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まだ諸々気をつけながら、それでも楽しんで暮らそうと思う

 以前の私は、「船旅」イコール「大勢で雑魚寝」というイメージを勝手に持っていた。

 思い込みの原因になっていたのは、中学時代の修学旅行で北海道から青森への移動に利用した青函連絡船での体験だった。
 今思えば、乗船時間が短い上に修学旅行という大人数での利用だったので個室を使う機会が無かっただけだろうし、そもそも本来であれば「雑魚寝」する必要もない。
 しかし運悪く、その年の修学旅行は悪天候だった。
 青函連絡船に乗船の際は「雨で足を滑らせると危険なので、デッキには出ないように」と指示された。それでも修学旅行という非日常の中、悪天候をものともせずハイテンションに騒いで引率教師に叱られる生徒もいたのだが、出航から30分も経たないうちに、船内は静かになった。
 いや、厳密には「静かになった」のは人間だけで、窓に打ち付ける雨音と波の音は激しさを増していった。
 遊園地のアトラクションのイントロダクションのように、ゆらり、ふうわりと揺れる船内。みんな座り込み、やがて横になり始めた。ノリノリで騒いで教師に叱られていた男子も一人、また一人とダウンしてゆく。制服姿の中学生が雑魚寝状態となった船内、波の音に混じって聞こえてくるのは嘔吐く音だけ。
 もともと乗り物に極端に弱かったので、乗船前に酔い止めのトラベルミンを服用し、乗船と同時に保健の先生の近くで横になるという特別待遇を許されていた私は、あの日、船酔いを免れた唯一の生徒だったかもしれない。

 人生初の船旅の経験がそんな感じだったので、大人になってからも、船旅は避けていた。
 時折テレビに映る「ベッドとテーブルもある個室で、窓から海を眺めながらワインなど傾けつつ優雅に過ごす船旅」なんてのは、超お金持ちが利用する豪華客船だけのものなんだろう、と思っていた。

 だが、今の私は、年に一度

「ベッドもテーブルもある個室」

での船旅を快適に楽しんでいる。

 それが、太平洋フェリー。


2021年春に利用した苫小牧発仙台行きの太平洋フェリー「きたかみ」


 北海道から宮城県に移住すると決めた2年前。移住後の仕事も通勤に車が必要だったので、引越し業者にマイカーの陸送も一緒に依頼するつもりだった。
 しかし、フェリーでの車両持込費用を検索したところ、陸送の見積価格よりもフェリーの方が圧倒的に安かった。
 しかも、太平洋フェリーには、女性限定のエコノミー個室まであった。
 陸送はキャンセルし、初めてのフェリーでの一人旅を決めた。

 これが、本当に快適だった。

 エコノミー個室には窓はないので部屋から海を見ることは出来ないのだが、小さなテーブルもあり(ただしエコノミー個室内は原則飲食禁止だった)、ベッドの上にはテレビも設置されていた。
 カプセルホテルよりは圧倒的に広く、何よりプライバシーも保たれて安心。そして、静か。
 一応酔い止めを服用してはいたが、ベッドに横になって眠ってしまえば船酔いを感じることも無かったし、そもそも、過去の記憶とは比較にならないくらい船の揺れ自体が少なかった。
 フェリーってこんなに快適だったのか、と驚いた。

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 そんな快適なフェリーの旅を経験したのは、まだパンデミックの収束が見通せなかった時期でもあった。
 乗客は、少なかった。大浴場で他の乗客と会うこともなかったので、恐らく女性客は私を含めてほんの数人だったと思う。レストランは通常のバイキング形式で営業されていたが、感染症対策のため、アルコールの提供は中止されたままだった。
 けれど、だからこそ「そんな状況下でも移動しなければならない目的のある人」だけが乗船しているという雰囲気を感じたのも事実。
 ロビーや共用スペースでの飲酒は認められていたけれど、酔って騒ぐ人の姿はどこにも無かった。私も、缶ビールを飲みながら静かに夜の海を眺める船旅を楽しむことができた。

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 船旅の快適さを知ったので、今年の大型連休も、太平洋フェリーを利用した。
 ちなみに昨年も利用したので、太平洋フェリーでの旅は3年連続になる。

仙台発苫小牧行き太平洋フェリー「きそ」


 エコノミーシングルの個室は女性用だけだが、太平洋フェリーには、男女問わず2名以上で利用出来るシャワーとトイレ付の個室が何種類もある。
 そして、特等室ではないインサイド(窓から海が見えない部屋)であれば、比較的安価で利用することが出来る。
 昨年から、夫との旅では、こちらの一等インサイド個室を利用するようになった。
 部屋の窓から海を見ることは出来ないが、外の景色を見たい時はデッキに出れば良い。

