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【エッセイ】雛人形

 一昨年の春、大型連休にフェリーで北海道に帰省した際、実家から大きな段ボール3箱に納められた雛人形セットを持たされた。
 それは、私が物心ついた時からひな祭りが近づくと家族で飾っていた懐かしい七段飾りの雛人形だった。
 私は末っ子である。雛人形は長姉が幼い頃に買ったものだったらしい。ということは、五十数年前の品ということになる。私よりも年上である。

 持たされたものの、我が家は子供のいない夫婦二人暮らし。しかも共働きなので日中はほとんど家にいない。ならば、我が家に飾るよりも義実家に飾った方がご近所の方々にも見てもらえるのでは、と義母に相談したところ、二つ返事で快く了承いただいた。
 そんなわけで、北海道からカーフェリーで海を渡って来た我が実家の雛人形は、昨年からこの時期に石巻の義実家の仏間に飾られている。


 義母の希望で義父の仏壇前に飾ったものの仏間が狭くなってしまって申し訳なさを感じていたのだが、後で義母から聞いた話ではご近所の方々が何人も見に来てくださって、ひなあられや甘酒の差し入れなどたくさんいただき楽しませてもらったそうだ。
 義母が嬉しそうでほっとした。



 本来、雛人形はひとりにひとつ、形代(かたしろ)として持たせるものだという。
 故に、姉妹で共用にしたり、まして家族で受け継いだりしてはいけない、との説も目にする。

 けれど、幼い頃に家族総出で七段飾りを組み立て人形を飾った思い出は、私の中でかけがえのないものだ。
 そして、その品を受け継いだことで、今回のように思いがけず見知らぬ誰かに懐かしさを感じてもらえることもある。


 意味や由来は大切。
 けれど、それはそれとして。
 もちろん、私もいつの日か、手放さなければならない日は来るだろう。
 でも、その日が来るまでは出来る限り大切にしてゆきたいと思う。


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