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季節はずれの恋。 #19

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ご無沙汰しております。すっかり更新が遅れてしまいました。 #自然写真家のnote 。最近は、コロナの影響で思うように撮影や遠征もできず、書き仕事が増えてきました。そうなってくるとどうしても、個人活動の文章から遠ざかってしましますね。以上、言い訳でした。笑)

さぁ、今回も前回に続いて #動物たちとの出会い方 シリーズ。今日はヒグマです。下記の記事、ご覧になられた方はいますでしょうか?

Coyoteという雑誌(No.72 特集 星野道夫 最後の狩猟)に
掲載いただいたものです。
憧れの雑誌Coyote。しかも星野道夫特集号。
とても嬉しくて、僕自身が大切に思っている写真を掲載いただきました。

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2頭のヒグマが、淡く秋色に色付いた草原の上でじゃれあっています。
これは標高の高い、稜線上で撮影したもの。山のクマですね。

このカットを選んだのは、特集のタイトルである
「星野道夫」という希代の自然写真家へのオマージュ…というか、
彼の作品を意識した、という理由もあります。
星野道夫は、じゃれ合うクマの写真を多く残しているように思います。
大きさや迫力に頼ることなく、クマという動物の長閑さや愛情が
優しくにじみ出る、素晴らしい自然写真だと僕は思っています。
星野さんはきっと、とても時間と愛情をかけてクマを観察してきたのでしょう。そんな彼の姿勢に、僕も憧れています。

話は戻って僕が選んだ掲載写真ですが、これは子熊の兄弟では無いんですね。立派な成獣。大人の熊なんです。
幸運にも、僕はこの2頭のヒグマが出会ってから別れるまで一部始終をじっと眺めている機会に恵まれました。

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こんな幸運って、あるのでしょうか。
広大な山域の中で、ヒグマ2頭が出会う。しかも一人の人間から見える形で。例えばハイマツ林など、植生が違っても、茂みに遮られてしまい
彼等の姿が僕の目に留まることはなかったでしょう。

2頭は、足もとの、おそらく草を食みながら少しずつ近づいていきます。
僕はカメラを構え、その時を待ちました。
動物が好きな方ならわかると思うのですが、普通、想定されるのは、2頭の威嚇か、ケンカをするシーンだと思います。僕もそうなると考えて、固唾をのんで見守っていました。
しばらくすると、左のクマが先に気づき、逃げ始めます。
右の黒い方のクマも気づいて、左のクマに向かって歩き始めました。
逃げる方は、思い切り速く走ることもなく、
さほど真剣ではなさそうなそぶりでした…。

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このあと距離を詰めていき、右の黒いクマが最終的に追いつき、
ついに2頭は接触します。
さぁケンカだ…!と思っていたら、2頭は鼻先を軽く触れ合わせたかと思うと、じゃれ合いを始めました。
戯れに追いかけ合ったり、転がってじゃれあったり…。
僕はとても驚きました。そしてすぐさま、幸せな気持ちで胸がいっぱいになります。それはどんな激しいヒグマの闘いよりも、僕の気持ちを嬉しくさせるシーンだったのです。

彼等はここで出会ったのか、それとも僕の知らない時に出会い、既に恋人同士だったのか、本当のところはわかりません。
確かなのは、淡く秋色に染まり始めた山上の草原で、2頭の恋人同士のクマが幸せそうにじゃれ合っているという事実です。

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僕は、時々シャッターを切りながら、恋人(恋クマ?)同士の2頭の姿をずっと眺めていました。ずいぶん長い間見ていた気がしますが、撮影データを見返してみると、わずか10分足らずだったようです。

やがて2頭は別れて、それぞれ別の方角に姿を消しました。
幸せな時間はお終いです。後に残された僕は、何も言えずにただじっと、
さっきまで2頭がいた草原を眺めていました。

きっとこんなシーンは、僕の一生の中で、もう出会うことはないでしょう。
こんなヒグマの姿を見ることができて、幸せだなと心の底から思いました。誰もいない静かな稜線の上で、ちょっと涙ぐんでしまう程でした。笑)

もうひとつ、ヒグマの発情期は6月頃といわれています。
撮影したのは山が紅葉を始める9月初旬。
僕はヒグマたちの「季節はずれの恋」を目撃したことになります。
クマに詳しい人なら、この写真を見て、そのことに気が付くでしょう。
そんなヒグマの幸せな「季節はずれの恋」の写真は、僕にとって宝物になりました。
あの2頭がその後どうなったのか、僕にはわかりません。
ひょっとしたら近い将来、あの山域で彼等の子どもに出会う可能性だってある。そんな風に考えながら山を歩くと、今まで見てきた山の風景が違って見えてくるような気がします。

僕は山の上でヒグマのあるシーンを撮りたいと、重い撮影機材を抱えて何年も山に通い続けてきました。
自然写真は、相手は自然。どれだけ推測や努力を重ねても、思い描くシーンに巡り合うことは非常に稀です。
しかし今回ばかりは、僕の想像力を越えた、ヒグマたちの嬉しい姿を見せてくれました。
こんな驚きは、自然写真家の味わうことのできる
数少ない、大きな幸福のひとつだと思います。

この時の写真、お見せしたいカットもあるのですが、
それはまた次の機会に。

最後までお読みいただき、有難うございました!

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