アジェンダを敢えて決めない読書会のススメ ~社会人読書会記録#1~

はじまりは突然に

ふとしたきっかけで、社会人になってから知り合った仲間同士のオンライン読書会が始まりました。はじまりは一本のLINE。現在スイスで新婚生活を送りながら、開発コンサルタントとして働いている友人からの彼女らしいお誘いでした。

詳細こそ忘れましたが、そこには月一回のペースで1時間、共通の本を読んで意見を共有する、といった読書会の概要が書かれており、すでに第1回目の課題本まで指定してある徹底ぶりでした。「薄くてすぐ読み終わるよ!」ということで、もはや逃げ道はありません。言われるがままにAmazonでポチり、当日まで本と向き合うことになりました。

そんな経緯で始まった、たったの4名でのオンライン読書会も、先月時点で5回を終えました。月1回ペースで進むため、半年近くは経っているわけですが、気付けば毎月のルーティンとして自分の中に定着しつつあります。ほかの参加者も、自分なりの準備をして各回に臨んでいる印象で、近況報告と合わせて知的会話を楽しめるゆとりがお互いに醸成されつつあります。

読書会が軌道に乗ったこともあり、この度記録としてnoteに記事として残すことにしました。ひょっとすると、ある日を境に突然終わってしまうかもしれない。そんな確たる基盤をもたない読書会です。

今回は、第一弾としてこれまで全5回で課題図書に指定した全6冊を取り上げて、私なりの感想を付していこうと思います。次回以降は、各参加者の具体的な発言内容で印象に残ったものも含めて、しっかりと記録していくつもりです。

#1課題図書『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(アービンジャー インスティテュート著)

初回は、現職(コンサル)に加えて個人でコーチングを行っている友人が指定したこちらの本をネタにディスカッションをしました。

友人曰く、今まで仕事で評価され続けてきたものの、部下をマネジメントする立場になった途端に歯車が狂い始めた人に対して、コーチングをする前にまず渡す本なのだとか。自分が期待しているパフォーマンス水準を満たす部下が現れない、むしろなぜか自分の部下から続々と退職者が出る…といった悩みを抱える人が世の中には多いのだそう。

この本は、「箱」という概念を通して、望ましい人間関係を構築するために備えておくべき心構えを描いています。本書の主人公が直面する、職場と日常生活の具体的な人間関係の事例を見ながら、良い言動と悪い言動の違いを炙り出すような構成となっており、非常に分かり易いです。

この「箱」という概念の子細を説明することはしませんが、ここでは自分の小さな「箱」から抜け出せている状態のことを、「自分(私)が相手の言いたいことを受け入れる状態にあり、そのことが相手にも伝わっている状態」と理解してもらえれば概ね合っています。(今流行りの言葉で言えば、心理的安全性が実現できている、ということとほぼ同義でしょう)

私を含む4名のメンバーは、いずれも会社では若手。そのため、ディスカッションの初めは「こういう上司、どの部署にはいるわー」と冗談を言い合っていましたが、徐々に関心は次の点に集約していきました。

相手を「箱」から出すことはできるのか?

この問いを解きほぐすために、いくつかの場面設定をして考えてみました。

まずは、ある些細なことがきっかけで不仲になってしまった友人関係の修復です。この場合、本書に従えば、自分の非を認め、相手を赦すことから始めることになります。ですが、過去の経験則から言って、必ずしもそれで万事が好転するとは限りません。

自分が相手との対話のテーブルにつく(≒「箱」から出た)としても、相手がそれに応じてくれるかは、あくまでも相手次第だからです。

あれ、これでは結局問題(=友人関係の修復)は解決できそうにない。

そこで、二つ目の場面として、自分のやり方に固執して全然話を聴いてくれない上司との関係構築を考えてみました。

「上司にも上司なりの考えがあるかも知れない…まずは話を聴いてみよう」と上司を一方的に攻めずに、心中を慮ることで「箱」から出ることを試みます。ところが、これも経験則としては、上司自身は自己変革をしようとはせず、自己流のマネジメントを貫き続けることが多いように思います。

加えて、相手(上司)を慮った結果、喧嘩にはならないものの、相手に良いように言いくるめられて腹に一物もつ…といったことになりかねず、自ら上司の元を去る部下になるのが関の山ではないでしょうか。

このように思考実験した末に「なんで、自分は「箱」の外に出ているのに、相手は出てこないんだ!」と思ってしまいます。

そしてこの瞬間こそまさに、自分も再び「箱」の中に戻ってしまうのです。

ここまで議論をした上で、4人が漠然と出した結論はこちら。

相手を変えることは難しい。けれど、自分を変えることはできる。結論自体は凡庸ではあるけれども、今回の「箱」の議論を通じて身に染みて感じることができた。

・これからマネジメントをする立場になる人
・親子関係、夫婦関係、親しい友人との関係等、根気のいる関係構築にお悩みの人
・心理的安全性を別の言葉で理解してみたい人

このあたりにおススメできる本だと思います。

#2課題図書『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)

