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暴れ好奇心娘をつなぎとめる絶技

 大阪城公園でやっていた大道芸を、2歳の娘といっしょに観た。

 通りがかりにパフォーマーの口上が聴こえてきていたが、もりもり歩きたい盛りの娘だからそのまま通り過ぎるのかと思ったら、足を止めて「なにがはじまるんだろう?」という顔でじっと見ていた。
 これは本気で興味を示しているな、と思ったので、ぼくも娘といっしょに観ることにした。

 どうやら大道芸のパフォーマンスのようだった。
 BGMと口上に併せてテンポ良く次々と技が繰り出されてゆく。
 ボールを指や天高く伸ばした棒の上で回転させる芸や最大7個のカラーボールを使ったジャグリング、不安定な筒の上に乗せた板に乗ってクラブ(ボウリングのピンみたいなやつ)ジャグリング、中国ゴマ(ディアボロ)等……

 娘は何かに圧倒されてか、横にしゃがんだぼくの腕をぎゅっと握っていた。でも、後ろに隠れたりすることなく、ひとときも目を離さず真剣な表情でパフォーマンスを観ており、ときおりつぶやくように、
「すごい……」とか「ほんとにすごい……」とか言っていた。

 実際どの技もものすごくて、ぼくも鳥肌が立つほど圧倒された。
 パフォーマーは各ワザの前に、
「これ思ってるより何倍も難しいので成功したら拍手ください!」「いまからやる技、風や太陽の光の加減、その日のコンディションとかで成功しないこともあります。実際前回チャレンジしてエラい目に合いました」
 というように難しさを説明をしてくれるし、BGMの展開とパフォーマンスの見せ場がマッチしていて、ぐんぐん引き込まれた。
 オーディエンスからも歓声や拍手が自然とでてくる。
 技が失敗してもパフォーマーの方が、
「ああっ、失敗した! ちょっとBGM止まっちゃいましたけど、これ成功させたいのでもう一回やります!」
 と言って再チャレンジ。成功すると、
「っしゃ、キタ!!」
 とカタルシスを漏らしたりするので、みんな「ウォー!!」ってなった。

 とくに中国ゴマ(ディアボロ)がすごかった。
 ディアボロというのは、球体を切断してひっくり返したような、砂時計に似た形のコマだ。それを2本のスティックをつなぐ紐に絡ませて回転させたり跳ね上げたりする。

「ぼくの十何年かが今からやる3、4分に詰まってます」
 という前口上の通り、リズミカルで楽しくも鬼気迫るパフォーマンスだった。

 説明つきの大技もすごいんですが、次々繰り出されるコンビネーションの中の1秒にも満たない瞬間、空中に放り出されたディアボロに2本のスティックのうち1本を投げて紐を絡ませキャッチするっていうのをやってて訳分からなすぎて泣きそうになってしまった。

 ちょっと途中から娘のこと忘れてぼくが夢中になって観てたけど、娘もずっとパフォーマンスから目を離すことなく「すごい……!」と言ったりおもちゃを持ったままの手で拍手したりしていた。
 パフォーマンスは20分くらいあったと思うが、2歳の娘の集中を留め続けことはものすごいことだ。
 磨き抜かれた大道芸ってすごいなと思った。

この日みたのはジャグラーみぞんさんという方だった。

 みぞんさんも仰っていたが、大道芸は日常生活でなんの役にも立たない。でも今日それを観て間違いなく感動した。
 2歳の娘も、おとなのぼくも。
 バランスを保つ、ボールを投げてキャッチする、物を回転させる……ほとんど誰もが普段の生活や遊びの中でおこなうそれらの事象だからこそ、すごさの片鱗がわかり、魂が震える。

 ただ、技単体ではなく、ライブパフォーマンスのおけるいろんな要素が絡み合って初めてこの感動があったのだと思う。
 ぼくの場合は真剣な娘の横顔という要素があった。
 2歳の娘はよく言葉をまねっこするが、自分の言葉も持っている。このときの娘の「ほんとにすごい」というつぶやきは素直な娘自身の言葉だ。
 それに、好奇心の揚力で常に地上を放浪しつづける娘が、じっと真剣にパフォーマンスを観ていてくれたことも相まって、ぼくも全てを忘れて素直に楽しむことができた。

 その日その瞬間だけのグルーヴや感情がある。
 まさに大道芸――路上ライブパフォーマンスだと思った。

 パフォーマンスが終わったあと、投げ銭をしていると、娘はおそるおそる前に進み出てみぞんさんを見ていた。
「すごかったって言ったら?」と娘に言ったけど、人見知りを発揮して、ちいさく手を振るに止まった。みぞんさんも笑顔で応じてくれた。
 そのあとも近くの看板の隙間からみぞんさんを見てたりしたけど、程なく家路についた。

 ちょっと歩くと人見知りが解放されたのか大きなこえで、
「ほんとにすごかった!」
 って言ってた。

 それ伝えたらいいのに、と思ったのでこの記事を書きました。

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