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「Little Letter」曲目解説(3)Unknown Circle

使用ギター:Ken Oya(2008)
使用マイク:DPA 4006A

このアルバムの中心は何かと問われれば、この曲になるでしょう。
サビのパートは2012年頃に作った記録があります。仮タイトルは「子ども達へ」というものでした。自分達が去った後、子ども達が生きる世界に向けて、というテーマでした。

それから8年、完成できないまま置いてありましたが、2020年初頭からの新型コロナウィルス・パンデミックの状況下で、テーマがリアルさを持ち始めてきました。

2020年3月は、忘れられない時期でした。
人を集める事はタブー視され、ライブ開催が難しくなり、ギターを持って歩いてるだけで白い目を向けられるような感覚を持ちました。
全てが何もわからないまま感染が広がっていったので無理もない話です。あらためて我々は「音楽が無意識下でなんとなく認められている世の中」があって、活動が成り立つのだな、と実感しました。


そんな中ギタリスト山本哲也さんとのツアーが迫ってました。
彼の地元を中心としたものでしたが「当然延期」という世間の空気の中、彼は「やりましょう」と言ってくれました。
その心意気に応える意味もこめて、絶対に新しい曲を作ってツアーで弾こうと思ったのです。


そうした複合的な流れの中で完成した曲で、自分にとって特別な一曲がまた加わった思いがしています。

スティール弦のメインであるKen Oya(2008)で録り一度OKを出したのですが、今回のメインマイク、Schoepsとの相性が少し気になって前作で採用したDPA4006Aで録り直しています。

Schoeps CMC65(単一指向性モード)はもちろん素晴らしい名器で、クラシックの現場でも定番マイクのひとつとして世界中で採用されています。
一方DPA4006Aは、無指向性の名器として名だたるマイクです。

指向性の違いを大まかに述べると
・単一指向性マイクは狙った対象からの音を拾う
・無指向性マイクはその空間に響く音を拾う
という感じです。

前作までは無指向性マイクをずっとメインに使っていて、単一指向性をメインに据えるのは実は14年ぶりなんです。

特にSchoepsは狙ったパートの魅力を録り切る能力に優れていて、それが旋律の流れだったり、目立たせたい声部がその通り表現できたり、要するに非常にドラマが録れるマイクだと思います。
対するDPAはこちらの「様子」まで録れるような全体感を感じる、優れた無指向性マイクです。「佇まいが録れるマイク」という個人的に付けたキャッチコピーはかなり的を得ています。


Ken Oyaが持つ楽器としての全体感は、DPAの方がより再現できると今回実感しました。Schoepsで録ったものももちろん良いテイクだったのですが、このくらい高度な道具のぶつかり合いになるとちょっとした事で全てが変わってしまうものです。


結果、心から納得いく音楽が録れました。
あそこで妥協せず本当に良かったです。

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