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2023年9月、モンゴル2泊3日紀行~ウランバーとる場合ですよ

 まだ見ぬ異国を見たくてモンゴルを訪れた。
 私が住む韓国からLCCで往復2~3万円台。2泊3日で現実逃避・異国体験するにはちょうどいい国と言える。もちろん草原やゲルを見るには短すぎる日程だが、私はとにかく首都ウランバートルを歩いてみたかった。
 改めて、モンゴルには私なりに勝手なイメージや憧れを抱いていたように思う。かつての社会主義国。異国感ある言葉や文字、民俗衣装から食文化まで、個性の強いモンゴル文化。今ヒップホップが流行ってるとか? 人々は相撲に親近感があり、街には寿司屋やちゃんこ鍋屋など親日的な要素が多いのでは?
 ところが到着した街は、驚くほど韓国っぽいではないか。町で目に入るのは韓国系コンビニ「CU」や「GS25」ばかり。店内に入ればスナックもビールも弁当も韓国のものだらけ。韓国系デパートの「Eマート」や「ロッテマート」、韓国コスメチェーン店の看板は頻繁に見かけるし、カフェもスターバックスは皆無で「TOM N TOMS」「トゥーサムプレイス」など韓国系チェーン店ばかりが目につく。
 そして日本的な要素は予想以上に少ないのだった。宿泊した「東横イン」、空港の「味仙ラーメン」以外に日本のチェーン店を見なかった気がする。街に寿司屋やラーメン屋はなくはないが、あちこちにあるチキン屋やキンパ屋など韓国料理屋に比べたら存在感は遥かに薄い。
 そのうち歩く人々も、韓国人っぽく思えてきた。若者たちがおしゃべりしている声は、油断すると韓国語かと錯覚するほど似ているし、大陸の人どうしだからか顔つきも近い。女性のメイクはちょっと欧米寄りかなと思うけど、人々の服装は韓国で見かけるのと大差ない気もする。
 これらはもちろん私の主観でしかなく、しかもたかが2泊3日の見分では何も分からないとは思うが、行ってみて初めて知ることがあるという事実にわくわくした、久しぶりの一人旅だった。
 ここではネットにはあまり出ていない最新の旅情報を中心にまとめてみたいと思う。

韓国料理屋が違和感なく町に溶けこむ
韓国コンビニ「CU」は、ソウルかというほど頻繁に出会う
コンビニはデートスポットにも?
「Eマート」も既に何軒かある。
街の中心にある「ソウル通り」は、ウランバートルとソウルの姉妹都市締結を記念し造成された



■空港から

 空港に到着した私は少額の両替を済ました後、まず市内へ向かう交通を探した。U BUSというシャトルバスが安くて便利と聞いていたが、いま出発したばかりで次は2時間後だと係員(TRANSPORTATION SERVICE)は言う。他のバスもなく、タクシーしか手段がないと言われ、しかたなくその人に目的地を告げ車を手配してもらった。「東横インというホテルなんですが、ひょっとして知ってますか?」と恐る恐る聞くと「もちろん!」と即答。東横インの認知度にちょっと嬉しくなるのだった。タクシー代は10万MND。ちなみに4割した数字が韓国ウォンと同額(この場合は4万W、つまり4千円強)と考えると計算しやすい。
 絵画のような草原を抜けると現れる街並みは、初見ではロシアの地方都市を思わせる印象。社会主義的な四角い建物とキリル文字の看板が旅情を誘う。中心部に近づくと、車の渋滞がひどくなかなか先に進めない。人々の運転は荒く、隙間に入り込もうと車体をギリギリまで近づけてくる。ボコボコの車が普通に走っている姿もよく見たが、ちょっとこすったぐらいでは気にしないようだ。

 1時間半ほど経ち、そろそろホテルに近づいたのではと思われるころ、英語の全く話せない運転手が、私に電話をよこした。電話の声は、さきほどタクシーを手配してくれた係員だった。
「ホテル、どこでしたっけ?」
 知ってるって言っただろ。

