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ビクトリアの滝とイグアスの滝の比較

三大瀑布と言われているのが、ビクトリアの滝、イグアスの滝、ナイアガラの滝である。以前にビクトリアの滝とイグアスの滝を観光した。同じ瀑布であるが、それぞれ違いがある。数年を経て、それぞれの特色を整理したい。

1 ビクトリアの滝

1)ビクトリアの滝 ジンバブエとザンビア

ビクトリアの滝があるジンバブエは、近年ハイパーインフレーションによりジンバブエ・ドルの価値が下がり、高額の紙幣発行で有名になった。混迷する経済だが、ホテルのレストランの食材は決して貧しくはなく、青々とした野菜や様々な肉が並び、豊かな風土を感じさせる。ジンバブエの面積は、38.6万平方キロメートル、日本よりやや大きい。人口1,509万人(2021年)。かつて13〜14世紀に栄えたジンバブエ王国の遺構であるグレート・ジンバブエ遺跡が残っている。そんなジンバブエにビクトリアの滝を観光するために2013年12月に訪れた。

ビクトリア・フォールズのキングダム・ホテルに泊り、翌日、バスでビクトリアの滝に向かった。バスの窓から遠方に水煙が見えた。5分程で入口に着いた。「帰りのバスに乗り遅れても、歩いてホテルまで15分ですから」とガイドに冗談ぽく言われた。

ビクトリアの滝は、ザンベジ川が削り取った渓谷にあり、毎年上流に向かって後退しているという。滝幅は1700メートル程で、見る場所でいろいろな景観が楽しめた。

入口を入ると、先ずリビングストンの像が出迎えてくれた。1855年にリビングストンがヨーロッパ人として初めてこの滝を見た。現地人の案内で密林をかき分けて行くと、大きな滝に遭遇して、ビクトリア女王の名前をとりビクトリアの滝と名づけた。現地語では、「雷鳴の轟く水煙」という意味の「Mosi-oa-Tunya(モーシ・オア・トゥーニヤ)」と呼ばれる。

今は森は開け、森の向こう側に道路が走っているのが見える。イグアスの滝のように森林に囲まれた印象はなく、開けた平原にある瀑布という印象だった。

入口に雨合羽が無料で貸し出してあった。晴れているが、一応借りた。リビングストン像の近くにある最初の滝Devil's Cataract(悪魔の瀑布)に近づくと急に豪雨のように滝の水しぶきが降ってきたので、慌てて雨合羽を被った。借りて来て良かった。水しぶきを上げて滝が落ちている。そこを去ると再び晴れて合羽は要らない。

約1700メートルに広がる滝に沿って遊歩道があり、ビクトリア・フォールズ橋が見える場所まで歩いた。橋を渡るとザンビアである。その間、いくつかのビューポイントがある。滝に虹がかかり美しいポイント、滝が流れ落ちるのがパノラマ風に眺望できるポイント、ビクトリア・フォールズ橋が見えるポイント、対岸には小島やザンビア側の陸地が見えた。遊歩道にはほとんど高低差がなく、平原を歩きながら、片側にある滝を見物した。遊歩道を歩くと、滝の上部は、視線の高さにあり、それより下に落下していた。個人的な印象では、イグアスの滝の雄大さに比べて優雅さを感じた。(タイトル写真:ビクトリアの滝)

2)観光サービス

ホテルには日本語の話せるスタッフがいた。隣国ボツワナへの入管審査所では、「コンニチハ」と挨拶された。日本人ツアーが来ることを知って学んでくれたのかも。サービス精神を感じる。皆フレンドリーである。

食べ物は美味しい。食材が豊富で、様々な野菜、果物があり、食べた肉は、ビーフ、イボイノシシ、ラム肉、豚足と豊富だった。穀物は白米でない雑穀の混ざった健康的なもの。Sadza(サザ)というとうもろこしの粉を丸く固めたものは、ポテト程粘り気がなく、さっぱりしていた。グァバやピーチのジュースを飲んだ。昆虫の郷土食もある。

バスや航空機には、水の無料サービスがあった。ホテルには無料WiFiあり。宿泊客のユーザーIDとパスワードがもらえる。良い思い出ばかりなのだが、ホテルの風呂は、初めはお湯が出たが、やがて水になり、ぬるい湯につかった。豊かな自然がある一方、近代的なインフラを維持していくことは大変なのだろう。

3)ひとつの世界遺産

ビクトリアの滝の最大特色は、ザンビアとジンバブエの国境にあって、1989年に、ひとつの世界遺産として登録されたことにある。ジンバブエのビクトリア・フォールズ国立公園、ザンビアのモーシ・オア・トゥーニヤ(Mosi-oa-Tunya)国立公園、ジンバブエのザンベジ国立公園のザンベジ河畔から構成される、6860ヘクタールの面積に及ぶ国境を越えた世界遺産である。世界遺産リストには、ビクトリア・フォールズ/モーシ・オア・トゥーニヤの2つの資産名が併記されている。

登録の際の評価基準は、基準(ⅶ)「最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する」と(ⅷ)「生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である」である。

国境を越えた世界遺産の意義は、共同管理を通じて、関係各国の協力関係が築かれ、友好関係が強化されることにある。世界遺産の意義は、保存活動の関係者間の協力を通じて、平和の増進に資することにある。世界遺産が固有の資産から次第に複数の関連する資産群に変化し、国、自治体、住民等多くの関係者が世界遺産の管理を通じて、協力関係を持つようになってきた。国境を越えた世界遺産は、それをさらに国際レベルに発展させたものである。ビクトリアの滝がジンバブエとザンビアの両国によるひとつの世界遺産として登録され、さらに保存活動においても共同統合管理計画が両国により承認され、国境を越えて保存活動に取り組んでいる。国際連携におけるビクトリアの滝の意義は大きい。