原題は"Good to Great"。本書は、「Good(良好)はGreat(偉大)の敵」と冒頭で喝破した上で、飛躍ための7つの法則を説明しています。

この回では、私の方から業界トップとそれ以外の会社のメンタリティの違いを、これまでのコンサルティング経験を基に共有するところからはじめました。(とは言っても、コンサル経験者であれば常識の範疇でしょうが…)

業界トップの会社は、トップであるがゆえに追いかける背中がありません。むしろ業界を牽引する存在として、今後の業界のあり方を示し続ける必要さえあります。そんな企業に対するコンサルティングは、追随する企業へのそれと比べると、取り組むべきお題の視座の高さや、クライアントの抱く危機感・野心のレベルが異なります。このあたりが、GoodとGreatの違いなのかなと言った本書の確認をまずはしました。

その上で、本書を企業の成長に限らず、個人の成長に当てはめて読む見方も他の参加者から共有されました。詳しくは、冒頭に述べた7つの法則をご覧いただき想像してもらえればと思います。

この回でユニークだったのが、「バスに乗る人を決めて目的地を選ぶ」という話でした。そもそも、この読書会自体も特に目的は決めていないものの、とりあえず参加者を決めて、あとは為すがままにといったスタンスでやっています。

それでも、すでに5回にわたり続いているのだから、バスに乗る人を間違えなかったのだと言える段階にはたどり着けたのではないかと思っています。

ベンチャー企業の人材獲得も同じ発想で行うようです。

人材

4人の候補者がおり、その中から2人を選抜するとします。選抜に際しては、①わが社が求める能力要件を満たしているか、②わが社の理念に共感してチームメンバーと協力して仕事ができそうか、の2軸で判断します。すると、4候補者がきれいに上表の4象限に分かれました。

第一象限は、真っ先に採用。第三象限は真っ先に除外、というのは分かると思いますが、問題は第二象限と第四象限。すなわち、能力と人柄のどちらを優先すべきか?という点です。

勘の良い方はお気づきだと思いますが、能力ではなく人柄を優先で採るのが定石なのだそうです。全速前進で事業を進めるにあたって、内部で小競り合いが絶えない場合、何度もブレーキがかかってしまうことになります。必要な衝突はもちろんあると思いますが、大筋合意した上での話です。

やはり、何かを始めるにあたっては、誰をバスに乗せるかが一番大切。結局「人」に尽きる。といった点をこの回では確認できたように思います。

あまりに有名な本ですが
・コンサルティングファーム在籍者
・起業を検討している人
・スタートアップで試行錯誤の渦中にある人

といった辺りの人にとっては、気付きの多い本だと思います。

#3課題図書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィット・グレーバー著)

※本書は翻訳の評判が悪く、読めるメンバーは原書で読むことにしました。私は邦訳版を買っていましたが、やはり訳の粗さが気になり英語で読むことになりました笑

話題性のある本なので、知っている人も多いかと思います。特に、このご時世になってから自分の仕事が社会に与える影響を考える機会が増え、手に取った人も一定数いるものと思っています。私もそんな一人でして、転職活動をして今に至っています。

本書は、多種多様の本当にどうでもいい仕事が世の中にたくさんあることを、少し回りくどく、しかし豊富な証言とそれに基づく分析を通して実感させてくれます。この回の読書会では、本書の内容を掘り下げるというよりは、「身近にあるどうでもいい仕事」や「自分の仕事にも当てはまるどうでもいいタスク」について語る会となりました。

直接的に世の中のためになっていると実感がしやすい職業は、エッセンシャルワークと別称で呼ばれることもありますが、参加者はどちらかというと知識社会の象徴たる業種・業界に勤めています。そのため、ここでは書けないような窓際っぷりを発揮している上司や、定年逃げ切りの上司、何をやっているのかよく分からないような上司、など日本の中だけでもきっと無駄な仕事がたくさんあるのだと再確認する機会となりました。

全体を通して、未来の見通しが暗くなるようなディスカッションになった回ではあったものの「今まさに世の中で問題として挙がっていること」に真正面から向き合う、マクロな視点で物事を俯瞰する学生時代に戻ったかのような回であるとも言えました。

・資本主義の歪みとして表出している現象を理解したい人
・ベーシック・インカム(BI)論がなぜ生まれているのか理解したい人
・自分の仕事に疑念を抱き始めている人
は是非手に取ってみて欲しい著作と言えます。

#4課題図書2冊 『思考力』(外山滋比古著)&『地獄変』(芥川龍之介作)

第4回目は、軽く読める2冊としてこれらの本が選ばれました。

芥川龍之介の『地獄変』は、実はちゃんと読んだことがなかったため、自分の教養を深めるという意味でもいい読書体験でした。モラルか芸術かという二者択一の部分はもちろん話に上りましたが、私が個人的に興味をそそられたのは物語の構成。

