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「半分、青い。」はどこが「革新的朝ドラ」だったのか


つい先日最終回を迎えたNHKの朝ドラ「半分、青い。」
私は、連続テレビ小説なのに何話も見飛ばしながらで、なおかつ8月後半以降はほぼ見ていないという、かなりいい加減な視聴者です。
それでも、ネットのあれやこれやも含めて、非常に心動かされるドラマでした。秋風塾編は毎回必ず見てたし。

「半分、青い。」は、「朝ドラに革命を起こす」「未だかつてない朝ドラ」という触れ込みで始まりました。内容的にも「かつてない」部分は山ほどあるのですが、私としては、ドラマ構成として「どこが革新的だったのか」を、広告代理店の営業マンになった気分で、プレゼンしちゃいたいと思います!
あくまでも一視聴者の思いつきであり、断片的な情報から得られる当てずっぽうを「こうだったら面白いな!」と繋ぎ合わせてみた遊びですので、その辺はどうかご容赦を。

①ラブ・ロマンスが新しい!
②1話=15分が新しい!
③メインターゲット層が新しい!
④年を取らないヒロインが新しい!
まとめ

①ラブ・ロマンスが新しい!

「半分、青い。」のメインテーマは、鈴愛と律のラブストーリーというのは誰が見ても明らかだと思います。第一話から最終話までをフルに使って、二人の恋愛が成就するまでの紆余曲折を描いています。

それまでの朝ドラはビルドゥングス・ロマンが主流です。
ビルドゥングス・ロマンとは、主人公が内面的に成長する物語のことです。女性の一代記を扱うことの多い朝ドラは、まさにビルドゥングス・ロマンの代表格と言えるでしょう。

その朝ドラにおいて、ビルドゥングス・ロマンのかわりにラブ・ロマンスをメインテーマに据えたことが、大きな変革です。ビルドゥングス・ロマンからラブ・ロマンスに変わったことで、視聴者の視点の転換をもたらすのです。

主人公の成長を追うという物語構造は、主人公の一生を俯瞰して眺める客観的な視点になりがちです。
例えるなら、小さい頃から知っている姪っ子や近所の女の子が育っていく姿を眺める、おじさんおばさんの視点です。隣のあの子の身の上に起こるいろんな出来事にハラハラしながら、無事に幸せに育っていく姿を見て感慨無量、という具合。

一方、恋愛ドラマは憧れの恋愛関係や理想の恋愛相手などを、主人公の視点を借りて主観的な視点で追う場合が多いでしょう。
ヒロインに囁かれるセリフに「私もあんな風に言われたい」、二人きりのシチュエーションに「私もあんな風に〇〇されたい」と思うのが恋愛ドラマの醍醐味です。「私ならこうするのに」と考えたり、「私もああなりたい」と自分に置き換えて考えることもよくあるはずです。

それまでの、「外側から客観的に物語を眺める」朝ドラの視聴者を、「主人公と同じ目線で主観的に物語を追っていく」視聴者へと誘導させる仕掛けが、ビルドゥングス・ロマンをラブ・ロマンスに置き換えたことなのです。

ラブ・ロマンスの導入により、主人公・物語への客観的視点から主観的視点へ、そして、それによって受動的な視聴者が能動的な視聴者へと変わるのです。
つまり、「NHKがついているから何となく朝ドラを見ている」から「半青が見たいから朝ドラを見る」という積極的な視聴態度に変えることができるのです。

②1話=15分が新しい!