草原を抜けてウランバートルへ

■東横イン

 世界の東横インをチェックするのが趣味の私。予定日から実際の開業までかなり時間がかかったがコロナ禍を前にやっとオープンしたウランバートルの東横インを確認するのも、モンゴル行きの目的のひとつだった。
 キリル文字がかっこいい看板。フロントはどなたも日本語が話せてほっとする。やはりお部屋は、照明も鏡も小さいティッシュも、細かいディテールまで日本の東横インそのままだ。おなじみ「内観」もある。なのに窓を開ければ異国!というパラレルワールド感をしばし満喫する。テレビにいきなり大相撲中継が映し出されたのも最高だ(サービス?)。
 違いと言えばシングルなのに部屋とベッドが日本に比べ少し広いこと。モンゴル人の体格に合わせたのだろうか。そしてもうひとつ、シャワーカーテンがなんか臭い。
 これはちょっと困ったことになったと思い、部屋を変えてもらった。受付の方は嫌な顔をせず別の部屋に案内してくれた。ほっとしたのもつかの間、やはりシャワーカーテンは臭かった。そしてテレビにはまた大相撲中継が。

 シャワーカーテンの件はあっても、日本と変わらないホスピタリティーはとても満足できるものだった。スタッフが作り慣れているのだろう、モンゴルの家庭料理感ある朝食も大満足だ。
 これまで海外東横インはいろいろ体験したが、中でもがんばっている方だと思った。カンボジアやドイツとは異なりポイントもたまるし、超おすすめ。

とえおこんふふ、ではない
ウランバートルです
おにぎりやみそ汁のない独自路線の素晴らしい朝食。オレンジジュースだと思って飲んだものが、酸味ゼロの未知の味でびびる。「チャツァルガン」というモンゴルのスーパーフードらしい

■町歩き

 ウランバートル滞在中はとにかく歩き続けた。バスに乗っても良かったが、渋滞がひどいからか、グーグルマップで調べるとバスでも徒歩でも1時間と出るので、結局歩いた。何時間もかけてウランバートル中心部の端から端まで。
 またネットの情報によると、スリが多く、夜歩くのは危険とある。最初は緊張したがそんな必要はないと感じるようになり、毎日日が変わるまで街をほっつき歩いていた。男だからということはあるかもしれないが、危険を感じたことは全くなかった。
 いや、やはり危険がないと言ったら嘘だ。危険はある。もっとフィジカルに。
 まず車の運転が荒い。車より怖いのが電動キックボードだ。想定外の角度から猛スピードでつっこんでくるので前後左右常に気をつけるべし。
 そして足元も要注意だ。道路の凸凹は韓国の比ではない。気持ちよく歩いていたら突然の段差にスコーンと足を踏み外すことになる。一度は道路に刺さっていた大きな釘を思いっきり蹴ってしまった(古いガイドブックによると、マンホールの蓋が開いている時もあるという)。水はけが悪いのか、晴れているのに謎の水たまりがあちこちにあるのも危険だ。
 
 冒頭で町の雰囲気は韓国に似ていると書いたが、誤解を恐れずに言えば、韓国をほんの少しワイルドにした感じと言っていいかもしれない。
 そういえば帰りの空港行きのU BUSを、前日の朝に東横インのフロントで予約してもらった。なぜかその場では結果は分からず、午後4時に集合時間など連絡が来るという。ところがその時間にフロントに聞いても、まだ返事が来ないから夜7時まで待ってくれと言う。予約はとれているのか、もしフライトに間に合わないバスしかなかったらどうするのか、ちょっとハラハラしたが、結果予約できたと連絡が来た。朝8時のバスで空港で4時間待たなければならなかったが。
 他にも、注文した料理が出るのがめっちゃ遅いとか、半地下レコード屋のレコードが湿っていたとか、ちょっとしたトラブルがいろいろあったが、こういうざっくりしたケンチャナヨ感がモンゴルっぽさかもしれない。

ハト多すぎ
ウランバートルの飛び出し坊や
左側を歩くことが推奨されている?


