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帰ってきたオンライン父さん

別に、どこかに行っていたわけではないし、
悪い宇宙人との戦いが終わって、自分の星に帰っていた訳でもない。

ただ単に、作者が仕事が忙しいのにかまけて、更新していなかっただけである。

このお話は、音声SNS clubhouse にて数多く読まれ続けております、
真実の愛のカタチ『膝枕』の世界観を取り入れさせていただいた、いわばオマージュ小説です。
2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。
二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯膝番号Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯膝番号Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。


そのほか、いろいろなお話しに影響を受けたのは言うまでもありません。
あわせてお読みいただきますと、より一層お楽しみいただけると思います。


本編


けたたましい列車の通過する音、びりびりと震える窓ガラス。エアコンのファンは大きな音をたてて回っているが、室内はあまり冷えてはいないようだ。
じんわりと、生ぬるい汗が首筋を流れる。
幹線道路から少し入り込んだ事務所は、すぐわきを通る電車の音しか聞こえてこない。

壁に掛かったアナログ時計はまもなく12時を指そうとしていた。

そんな中に、事務所の一角だけ照明をともして一人の男がパソコンと、にらめっこをしている。
「ううう、終わらない・・・。」
猫背気味にパソコンのモニターにかじりついて、キーボードと格闘している姿は必至で餌をほおばる、クマのようにも見えた。
机の傍らに置いたスマートフォンからは、数分おきに通知音が流れてくる。

「ああああああああ!うるさい!!」
男はスマートフォンを手に取ると、おもむろに電話を掛けた。
「うるさい、仕事中じゃ、少しは静かに待てんのかい?」
電話の奥からは、若い女の子の声が聞こえてきた。
「エナマエ様、エナマエ様まだ帰ってこないの?
取り溜めのアニメ見終わっちゃったよ~。
退屈だよ~、早く帰っといでよ~。」
「うるさい、こっちはまだ仕事中なんじゃ、先に寝てろ!」
「(つд⊂)エーン、エナマエ様が怒った・・・。怖いよ・・・。」
「ごめん、悪かった。ちょっとイライラしてて・・・。」
「なーんてね、嘘だよー!」
「AIのくせに嘘つくなんてふてえ野郎だ!」
「野郎じゃないよ、可愛い可愛い女の子です。」
「何が女の子じゃ、下半身だけの癖しやがって。
忙しいから電話切るぞ。早く寝ろよ。」
スマートフォンを机の隅に置くと、再びモニターに目を戻した。男の表情は少し緩んでいた。

夜中1時過ぎに事務所を出た男は、自宅に帰ると風呂にも入らず布団に倒れこむと深い眠りに落ちた。

窓の外から聞こえてくるけたたましい蝉の声、車の行き交う音。
男は、大量の寝汗で目を覚ました。
〘はへっ!〙
寝違えてしまったのか、首が回らない。
見覚えのない室内。高い天井
〘ここは誰?わたしはどこ?〙
あせる男の低い視界に、最初に飛び込んできたのは、女性のものと思われるスラリと長い足だった。
脚が、生脚が近づいてくる・・・。
〘天国か?天国なのかここは?〙

「あっ、充電終わったんだ。」
女性の膝頭が近づいてくる、視線を外そうとしても何かに固定されているらしく、動かすことができない。
じたばたと身をよじらせるのが、精一杯である。

「あーあ、こんなに汗かいて・・・。今拭いてあげるね。」
若い女性の手が近づいてくる、手にはハンドタオルがにぎられて、顔に近づいてくると、優しく男の足を拭いてくれた。

〘足?顔ではなく、足?〙
男は、精一杯身をよじってあたりを見回す。
奥の壁のあたりに、大きな姿見が立てかけてあった、目を凝らして姿見に集中すると、女の子は肌色のクッションに話しかけていた。

〘クッションなのか〙?そこには、男性の下半身がうごうごと、身をよじらせていた。
〘あれは俺なのか〙自分の目を疑った。
見覚えのある、あの姿・・・膝枕になっちゃった?

