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詩:MISSING

746文字
5項
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夕日がしずんでゆく


喉元につっかえたことばや
秘匿したこころをつれて
今日も夕日は海のそこに
その姿を上手に隠す


なにもなかったかのように
視界をあいまいにぼやかして
水のように滲んで見えるのは
きっと涙のせいだけではない



いつもどおりの帰り道に
街の明かりはチカチカと灯る


次第に辺りは照らされはじめ
朝と夜の世界に変わりはなくなった


クッキリ照らされた私の足元から
色濃く伸びる憂鬱と孤独と寂しさを
誰かに見透かされてるような気がして


消えてしまいたい焦燥に駆られ
夜を急いで「わたし」を紛れさせた



午前零時の深い闇の中にぼくは
希死念慮の濁流に押し流されて
僕自身のことがわからなくなる


言葉の海に黒々と溺れ
流されたなにかしらをさがして
気づけば海のそこをさまよってる


消息を絶ちたくなる潮に逆らい
藻掻いて顔を海面に出して
飲み込んだ言葉を吐き綴る


そしてぽつりただ一言
「おやすみ」と誰にともなく眠りにつく



月は既にしずんだあとで
未だ濃く色を塗りつぶす街並みは
端から白なりはじめた空を
ほんのりと縁取る額のように見える


霧に包まれた世界には自分しかいなくて
淡々とその中を歩く自分は
失せ物があつまる場所に紛れ込んだ


その瞬間だけ自分はきっと
この世界から行方不明



今日も朝がきた
隠せない昨日を引き連れて


いつもどおりの白々しい顔をして
すべてを日の下にさらけだす
なにも変わらない朝がきた


宇宙の生誕から恒久的に続く
繰り返される一日に
明けない夜はないんだと
その安心感に安堵して
その無情さに絶望して


遥か東の空から太陽が放つ朝焼けが
ピンぼけな輪郭を際立たせた


今日も朝がきた

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