■食事とカフェ

 モンゴルの料理と言えば肉と小麦粉ばかりで野菜がない、という勝手なイメージを抱いていたが、まさにそうだった。食事に関してはたっぷり異国感を味わうことができた。
 初日の夜は、モンゴルに詳しい日本人の知人からお勧めしてもらった、モンゴル式しゃぶしゃぶの店「THE BULL」に行ってみた。混んでいて一人客は断られるかと思ったが、それでもちゃんと案内してもらえた。
 ところでモンゴル式しゃぶしゃぶとは? 一見、韓国を始め海外によくある日本式しゃぶしゃぶと変わらなかったが、選択できるメニューの中に「モンゴリアン牛骨スープ」と「羊肉」があり、これこそモンゴルではと頼んでみた。
 スープは牛骨感はあまりなく、コーンとナツメがアクセントとなるあっさり味。そこに羊肉を投入し、あまり火が通らないうちにいただく。肉に臭みはまったくなく、半生でも違和感なくするする食べることができる。しかし慣れないからか羊肉の味に脂っぽさに飽きてしまい、貴重な野菜を平らげる方向に徹する。
 
 二日目の夜はビアホールに行ってみた。今回の旅行で唯一持っていった参考書が2005年版『地球の歩き方』で(歩き方は旅の読み物として最高)、そこにも載っていた場所だ。ソーセージと生ビールを注文。これだけで20分待たされたのは謎だったが、肉の国だからかやはりソーセージは最高にうまい。お通しの黒糖パンもうまい。地元の酔っ払いが立ち寄る老舗店という雰囲気もいい。
 
 昼には調べもせず地元の人が通いそうな食堂にも飛び込んでみた。地球の歩き方の写真を指差しつつ注文したのは、醤油味の肉うどん。おなじみの中華っぽい味付けで、麺はもちもちでうまい。9000 MNDと安いがあまりのボリュームに食べきれず。
 
 韓国系のカフェにはさすがに入らななかったが、ウランバートルで人気の今っぽいカフェをインスタで見つけたので行ってみた。「R.O.C」というそこは、市内にチェーン店をいくつか展開しているよう。自社焙煎しているというコーヒーの味は、想像以上にしっかりしたものだった。日本にあっても全く遜色ない味。ハンドドリップが1万MND(約400円)。
 ところでウランバートルの若者は、カフェではなくコンビニに集まっているように見受けられた。韓国系コンビニには店内にイートインコーナーがあり、親切なことにスマホを充電するコンセントもある。そのくつろぎ感は韓国以上で、どの店にもカフェのようにくつろぐ人が必ずいて席がないことも多く、若者たちの居場所になっているようだった。

THE BULL
CHINGGIS CLUB
通りがかりの食堂。英語はどこも通じない印象
R.O.C

■音楽

 現地の音楽を掘りたいというのも旅の目的のひとつ。モンゴルのアーティストと言えば、ミュンヘン在住のモンゴル人ジャズボーカリストENJI、モンゴルの映画で知ったシンガーソングライターMAGNOLIAN、かつて韓国でライブを観たロックバンドのMOHANIKあたりが私の好きなラインナップだ。近年モンゴルで勢いがあるというヒップホップ、その歴史をひも解くドキュメンタリー映画『モンゴリアンブリンク』も楽しく観賞。それらの現場を見て、音盤も買えたらと思っていた。
 
