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小説「つみびと」山田詠美〜ある事件を元に

10年程前、
大阪で幼子2人をマンションに置き去りにして、
死亡させた事件を覚えていますか?

この小説は、その事件を元に書かれたもので
ノンフィクションではありません。

あの時、多くの人は、
あまりの惨さに絶句したり、
未熟すぎる母親をモンスター扱いしたと思います。

誰も子どもたちを救えなかったの?
親子を助けられなかったの?


いろんな感情と疑問を持ったと思います。

私は、同じ母親として他人事とは思えなかった。

幼い子を育てているとき、
ふと、この子達を殺してしまうんじゃないかと
思う時がありました。

私がいなければ、何もできない子ども。

わけもなく泣き喚く子ども。

どこへ行くにも一緒。
トイレにまでついてくる子ども。

まるで足に大きな爆弾をつけて歩いているような、
そんな重い気持ちで毎日を生きていた。

今はもう子供たちは自立して、
手を離れたけれど、
しんどかったあの時を思い出すと
ただただ、子どもたち可愛かったよね、
楽しかったよね、
なんて、思い出に耽ることはできない。

この小説は
犯人の蓮音 
その母親の琴音 
死んだ幼児桃太
3人の視点で描かれています。

3人の人生が壮絶で、辛くて
なかなか読み進めることが難しい。

食べ物もなく、暑い部屋で、妹を励ましながら、
外に出ることも出来ず、死に絶える桃太。

犯人の蓮音、その母親の琴音、どちらも
普通の家庭で、普通に育ったと思っている人間には
想像できないくらいの傷を小さな時から負っている。

周りの人たちは、犯人の蓮音を放っておいたわけではない。

助けの手を差し伸べたり、
助言したり、
気にして連絡をとる人もいた。
友達もいた。親もいた。
蓮音は一人ぼっちではなかった。

それなのに、最悪の事態になってしまったのは
なぜなんだろう?

困り果てた蓮音は児童相談所にだって電話したのだ。
けれども、行き違いが重なり助けてもらう機会は失われた。
父親、元夫とその実家にもその深い絶望を語る術を持たず、
援助の必要性すら説明できなかった。(p405)

蓮音だって、
最初から子どもを見殺しにしようなんて
思っていなかったし、
子どもを愛おしいと思って育てていただろうに、
それでも、悲劇は起きてしまう。

どんよりした気持ちになるけれども
最後の最後に希望が持てる
そんな読後感でした。

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