物語前半は、背景説明が多かったこともあり、一体この物語はどこに向かっていくのかと一抹の不安を覚えながら読み進めていくことになりました。しかし、ここが芥川龍之介の力業と言いますか、作品中盤で突如、物語を強く推進するパートが登場し、そこからはあっという間に結末まで連れていかれました。人に「読ませる」作品は、このような引力があるのだと、読書会に臨む前に感じていました。

次の『思考力』は、『思考の整理学』でお馴染みの外山滋比古先生による著作。読後感はあまりよくなく、正直『思考の整理学』の二番煎じと思わざるを得ない出来だと思います。

引っ掛かりが大きかったのは、知識は思考の妨げになるという件(くだり)です。機械学習の分野で言われるように、人間もある一定の知識を入れすぎるとかえって発想が出にくくなる「過学習」に陥ることもありますが、全く何も入れないとなると、アウトプットの質もかなり下がるように思われました。この点は、他の参加者も同意で、外山先生は言い過ぎであろうというのが見解となりました。

好意的にこの著作を捉えるなら、これは典型的な炎上商法型のHow-To本ではないかということです。中庸な意見では本が売れない。そこで、多少無理をしてでも極論の側に主張を振り切ることで、まずは手に取って読んでもらうように仕向けたのかもしれません。

『地獄変』は未読の方は、青空文庫でも読めるので、教養を深める意味でも時間を見つけて読むといいでしょう。他方、『思考力』はイマイチだったので、王道の『思考の整理学』を熟読する方が得るものが多そうです。

#5課題図書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著)

直近、第5回目に扱ったのが最近書店で名前が目立つようになったブレイディみかこさんの話題作。元底辺中学校に通うことになった息子さんが、中学校で直面する英国の階級社会の様子を問題提起を含めて鋭く描いた著作です。

この回は今までで一番盛り上がりました。というのも、お互いの生い立ちや経験が色濃く反映されたエピソードトークをベースに

・多様性って何で大事なのか?
・格差社会に対して自分たちが出来ることは何か?
・自分たちが知らない世界(階層)のことについて、どこまで知っていればいいのか?

といった問いに対して、結論を出すことなく意見を投げ掛け合うことになりました。特に3点目は、知って何になるのか、それが商機に繋がるのか、といった功利主義的な価値観を一方に置きながらも、道義的に知っておくべきだというカントの道徳律のような価値観から論を展開することもできます。そのため、個人の価値観に立脚して各々が善いと考える言動をしていくに尽きるのかなと散会直後には思ってみたりしました。

新刊の『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』でより掘り下げて語られるところではありますが、エンパシー(empathy)を磨くことが最も手近に、けれども最も難しい一つの突破口になるのではと今では思っています。

余談ですが、この息子さんがあまりにも出来過ぎているので、私はそういう変わった性格なのかなと思っていました。この点、他のメンバーに共有すると、「子どもは親に見られていることに自覚的だから、本書には書かれていないような悩みを抱えていたり、親が喜ぶようなことを気を利かせて言っている可能性が高い」、と自分の経験を踏まえた鋭い反応があり、そういうメタ的な読み方の醍醐味を味わえた気がします。

・昨今のダイバーシティ(多様性)の議論に興味がある人
・日本も含め世界の格差が益々広がってきていると感じている人
・ウィットに富んだ文章が読みたい人
はぜひ、本書を手に取り混沌とした、面倒なことが多い多様性の世界に足を踏み入れてはいかがでしょう。

最後に

ここまで取り留めもなく、記憶の限りで(多分記憶違いもあります)5回分を振り返ってみました。1冊でも気になる本があれば、読書の幅を広げる試みとして、まとまったお休みにでもトライしていただければと思っています。

書きながら気が付いたことがあるとすれば、タイトルにもあるように、敢えてテーマを決めずとも、ネタと場所があれば共有できるコンテンツができる、という実感です。日頃仕事をしていると、限られた会議時間で多くのことを決めなければなりません。そのため、アジェンダを設定し、時間配分をしっかり行い、会議の着地点もシナリオとして描いておくことが、会議主催者には期待されます。

それと対極のことを、現メンバーでやっているわけです。ですが、発散と収束の議論が自然と出来ており、本源的には誰かが頑張らなくても会議は何とかなること、何なら設計しない方が予期せぬ面白い方向に進んでくれる可能性を秘めていることを、5回を通して実感しつつあります。

今後も、ゆっくりしたペースではありますが、読書会は続きます。学びや気付きの多い回となるよう、更なる自己研鑽を積もうと決意を新たにしたところで、一旦筆を下ろしたいと思います。

大学院での一番の学びは「立ち止まる勇気」。変化の多い世の中だからこそ、変わらぬものを見通せる透徹さを身に着けたいものです。気付きの多い記事が書けるよう頑張ります。