 ここもレコードブームなようで、良さげなレコード屋は市内にいくつかあったが、定休日の関係で立ち寄れたのはふたつ。「WELCOME RECORDS」はレコードオンリーのショップ。いきなりMAGNOLIANの欲しかったレコードが飾られていたが非売品とのこと。モンゴルのものはないかと聞くとTHE HUの7インチを勧められる。
 「DundGol Records」は地下がレコード屋、1階がライブもできるカフェバー。地元アーティストとのつながりが強そうで、モンゴルのアイテムもある程度あった。次の日にバーの前を通り過ぎたらモンゴルのベテランバンドLEMONSがいてびびる。ウランバートル狭い。
 正直、レコードは思った以上に高くて手が出せなかった。棚に並ぶ新品の大半は1万円以上だし、中古もそれほど安くなく日本・韓国からの輸入品が多い印象。
 
 CD屋は、困ったことにほとんど見つけられなかった。国営デパートに大きなCDショップ「Hi-Fi RECORDS」があるとネットで見たが、既に撤退していた。検索すると向かいのビルにある模様。看板はあれどどこに店があるのか分からず、何度も行ったり来たりしながらアパートの裏口にある何も書かれていない鉄のドアを開けると、地下1階にワンフロアの事務所が。完全な無音で、味気のない棚が並ぶ様子は輸入食材屋のようだったが、果たしてそこが「Hi-Fi RECORDS」だった。並ぶCDの大半が伝統音楽。大衆音楽は、LEMONSやTHE COLORSなどベテランのものはあったが、もっといろいろあると良かった。とはいえ、どこの国のアーティストも最近はデジタルだけでCDなんて作らないのかもしれない。
 一体どこでCDが買えるのか探しまわったが全く見つからない。と思いきや、旅行を終えモンゴルを出国した後の土産屋のレジに、いきなりTHE HUのCDが並んでいた。去年のフジロックにも出た通好みのバンドだが、本国ではこういう扱いなのかと驚く(なお、出国後エリアに両替所はないので、出国前に残ったお金を両替するのがいい。THE HUはカードで買おう)。
 現地で買いたかったMAGNOLIANのCDは結局、日本で日本版ベストを購入した。
 
 月曜火曜の日程では営業中のクラブもほとんどない。ただしほぼ毎日ライブをやっているウランバートルの代表的なライブハウス「FAT CAT JAZZ CLUB」には立ち寄ることができた。基本はジャズ箱だがロックバンドの演奏もあり、ENJIやMAGNOLIANなど大物も登場している。
 私が観たのはオーソドックスなジャズバンド(入場料は35万MND)。なぜか韓国人の客が多い。やはり地元の若者が通うライブは土日に多そうだ。街のポスターを探して訪れるのがいいのかもしれない。
 
 以上、あくまで二泊三日という短い期間の見分からの感想です。

ヒップホップ感あふれるウランバートルの街並み
WELCOME RECORDS
DundGol Records
看板のない扉の先が「Hi-Fi RECORDS」。グーグルマップが不思議な場所を示すが、位置は正しい
FAT CAT JAZZ CLUB
週末なら街のポスターを探してライブに行きたいものだ

 韓国に帰った次の週に、弘大ストレンジフルーツにてモンゴルの若手3バンドが登場するイベントがあり足を運んだのが、とても良い体験ができた。
 「Teresa In The Moon」はダークなパンクバンド。今のモンゴルの若者という感じ。「Uudee’s Swashbuckling Dandies」は8人編成の大所帯バンドで、モデル出身のギターボーカルがプリンスのようなカリスマ性を発揮する。夜のウランバートルの裏道を思い出させる不思議な魅力があった。最後の「Silhouette Tuesday」は中でもキャリアの長いバンドだが、機材トラブルをものともしない人間味あふれる演奏は、ゴリゴリのロックバンドで素晴らしい(しかし後にユーチューブを探しても、私が見たのとは全然違うんだよね)。
 そして会場はモンゴル人留学生ばかりで、大いに盛り上がっていたのも最高だった。思いもせずソウルでウランバートルの夜を堪能してしまった。
 次は毎年7月にウランバートルで開催されるロックフェス「PLAYTIME FESTIVAL」に合わせて再訪したいものだ。

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