朝ドラの放送時間は1放送回につき15分ですが、脚本としては一つの話を1週間6話分を使って執筆している、というのはよく知られている話です。
これは、朝ドラが半年という長期間にわたりほぼ毎朝放送されるが、視聴者は必ずしも毎朝番組を見られるわけではない、という前提に立ってこのような構成になっています。
時にはやむを得ず朝ドラを見られなかったり、番組の途中で席を立ってしまうようなことがあっても朝ドラ視聴から脱落しないよう、一週間で起承転結が一区切りする構成とし、途中を見飛ばしていても物語の筋が分からなくならないように配慮されているのです。

つまり、従来の朝ドラは、15分×6日=90分が一つの話、それが27週にわたって放送される。90分×27話で1つのストーリーなのです。
この構成は、BSで週末のまとめ放送を見ている方は、より理解しやすいと思います。

ところが、「半分、青い。」はそうではありません。
一つの話は15分×6日ではなく、一つの話は15分なのです。更に、物語の起承転結が一週間単位ではなく、バラバラです。ある時は7話、ある時は9話で一区切りとしています。なので、盛り上がりが週の半ばに来ることもあれば、週の頭に来ることもありました。

どういうことかと言うと、実は15分×約8話×約20クールのドラマ構成となっているということなのです。従来の、90分×27話で1つのストーリーではなく、一話15分×6話~10話でワンクールのストーリーが約20クール連続で続いているのが「半分、青い。」の物語なのです。

これは、見飛ばしする視聴者への対策を、従来とは逆のアプローチで行っているのです。
長いストーリーを半年にわたって追いかけるのではなく、短期間で新しいストーリーが始まります。たとえ数話見飛ばして話の筋が分からなくなっても、次のストーリーがすぐ始まるので、視聴者は視聴を気兼ねなく再開することが出来ます。次々に新しいクールを提供することで、視聴者を飽きさせずに物語への興味を惹き、朝ドラ視聴からの脱落を防ぐのです。

しかし、一話を15分という短い時間で描くのは至難の業です。どうやっても尺が足りません。なので、デティールを掘り下げるのをやめ、省略できる部分は省略して15分の枠の中に収めなくてはなりません。
これは従来の「半年という時間をかけてデティールを掘り下げ、エピソードを重ねてドラマを盛り上げていく」という手法とは真逆です。

ではなぜ、従来の手法を捨てて新しい手法を取り上げたのか。
それは次の、③メインターゲット層が新しいことと大きく関係しています。

③メインターゲット層が新しい!

従来の想定される朝ドラ視聴層とはどんな人物像なのでしょう。
朝ドラの主な視聴層は40~70代の女性とされています。(PDF:テレビ・ラジオ視聴の現況~2017年11月全国個人視聴率調査から
朝ドラをよく見る視聴者は、毎朝8時、もしくは午後12:45からテレビの前に座り、ドラマの放送を視聴します。ここ数年ではBS放送で7:30、23:00の放送枠も増えたので、その時間に見ている人も多いかもしれません。また週末に一週間のまとめ放送があるので、それを見ている人もいるでしょう。
どの視聴形態でも、想定されているのは「毎日定刻にテレビの前にいて番組を視聴する」視聴者の姿です。

しかし、近年スマートフォンの普及とインターネット動画配信サービスの台頭により、その視聴姿勢は大きく変化してきています。

スマホと動画配信サービスによって、視聴者は「いつでも、どこでも、見たい分だけ」TV番組を見ることが出来るようになりました。
用事があるから見飛ばしたり、忙しいから見る時間がなかったり、見たくても見られないという状況がなくなるのです。
そして、動画配信サービスを使えば、見たい人は一気に6話でも10話でもまとめて見ることが出来ます。やろうと思えば全150話を一気に見ることも可能です。毎日、あるいは週一度の定期的な視聴を半年間繰り返す必要性もないのです。

「半分、青い。」は、この動画配信サービスを好んで見る層をメインターゲットとしているのです。

例えば電車の中で、仕事の休憩を使って、大学の授業の合間に、等、スマホを使ってすき間時間を利用しての視聴姿勢は、15分で1話が終わる朝ドラにとって非常に適しています。短時間ゆえに、動画を見る機会を簡単に設けることができるのです。