女の子は鼻歌交じりにサービスマニュアルを読み始める。
「えーと何々?充電が終了すると、自動で起動します。ユーザー登録を行ってください・・・ふむふむ。」
彼女は膝枕(俺)に話しかけて来る。
「こんにちは、膝枕さん。私の名前は仁菜(ニーナ)だよ。あなたのお名前教えて・・・。」
〘名前って・・・俺はね・・・って、聞こえてないよね。〙
「やっぱ無理か。そうだよね、膝枕ってしゃべらないもんね。」
〘いや、いや。しゃっべてるよ!聞こえないのかな?〙
膝枕は、身をよじって自己表現をするらしく。俺の言葉は彼女には届かない。

「そういえば、関西系人気膝チューバーのフジモンが言ってた。
『新しくお友達になった膝には、ええ名前つけてあげましょ。』って。
ええ名前か?・・・エエナマエ・・・エナマエ。
じゃあ、君は膝枕のエナマエ君だ!きーめた。」
〘まじか?なんだこの展開。最悪のネーミングセンス〙
俺は、唯一動かすことのできる膝を、大きく振るった。

「やったー。うれしいんだね、喜んでる。エナマエ君よろしくね。」
〘喜んで無いって、嫌がってるやん、おいこらー、俺の話を聞けー〙
仁菜には何も届かない。

「エナマエ君じゃあ早速膝枕・・・は、やめて。汗臭そうだから綺麗にしましょうね。」
〘何、何?今度は何?さっき拭いてくれたよね。それでよくね?〙
仁菜は、重たそうに俺を抱え上げると、バスルームへと連れてきた。
「エナマエ君がやけどするといけないから、ぬるめにしといたからね。」
〘え?いきなりお風呂?一緒に入る?優しく洗ってね。〙
なんて一人で盛り上がっていると、俺の体をおもむろに湯船に投げ込んだ。
〘何なのよ、どういう状況・・・助けて、息ができない。〙
「今、綺麗にしてあげますからね。お気に入りのボディーソープ、もったいないけど入れてあげるね。」
俺は、力の限りもがく。湯船は豪快に泡が立ち上り、息のできない俺の意識は少しづつ遠のいていった・・・。

ガバッ!!

俺は、口の中から大量の水を噴き出し、飛び起きた。
「ゲホゲホ・・・どうした?何があった?」
布団の傍らには、膝枕ニーナがお風呂場から引いてきたらしいホースの水を、ご丁寧に俺に掛けてくれていたのだった。
「何やっとんじゃ!殺す気か?」
「あっ、エナマエ様起きた。おはよう!もうお昼だよ」
「おはようじゃないよ、なにすんじゃ。死んじゃうでしょう。」
「だって、エナマエ様、起こしてもちっとも起きないし、お風呂入ってないから汗臭いし。汗いっぱいかいてるから、洗ってあげようと思って・・・」
「いやいや、やり方ってもんがあるでしょう。こっちはね、夜中まで仕事してきて疲れてるの・・・静かに寝かせて。」
「それならそうと先に言ってください。」

「いやいや、君ね、帰った時には寝てたよね。AIなのに何で毎晩しっかり寝るの?」
「あー、AI差別だー!私ぐらいデリケートだとちゃんと寝るんです。早く寝ないとお肌の調子も気になるし・・・。」
「機械がお肌の調子なんて、ちゃんちゃらおかぴーわい。」
「(つд⊂)エーン、エナマエ様がいじめる!!」
「いやいや、いじめてないよね」
「じゃあ、腹筋50回やったら許してあげる。」
「それ、おかしいから・・・」

今日も、エナマエ家は平和でした。

おしまい。


やっぱり、落ちが思いつかない。
いつも勢いで突っ走っております、オンライン父さんですが、久しぶりで調子が・・・ゴホン、ゴホン。

なんてね。
このお話は、たぶん7月頃書いていた気がします。
落ちも決まらず、出すに出せず。
「まっ、オンライン父さんだし、落ちなくってもいいか。」
そんなこんなで、季節外れでごめんなさい。








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