ちんちろりん🦗(短歌も)

ワクチン1回目を終え、腕が痛いこととよく眠ったこと以外は何もなかった。
今日はお昼前から夕方まで寝てたんだけど、twiceのメンバーの一員としてツアーを回り、ファイナルで涙ながらにファンへお礼をするというフルコースの夢を見た。あれは夢だったのかな。副作用に幻覚って含まれてたっけな。母や姉や友人に「ワクチンしたけど元気」って伝えたら、揃いもそろって「2回目に備えろ」と言ってきた。ニカイメに何が起こるんだろう…。twice(わたし入り)が各国のビルボードを独占しているのかもしれない…備えなきゃ…。


ちょっと前に1匹の鈴虫が部屋の中に入って来た。わたしの家の周りは自然が多いので、涼しくなりはじめると秋の虫の鳴き声のテントの中にいるみたいになる。電話越しに虫の声が聞こえるくらい。一匹、やけに大きな声で鳴いているなあと思ったら、少し開けていたベランダの窓から入り込んで天井で鳴いていた。最初は追い出すかスプレーをかけるか迷ったけど、「リリリ」と鳴くのでなんとなくそのまま一緒に暮らすことにした。
そのうち何処かに隠れてしまったけど、日が暮れ始めると「リリリ」と鳴く。ご飯を食べている時、漫画を読んでいる時、寝る前に「リリリ」と聞こえると、わたしも人間の言葉で「りりり」と返事をするようになった。鈴虫の言葉は分からないけど、ちゃんと聞こえているよと合図を送っていた。リリリ、りりり、リリリ。
ルームシェアを始めて4日目辺りから、鈴虫はもう鳴かなくなった。西陽が差しても部屋の電気を消してみても何もない。何かが部屋にいる気配が嬉しかったのに、鈴虫にとってこの部屋は、いくら求愛の言葉を並べてみたところでぶさいくな「りりり」しか返ってこない大きな虫かごであり、お墓になってしまった。ごめんなさい。


バウリンガルがあるのだから、虫の言葉が翻訳できる機械も開発されないかな。それもイグノーベル賞取れそうなのに。と思ったけれど、虫の声を聞くことが出来る種族って日本人とポリネシア人だけらしい。「虫が喋りましたよ!」って虫声翻訳機を振り回して喜ぶ日本人を、他の国の人が見たらなんて思うんだろう。あいつらは無に向かって何をしているんだと心配されてしまうな。

ところで、秋の虫たちは本当に求愛の音を出しているのだろうか…。本当は古からずっと人類滅亡計画を企てていたりして。彼らの声が聞こえるのは日本人とポリネシア人だけ。邪魔者は先に消した方が良い。ポリネシアは広すぎるからまずは手始めに島国日本を乗っ取ろうと、毎晩仲間と暗号を送りあっているのかもしれない。日本人は滅亡の危機にありながら、「うつくしい音色だねえ」とか言っている。マヌケである。マヌケであり、その計画を聴きながら穏やかな心地になれちゃう日本人はちょっと怖い。

『時が来たぞ!』『この秋を以って、二ホンは我らの物となる』『もともとは我らが先に住んでいた土地なのだ』『今こそ秋の虫達よ、結託するのだ!!!』

「いい声で鳴くね、きれいだねぇ」


千年以上もの間、秋の虫たちは滅亡計画を唱えているにも関わらず、なぜ未だに日本人は生き永らえているのか。彼らは冬になれば死んでしまうからだ。秋が来れば拳を突き上げるも、冬風にさらされ夢半ばで息絶える。そしてまた秋が来る。その間日本人はぽやぽやしながら「あはれなり」と文学にしてみたり、「ちんちろりん」とか歌ってみたりしている。たまったもんじゃないな。今年もまた羽根が擦り切れるまで、二ホン乗っ取り計画は遂行されるであろう。

あるいはもう一つの可能性として、畜生道に落ちた人間たちの会話かも知れない。
『お前は虫になる前に何やったの?俺はさ…』『寺の前で人を轢いて逃げちまった』『新入りっす、しゃっす!』『女子供を…』『ムシャクシャして…』『さすがの俺もそれは引くわ』
畜生道に行ったら人間に転生するのってほぼ不可能らしい。虫になった人間は虫のままで生きるしかない。でもせめて鳴けるのだったら、次は人間に生まれ変われるようにお経を唱えているのかも。明日は中秋の名月だ。月にまで鳴き声が届けばいい。


犬がいた 窪みはそっと盛り上がり
そして春来 白花の朝

さよならと言わずまたねと言う僕ら
生命線を書き足す様に

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