動画配信サービス市場は、今後大きく成長が期待されています。テレビという媒体が行き詰まりを見せ、特に若年層のテレビ離れが指摘されている昨今、動画配信サービスをメインの視聴形態としている層を自局のコンテンツに取り込むことは急務なのです。
この動画配信サービスの視聴層を取り込むことを「半分、青い。」は目的としているのです。

ここで有効なのが、一話が15分であるということです。15分間の放送時間の中で起承転結をしていくため、15分の中で必ず一度盛り上がりがあり、視聴者は飽きません。
更に、6話~10話でワンクールのストーリー構成は、展開が激しくスピーディーに感じられます。何話かまとめて配信を見る際にも、数話で細切れに視聴してもストーリーが追いやすく、飽きづらくなります。
配信サービスによって、従来のように、いわゆる捨て回を作って見飛ばしをする視聴者に配慮する必要はなくなります。むしろどの回も見飛ばせない、捨て回がない作りでなくては、動画配信の視聴者にすべての話数を見させることは出来ません。見ても見なくてもいい回が数話続いてしまえば、視聴者は飽きてコンテンツ自体の視聴を止めてしまいます。

そして、動画配信サービスを視聴させるためには、積極的・能動的な視聴態度が重要になります。
①の項でも述べたとおり、従来の「テレビがついているから見る」受動的、習慣的な視聴ではなく、「見たいから見る」視聴にするために、主人公をより身近に感じさせ、自身に引き寄せ重ねて考えるように、視聴者が視点を主人公に重ねて主観的にとらえるように、新しいヒロイン像を用意することになったのです。

④年を取らないヒロインが新しい!

そこで考え出されたのが、成長しない、年を取らないヒロインです。

動画配信サービスを利用する層は、20~30代がメインです。更に、今までの朝ドラ視聴層から考えると、10代20代の視聴層を朝ドラは取りこぼしていることが分かります。

そこで、この層に積極的にアピールし、朝ドラの積極的・能動的な視聴者へとするために、より若年層が共感しやすいヒロイン像を用意しました。
それが、20歳から年を取らないヒロインです。
鈴愛は、実は秋風塾に入って以降年を取っていないのです。設定上、外見上は年齢を重ねていますが、内実は20歳のままです。
これは、20歳前後の視聴者がより主人公に共感しやすいようにするためです。

今までの朝ドラヒロインは、ほぼ例外なく成長しました。演じる女優を変えながら、80代になるまで年を取るヒロインもいれば、数年間の物語であっても、ヒロインは内面的に大きく変化し成長しています。
変化成長しないヒロインという選択は、大きな変革であり、賭けです。
ですが、メインターゲットである若年層の視聴者に寄り添い、同じ目線を共有し、同じ価値観で物事を捉えて、よりターゲットの視聴者層が自分を重ねやすいように、敢えて成長しない、年を取らない選択に打って出たのです。

秋風塾編中盤以降のヒロインの行動も、20歳と見れば理解が進みます。更に言うと、ヒロイン以外も年を取りません。老けメイクはしていますが、内実はヒロインと同じく変化していないのです。

人生怒涛編以降は、20代視聴者への人生シミュレーションであり、起こりうる可能性のある出来事のサンプルなのです。なので、リアリティはさほど重要ではありません。なぜなら、結婚も出産子育ても、親の介護も、多くの20歳にはまだまだ遠い先の出来事だからです。
ターゲット層がリアリティを持ちえない出来事は、リアルに寄せて描く必要がありません。それよりもヒロインがターゲット層と価値観を共有し、同じ立場で物語を追いかけるほうが、ターゲット層にはより共感を呼びます。

また、動画配信サービスでの視聴では、テレビ放送と違い、視聴にかかる日数は必ずしも半年間ではありません。
半年という時間経過を朝ドラと共に経験した視聴者は、登場人物たちの年月の積み重ねを、それなりの実感を伴って追体験することができます。
しかし、動画配信でイッキ見した場合は、本来体感するはずの半年間という時間経過はなく、最速で二日間程度の時間経過があるに過ぎません。この齟齬を解消するためにも、登場人物が年を取らないという仕掛けは有効なはずです。