リビングストン像
リビングストン像の近くにある滝
Devil's Cataract(悪魔の瀑布)
ビクトリアの滝と虹

2 イグアスの滝

1)イグアスの滝 ブラジルとアルゼンチン

①ブラジル側の滝
イグアスの滝は、イグアス川がU字型に陥没した場所にあり、滝の最も奥にある場所を悪魔の喉笛と言う。ブラジル側とアルゼンチン側にそれぞれ別のイグアス国立公園がある。イグアスの滝の印象は、雄大の一言に尽きる。イグアスは現地語で「大いなる水」を意味するが、訪れた1月は雨季で、その名の通り水量が多かった。

午前中は、ブラジル側の遊歩道を歩いて、イグアスの滝を見物。高低差が大きく、二段となって落ちる姿は雄大である。太陽を背にすると滝の水しぶきに大きな虹が浮き出て美しい。悪魔の喉笛に近い展望台では、雨合羽を着ていても濡れる程に水量が多い。遊歩道ではハナグマ(アライグマに似た小動物)に出会うが、事前に「ビニール袋には食べ物が入っているということを覚えていて、ビニール袋のカシャカシャする音に反応するから、決して持ち歩かないように、エサをあげるのは駄目で、引っ掻かれると大けがをする」と注意があった。観光客はハナグマを皆見ても知らん顔をしていた。

ランチは滝の上が眺望できるPorto Canoasというレストランだった。鯛くらいの大きさのTilapia(ティラピア)という川魚がさっぱりして美味しかった。イグアス川を見ると観光船が浮かんでいたが、滝近くまで行くのだろうか。悪魔の喉笛の真上まで歩いていけるアルゼンチン側の橋が見えた。 

午後は、滝に入るボートツアーがあった。ジープに乗り、船着き場まで行く。乗るときにカメラ等精密機器はビニール袋に入れるように指示され、救命胴衣と合羽を着て乗り込んだ。幸い防水カメラを持って来たので、写真を撮ることができた。右手に連なる滝を見ながら、奥の方の悪魔の喉笛に向かってボートは走った。ボートが停止すると、滝に向かって急発進して滝中に飛び込んだ。シャワーを浴びる以上にびしょ濡れになる。ボートは滝の外側に戻り、急旋回して、再び猛スピード、ピッチング、ジャンピングと滝の中に3回程突入した。

夕方、希望者にヘリコプター遊覧の案内があり、すぐに申し込んだ。機長を除き、7人乗りのヘリコプターだった。座席は係員の指示で座る。アマゾンの森林の上空を飛ぶと間もなく、森の彼方に水煙を上げているイグアスの滝が見えてきた。上空から見ると馬蹄形に陥没した滝の景観がよく分かる。ヘリコプターは旋回しながら、滝の周りを左右一度ずつ周ったら、もと来た道を戻っていった。

② アルゼンチン側の滝
ブラジルから国境を越えてアルゼンチンに入った。イグアス国立公園を入るとトロッコ列車に乗って、悪魔の喉笛駅に行き、そこから川に架けられた橋を歩いて、悪魔の喉笛の真上まで行った。イグアス川の大量の水が滝壺に音を立てて落ちていく光景は圧巻である。展望台には沢山の観光客がたむろして、思い思いに写真を撮っていた。

再びトロッコ列車に乗って、瀑布(中間)駅で降りて、640メートル程歩き、サンマルタン滝を眺望した。サンマルタンは、アルゼンチンの将軍の名前とのこと。

2)観光サービス

観光客が多く、観光地として非常に繁栄している。ホテルの前にコンビニがあり、水も買えて便利だった。水1.5リットルが2米ドル(ドルが使えた)。WiFiは、ブラジルのイグアスのホテルでは無料だった。

水は航空機内も有料だった。ブラジルの肉類は日本人には塩気がきつい。アルゼンチンの牛肉は塩辛くなくて口にあった。

ブラジルでは、湯舟に浸かる習慣がないので、ホテルにはシャワーだけでバスタブがない所があるとのガイドの話であった。はたして、泊まったホテルのコンチネンタル・インにはバスタブはなく、トイレの横にガラス張りのシャワー室があるだけだった。トイレのドアノブが簡単に取れてしまい、修理をしてもらった。金庫の鍵は有料貸出で、鍵をドアに差し込み使うという仕組みになっていた。日本では考えられないような体験だった。施設や設備の維持・改善は、費用がかかるが、観光客に気持ちよく観光を楽しんでもらうために必要なことだと思われた。

3)2つの世界遺産

イグアスの滝は、アルゼンチンとブラジルの国境沿いにあって、それぞれ世界自然遺産に登録されている。先ず初めにアルゼンチンのイグアスの滝が1984年に登録された。その2年後の1986年にブラジルのイグアスの滝が登録された。登録にあたり、ユネスコ世界遺産委員会やIUCN(国際自然保護連合)は、国境を越えたひとつの世界遺産として、両国の共同管理を推奨していたが、ブラジルは、国内法が共同管理の取り組みを認めていないと難色を示した。結局は、別の世界遺産として登録された場合も、保存・保護に当たっては、アルゼンチンとの協力は惜しまないとのブラジルの意見が組み取られて、別の世界遺産として登録された。ビクトリアの滝と対象的な結果となった。

登録の際の評価基準は、基準(ⅶ)「最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する」と(ⅹ)「学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する」である。

ブラジル側のイグアスの滝
ブラジル側のボートツアー
U字形に陥没したイグアスの滝
アルゼンチン側の長い橋を渡り、
水煙が見える悪魔の喉笛の場所まで歩く。
アルゼンチン側から見た悪魔の喉笛
アルゼンチン側にあるサンマルタン滝





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