言われたい。なんかこう、恥ずかしい勘違いをさせたい。嗅ぎたい。

・セイア自身が認めている通り、この見解は結果論だ。破滅に至った結果を外野から見たからそう言えるだけだ。平和な未来が訪れていれば、私達は王を賞賛するだろう。当事者視点でも王の行動は最善の一手であったはずだ。人間万事塞翁が馬。自分の行動が何をもたらすかなんてわからない。後になって見なきゃわからないことばかりだ。

・なぜハナコは唐突にこんな話をしたのか。それはリオに重なるからだろう。キヴォトスの終焉に備えて建設した要塞都市・エリドゥ。しかし、都市のシステムを乗っ取られて、むしろ終焉をもたらすところだった。

「考えさせられる物語ですね……「運命」というものは存在するのか、
はたまた、「決定論」は意味を成すのか。」

・それはリオ生徒会長が「会長」であるがゆえの、必然的に至る「運命」か。はたまた、「決定論(未来は因果によってすでに決定されており、自由や意志は幻影に過ぎないとする立場)」の証明か。

・そう考えると、リオには同情の余地がある。私達は結果だけを見てリオを責め立てているのかもしれない。リオはリオなりに最善を尽くしたのだ。「あなたが誰よりもコレ(「名もなき神」の遺産)を理解しているなら、キヴォトスが終焉を迎えるほどの事態なんて訪れなかったでしょうに」とヒマリは言ったが、どうであれそんな未来に辿り着いたのかもしれない。リオは今だって最善を尽くそうとしている。それを無下にしようとする行為こそが非道。ついでに非合理的。実際彼女の助けが必要な状況なのだから、協力は受け入れるべき。確かにリオは人情に欠ける言動が多々あったが、そんなものは後で責めればよろしい。

・……と、ハナコとヒマリは、わずかなやり取りで大体そんな感じの意思疎通に至ったようだ。一を聞いて十まで悟ったヒマリはもちろんだが、角が立たないように婉曲的に伝え、かつ説得力を持たせるために寓話を持ち出したハナコ。すごすぎる。頭の回転が早いことはさることながら、それを他人を気遣うことにもフルに発揮できるホスピタリティ。そのせいで散々利用されそうになって、本人はとても苦労していたようだけど……正直わかる、この子は組織に一人はいてほしい逸材だ。子どもができたらいいお母さんになるだろうな。

「理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか」

・リンちゃんはハナコの話を聞いていた。「二つ目の古則」を思い出す——「理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか」(五つ目はエデン条約編でおなじみ「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」)

・「理解できないもの」を通じて、「何」の理解を得られるのか。目的語が抜けている。そもそも問いとして成立していない不可思議な文章。だから自分の信じる言葉を入れれば良い、と連邦生徒会長は言っていたそうだ。

「「理解できないもの」を「運命」とするのなら、その「運命」を通じて「理解を得られるもの」は……」

・今当てはめたい言葉は、やはりこれか——「理解できない"運命"を通じて、私たちは"今"の理解を得ることができるのか」

・運命とはまったくもって理解不能なものだ。黒服との取引に応じて退部届を書いたホシノも、仲間を守るためにアリウスに服従したサオリも、仲間を守るために去ることを選んだアリスも、「これが自分の運命だ」と受け入れた結果だった。誰もがその時々で最善と思われる行動を尽くした。しかし、蓋を開けてみれば別の運命が待ち受けていた。大切な仲間と一緒にいられる未来があることを、別の場所があることを知った。

・過去を俯瞰して見た時にのみ、結果論でのみ「点と点が線で繋がった」と言うことができる。私達の主観では所詮、未来に到達してからでないと「運命」は論じ得ない。はたして、「今」の自分は喜劇を築き上げる勇者なのか、破滅の未来に進むだけの悲劇のヒロインに過ぎないのか。シロコに他の道はあるのか。わからない。何もわからない。

・それでも、みんな口を揃えてこう言うのだ——

「先生がいるから……どんなことが起きても、きっと大丈夫。」
「でも、みんなと、先生と一緒だったから……あんまり怖くなかったの……」
「そうですね、先生がいるのなら、きっと……」

「先生がいるから、みんながいるから、何とかなりそうだと思える」と。

・何が起きるかわからない、最悪の結末を迎えるかもしれない、未知への不安は捨てることができない。ただ「何とかなりそうだ」と思うことくらいはできる。ロッカーの中で隠れて震えているよりはいい、と思える。