20代を中心とした若年層(≒動画配信サービス視聴層)がメインターゲットなので、その年代に向けたヒロイン像、ストーリーテリングなのです。

では、鈴愛が1971年生まれの設定はなぜなのか。
それは、主たる朝ドラの視聴層であり、人口分布的にも大きなマーケットである、団塊世代と団塊ジュニアへのフックだからです。
今回のメインターゲットではありませんが、市場規模としては見逃せないため、団塊ジュニアにとっては自身の歩みと重なり、団塊世代には子育て時期と重なる70年代~平成の世の中を舞台としたのです。


まとめ 

さあ、どうでしょう!素晴らしい企画だと思いませんか?これからのデジタルコンテンツ時代、朝ドラが配信コンテンツで覇権を握るためには、チャレンジする価値のあるドラマ企画だと思います。この企画で、世間をあっと言わせて、新しい朝ドラ視聴層をがっちり捕まえに行きましょう、あっちもこっちも総取りですよ!ガンガン!やっちゃいましょう!!

……なーんて勢い込んでまくし立てるような営業マンになりきってみましたが、いかがでしょうか?

「半分、青い。」は70年代生まれ向けと謳われていますが、1972年生まれで鈴愛の後輩の私には、もっと若い人たち向けのお話なんじゃないかと感じたわけです。

これはすべて、業界人でも何でもないド素人の思いつきですが、このようなマーケティング会議は、視聴率という絶対尺度を持つテレビならば必ず行われていると思います。

どんなドラマであっても、小説でも漫画でも、およそ物語には想定する読者、視聴者があります。不特定多数向け、などという物語は、物語とはなりえません。物語を考える時、そこにはターゲットは必ず存在するのです。

かと言って、そのターゲットが市場原理に則ったマーケティング理論だけから導き出されるかというと、そうではありません。そこには制作者の思想、信条が込められているはずです。
マーケティングだけで作られた物語はないかもしれませんが、物語をマーケティングの視点から眺めた時に、制作陣の新しいアイデア、創造性が浮かび上がる場合もあるのではないか、このプレゼンを書きながら、そんなことを思ったりもしました。

あと、これは誰も指摘していないので、まったくの勘違いかもしれないのですが、②で提示した15分×約8話×約20クールですが、私はそこに、1クール毎に違う演出意図があったと睨んでいます。
最後のテレビっ子世代である70年代生まれには、時代を彩る様々なドラマが浮かびます。「ロンバケ」は当然ながら、大映ドラマシリーズ、金八先生シリーズ、トレンディドラマ、ジェットコースタードラマなんてのもありました。「やっぱり猫が好き」のようなシットコムや「渡鬼」のようなホームドラマ、「北の国から」なんて大河ドラマもありました。「昼ドラ」「月9」「木10」「金ドラ」枠で様々なドラマが思い浮かびます。
その時代で流行したドラマのテイスト・エッセンスを、各クール毎に演出に取り入れて「昭和平成ドラマ史総まくり」的な演出意図があったのではないか、そんな風に感じたんですが、これどうでしょう!?少なくとも前半はそんな意図が裏にあったのではないかと推測してるんですが。

まーいろいろと喧しいドラマではありましたが、企画意図、演出手法やドラマ構成から考えると、新しい切り口と発見があるのは間違いないと思いました。


ただし、最終週の震災の取り扱い。あれだけはハッキリと苦言を呈したいと思います。
あれが、綿密な調査と裏付け、何度も意見を交わした上での作劇であるか疑問です。創作者としての矜持をもっとはっきりと見せてほしかった。良い悪いではなく、足りない、と感じました。それはプロとしては恥ずべきだと思います。特に遺言の下りだけは再考してほしいです。




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