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ビリヤード

私には、ビリヤードが出来ない。

ルールすら、うる覚えだ。

なのに突然、
かあちゃんがビリヤードを、
やってみたい!と騒ぎ始めた。

近くに、ビリヤードが出来る所を、
探して、かあちゃんと行ってみた。

そこには、専用の棒を巧みに使い、
みんなパーンと音と球が弾かれる、
音が響き渡っていた。

受付で、手続きをして、初心者なんです。
と説明をすると、じゃ、あの人プロだから、
お願いして教えてもらうといいよ。

その店員の指先を辿ると、

と、いかにもプロと思われる人が、
一人でビリヤードをしていて、
そのまわりに沢山の人達から、
拍手喝采を受けていた。

かあちゃんには、聞こえなてない。

かあちゃんは、ビリヤード台を見て、
ワクワクと楽しそうにしている。


とりあえず、かあちゃんに待っててと、
言うと、そのプロの人の所に行く。

すみません…あの…ビリヤード、
母がやった事ないんです…。
出来れば、教えてくれませんか?

とプロだからなのか、
態度が悪くニヤニヤと笑いながら、
あー全然いいですよ…ニヤ!
その代わり…授業料もらいますけどね…ニヤ!

むむ…ムカつくコイツ…。
でも、かあちゃんの為だ…我慢しよう。

さて、ビリヤードやろうじゃないか。

プロが一通りのルールを教えてくれた。

私は手話で、かあちゃんに通訳する。

かあちゃんは、わかったと示した。

そして、あの棒の使い方を教えてもらい、
試し打ちする。

驚いた…かあちゃんは、
プロが教える技を、
次々と難なくクリアしていくのだ。

まわりの人達が、ざわめく。

プロも確認の為、私に、
お母様は、ビリヤードした事ないんですよね?

と聞いてきた。
はい…初めてやるはずです…。

プロは、そうですか…。と言うと、

お母様はすごい!うまいですねー!ニヤ!
私と対決してみましょう…ニヤ!
私に勝ったら授業料はいりません…ニヤ!

と名誉挽回と言わんばかりに、
初心者のかあちゃんと対決を申し出た。

かあちゃんは、すごく楽しそうだ。

さて、プロ対かあちゃんの、
ビリヤード対決の始まります。

先手は、かあちゃん。

次から次へと球を穴に入れていく。

プロの出番はないまま…。

私は先ほどのルールすら、忘れていた。

周りがどよめいていた。

どうやら、かあちゃんが勝ったみたいだ。

プロの顔からニヤつきはなくなっていた。
逆にイラつき、余裕がなくなってた。

かあちゃんは、わからないみたいだ。

私が、かあちゃんの勝ちだ!
と手話で教えると、子供の様に喜んだ。

プロは、存在感をなくし、消えていった。

かあちゃんすげーな!
プロになれるかもよ!
何でそんな事できんだよ!

と聞いてみると、かあちゃんは、

簡単だよ。
かあちゃんには、どこに打てば、
球が穴に入るかが見えるんだ。

その通りにしただけだよ。

プロなんて、バカバカしい。
あたいは、楽しみたいんだ。
一人で楽しめたらそれでいいんだ。

それから、かあちゃんは、
何度もビリヤードを楽しんでいた。
一度、棒を突けば、必ず球が穴に入る。
一度に数球穴に入れてしまうほどだ。

球に紐でもついてるのか?
と思うほど、吸い込まれる様に、
球が穴に向かっていき、スポッと入る。

かあちゃん…なんで?どうして?
どうやったら、そうなるんだ?

とかあちゃんに聞いてみる。

かあちゃんは、
これは、数学の原理だよ。
この四角い枠の中で、角度を考えると、
答えが出てくるんだよ。
その通りに打っていくと、おのずと、
球は、穴に入っていくんだ。
簡単な事さ。

と言うが、私には簡単な事ではない。

かあちゃん何者?
かあちゃんの脳みそどうなってんだ?

かあちゃんは、超能力者だ…。
いや、天才なんだ…。

耳が聞こえないぶん、
多分脳みそが発達が違うのかもしれない。

かあちゃんは、楽しそうしていたのに、
急にもう飽きた…辞めると言う。

簡単すぎて、面白くなくなっちまったよ。

そう大声で言うではないか…。

おい、おい、かあちゃん…。
その言葉、あのプロの人いないから、
いいけど、まわりの人達に聞こえてるって!
白い目で、見られてますよ…。

嫌な視線を感じつつ、
さっさと、逃げる様に帰った。

かあちゃんは、ビリヤード以外に、
ボーリングでも、全部ストライクを取るのだ。

全部、球のいく先がわかるんだそうです。

ただ、その通りに投げてるだけ。

考えると、かあちゃんは、他の人よりも、
面白さが半減してしまうのかもしれない。

だって、どこに球が行くのか、
わからないから、面白いのに、
かあちゃんはそれがないのだ。

どこに球が行くのかがわかってしまう。

だから、なんだか…損した気分なんだろう。

そして、なんで他の人はわからないんだ?

と不思議そうにしている。

かあちゃんが、すごいだけなんだけど…。

私は、ビリヤードは球をめがけて棒を、
打っているのに、空振り。

ボーリングは、ガーターばかり。

私は私で、違う意味で、
面白さが半減してしまうのだ。

かあちゃんの不器用が、
ここに遺伝するなんて…恥ずかしい。

かあちゃんは、賢いのだ。
頭で計算して、割り出して、
いとも簡単に、やってのける。
鋭い感と先見の明を持っている。

かあちゃんよ…その才能が羨ましいよ…。

まあ…それ以外は不器用だけどね。

私は、料理が得意である。
かあちゃんは、破壊的に下手。

料理こそ、足し算や引き算で、
味が決まる。

オレだって、数学をやればできるのだ。

あっ!まてよ…。
オレは数学じゃなくて…算数だ…。

しかも、小学校低学年並の、
足し算と引き算しか出来てなかった…。

なるほど…。

私って…おバカさん。

数学的なかあちゃんには、敵うはずない。

かっこよくビリヤードで、
スパーンと球を穴に入れてみたい願望。

心の中に秘めておいて…
あとは想像だけに…しとこう。

かあちゃんの遺伝子よ…。
なんで私には、
その才能を与えてくれなかったのだ…。

でも、いいか。

かあちゃんは特別だっただけ。

うん…そうだよな…そうしとこう。

もう二度とビリヤードもボーリングも、
しなけりゃいいんだ。

そしたら、私のぶざまな姿を、
晒さなくてすむもんな…うん。

そうしょうっと…。

なんだ…このむなしさは…。

人間くさくていい事だろ!

でも…かっこいいんだろうな…。

多分かあちゃん他の球技でも、
かあちゃんの脳みその数学的根拠で、
軽々とこなすだろうな…。

いいな…かあちゃん。

私にも、その才能少しでも受け継いでも、
いいじゃないか…。

だが、算数しか出来ないし…。

はい、はい、どうせ私はひねくれ者です。

不器用で球技なんて、出来やしない。

幼少期に、ボール恐怖症になるぐらいだ。

そんなもん、
出来なくても生きていけるやい。

私は…小さいヤツなんですよ。

はぁ…数学を一から習得する所から、
始めなきゃダメだな…。

待てよ…九九すら危うい。

これは…算数の掛け算からやらないと…。

いい大人が九九が出来ないなんて…。

また、恥ずかしい私をさらけ出して、
しまったではないか…。

本当におバカで単細胞な私である。

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