「何故、既に定められた運命を変えられると考えるのですか?」
「何故、破滅を迎える未来にあえて突き進むのでしょうか?」

・理解できない"運命"を通じて、私たちは"今"の理解を得ることができるのか——私達は「運命」の不透明性から、「今」に広がっているあらゆる可能性に目を向けることができる。それが問いの答えなのだろう。ただの認知の歪みに過ぎないのかもしれない。私達が未来に突き進める理由は所詮その程度のものであり、そして、それだけで充分だ。楽園の存在を証明できずとも、その存在を信じて進むことに意義があるのだから。

前を見るな。後ろも見るな。恐れず悔いずに、おまえ自身の内部を見よ。過去や未来の奴隷となっているかいぎり、誰にも自己なかへ降りてゆくことはできない。

「生誕の災厄」p.116
E.M.シオラン 出口裕弘訳

・……不意に涙がこぼれた。対策委員会編、時計じかけの花のパヴァーヌ編、エデン条約編、カルバノグの兎編——先行きが見えない不安にみんな苦しんだ。彼女達の抱える不安がどれほどのものであるか、そして、不安を抱えながらも小さな一歩を踏み出す——そうできるまでに、どれほどの苦悩があったのか。いつも隣で見てきたからこそ、今までの歩みを確かに感じ取ることができた。

・みんな本当によく頑張った。先生がいたからってだけじゃなくてさ、あなたが勇気を出して頑張ったからなんだよって、一人ひとりに伝えてあげたい。いつもありがとう。みんながいてくれるから——

「もう一度考え直してください、先生……
どれだけの負担がかかるのか、私でさえ把握できていないんです……」
「……今一度、お聞きします。」
「……何故?と。」
「大人として——子供を守り、先生として生徒を守るため。」
「大人の責任——先生の義務を、果たすためだよ。」

・みんながいてくれるから、頑張れるよ。


邂逅

「皆さんの食事を担当する、ゲヘナ給食部の愛清フウカと……美食研究会。」

・シャーレ直下で作戦立案に従事している生徒達がオペレーターを担当。ヴェリタスとエンジニア部が地上から技術支援。シロコを連れ戻すためにアビドス対策委員会、本船を守れる唯一の装備を保持するアリス、アリスを守るためにゲーム開発部が乗船。ついでに、宇宙食を研究するために美食研究会も付いて来てくれました。

・みんなやる気に満ち溢れた顔をしていますね。先生は嬉しいよ。

・エンジニア部がオペレーター用の制服を仕立ててくれました。リンちゃん似合ってるね! 「シドニアの騎士」の小林艦長みたい!😊(奇しくも中の人は同じ)

・かくして全ての準備が整った。では各員、所定の位置に。ウトナピシュティム、発進——!

「確率的に存在可能なあらゆる宇宙に、私たちが同時に存在する……って事だと思う。」

・おー……なんかすごいことになってる……

「せ、先生?顔色が良くありません。大丈夫ですか……?」

・だ、だだ大丈夫っ……! 乗り物酔いしやすいだけだから……!👍💦

(意識が、遠のいて……)

・あっ、やばっ……意識が…………

(ここは……)

・おぉ…………?




・この空の色は…………線路は…………見覚えが…………


・そうか…………そこにいるんだね…………ようやく——


冒頭でも述べた通り、最初に登場する謎の少女の語りで、グッと引き込まれました。彼女が口にした「選択」にどれほどの意味が込められているのか。少しずつ明かされていくであろう全貌に、期待が膨らむばかりです。

プロローグ感想記事より

ブルアカを始めると、最初に聞くことになる少女の言葉。先生はその少女(連邦生徒会長?)と「責任を負う者」について話したことがあるらしい。二人には何があったのだろう。ミカやサオリのような、取り返しのつかない過ちが、かつてあったのだろうか……

エデン条約編4章感想記事より

そもそも私がブルアカ感想文を書き始めたのは、プロローグにおける少女の心情に思いを馳せたことがきっかけでした。「……私のミスでした。」——その最初のたった一言に、どれほどの悔恨の情が込められているのか。それを言語化したい衝動に駆られて、がーっと書き殴りました。

最終編1章感想記事より

・ようやく————










・…………ようやく会えたね、会長。


<後編に続く>