夕方乗船。夜景と夕焼けが綺麗。


 一等個室は飲食可。ビジネスホテルと同じくお茶も用意されているし、小さなポット(湯沸かし)もある。
 今回は、夕食用のカップ麺と朝食用のパンを持ち込み、デッキから外を眺める以外はほぼ個室から出ずに約15時間を過ごした。

東北を離れるので夕食は東北限定の焼そばをいただいた
翌朝はテレビで大谷投手の試合を観戦。海の上でBSを見られるとは。


 今回の船旅も、快適だった。
 個室のシャワーは水圧もしっかりしていて使いやすく、浴槽が無くても苦にならなかった。何より、ビジネスホテル同様に個室内にトイレもあるのが便利だった。


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 とはいえ、私が宮城に来る際のフェリーで堪能した海の見える大浴場やバイキングの美味しい料理を、夫はまだ体験していないので、そのことを申し訳なく思う気持ちもある。
 けれど、今回、「レストランは連休で混んでいるだろうから、出来るだけ個室内で過ごそう」と言ってくれたのは夫だった。
 そして、私もまた同じ気持ちだった。

 実際、その日のフェリーはほぼ満員だった。
 乗船の時点で混雑していたし、レストランの混雑状況は船内放送でも案内されていた。
 閑散としていた2年前を思い起こして、やっと人の動きが戻ってきたんだ、と、嬉しく思った。
 
 けれど、自分自身がその混雑の中に入りたいかというと、それはまた別。

 以前のnoteに書いた通り、私には小児喘息だった過去がある。



 分類がどうであれ国の扱いがどうであれ、感染症に罹りたくはない。
 貰って嬉しいプレゼントならともかく、病気やウイルスなんて誰からも何ひとつ貰いたくは無いし、それ以上に自分自身が誰かに移す側にはなりたくない。

 楽しむことと、身を守ること。それは対立するものなんかじゃなく、楽しく日常を取り戻しながら身を守る方法はあるのだということを学んできたのが、この3年間だった。
 私は、そう思っている。
 恐らく夫も。


久しぶりに大通公園の噴水を見た。とうきびワゴンも。嬉しいね。
ホテルの部屋でセコマ晩酌
美味しかった!


 旅行業、飲食業、そしてその他のあらゆる業界が、これから先も盛り上がって行けば良いと思う。
 人の動きが増えるのは良い事だと思う。
 自分自身も、これまで以上に色々な場所に出かけるだろう。

 でも、「気をつける」ことを止めることも無い。

 私はこれまでも、周りに人がいない状況や、花粉の無い季節の屋外ならば、マスクを外して過ごしていた。
 けれど、近くに人がいたり、換気の悪い場所ならば、マスクを着けて過ごしていたし、外から帰れば石鹸で丁寧に手を洗い、無駄だと言われてもうがいも欠かさず過ごしてきた。
 うがい・手洗いは、子供の頃からの習慣だ。
 ただ、手洗いにかける時間が以前より少し長くなったのと、必ず石鹸を使うようになっただけ。
 そのおかげで、この3年間は風邪ひとつひかずに過ごしてきた。
 思い返せば、3年前からのパンデミック以前は、毎年何度か風邪をひいていた。インフルエンザに罹ったこともあった。
 そんな3年前より前と、この3年間とで、自分の行動に違う点があるとすれば、石鹸での丁寧な手洗いとマスク、そして換気や人との距離だ。

 少しだけ増えた習慣のおかげでこれまで身を守ってこられた上に、そんな習慣を大変だとも感じていないのだから、これからも、私は多分何も変わらない。
 けれどそれを他人に押し付けるつもりも無い。
 あくまで自分の習慣になっているだけ。

 幸せなのは、一緒に暮らしている夫も、そんな習慣を当たり前に続けているということ。

 今回の旅では、フェリーの個室や静かな飲食店等、感染予防しながらでも旅を楽しめる場所はたくさんあることを、あらためて実感できた。
 感染症予防と旅は、両立出来ると再確認出来た。


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 これからも、私は今までどおりの習慣を大事にしながら、いろんな場所に出かけて、楽しい時間を過ごそうと思う。
 そして、このnoteが、まだ旅や外食を再開するのをためらっている人に
 「もう安心!って騒いでる人ばかりじゃなく、気をつけながら旅を楽しんでる人もいるんだよ」
と知ってもらうきっかけになれば、嬉しく思う。

 旅行も、外食も、悪いことなんかじゃないのだから。


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