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たばこ

私には、たばこにほろ苦い思い出がある。
当時小学の低学年だったと記憶する。
かあちゃんは、お酒は好きだが、
たばこは臭いからと嫌った。
そんな当時は、
かあちゃんの飲んだビールの空き瓶を
酒屋に持って行く義務があった。
空き瓶を持って行くとお金がもらえた。
それが自分のお小遣いとして与えられたのだ。

コツコツと貯めたお小遣いで買えるものなんてたかが知れてる。
むぅ…と考えて欲しいものも我慢して、
道で拾ったお菓子の詰め合わせ用の缶に
ひたすらお小遣いを貯める日々であった。

ある休日、朝からかあちゃんがいつものヒステリックに変貌し、怒鳴りながら私を呼び出し、
部屋をチリ一つないぐらいキレイに掃除しろ!と命じられた。
私は、はいっ!と即答し、
せっせといつも以上にキレイに掃除してると、
お酒を飲みながらかあちゃんは、
お前はのろいんだよ!早くしろ!遅い!
と長いものさしで叩いてくる。
なんとか母親の許しをもらい、解放された。

これから客人が来るから、お前は粗相のないようにするんだよ‼︎

と滅多に人を家に入れないかあちゃんが?
客人を連れてくるなんて…どんな人なんだ?
と、ドキドキとしながら待っていた。

しばらくすると、
紳士的な男の人がやって来た。
母親は、また変貌し見た事のない顔と仕草で、上機嫌で客人を招き入れ、お茶を入れて差し出してモジモジしていた。

なんだ?えっ?もしかして…これは…。
恋人?いや、まだそこまでいってないだろう。
かあちゃんはあの客人の女になりたいんだ。
って事は父親になるかも知れない人である。

なるだけ、静かに勉強してるフリをして、
いい子だと印象づけようとしていた。

そしたら、かあちゃんが優しく私を呼びつけ、
おつかいを頼んだ。
客人の愛用しているたばこを買って来てと、
五百円札を渡してきた。

余談だが、五百円札から500円玉になった時は、どきも抜かれたな。
なんだか、価値が下がった様な気がした。
物価もそこそこ上がって来たのもあるが、
当時の五百円札は今で言う千円札ぐらいの価値が自分の中であったのだ。悲しいな。

話を戻すが、滅多にかあちゃんからこんな大金をもらう事はない。
しかもだ、かあちゃんはたばこを買ったら残りのお金は、お小遣いにし好きに使いなさい。
と、しおらしく言ってきたのである。

今日はなんていい日なんだ。
はいっわかりましたっ!と告げると
ウキウキで商店に向かう。
途中で駄菓子屋に目が行ってしまった。
ちょっと寄り道してもいっか。
と駄菓子屋でうろうろして目を輝かせながら、
金持ちの気分を味わっていると、
いつもつるんでいた友達数人がやってきて、
お前何してるの?
と言うではないか。
私は五百円札をヒラヒラと見せつけ、
かあちゃんがさぁ、好きなもん買っていいって五百円札くれたんだぜ。ハッハッハーいいだろー。と自慢げに言うと、
ずりーなぁ、俺にも何か買ってくれよ。
と当たり前だかそういっぺんに返事がきた。
いいぞ!好きなのえらべ!買ってやる!
と意気込んだ。
あれもこれもと単価は安いが、
ちりも積もれば山となるとはこの事。
かなり買い込んでいた。
そして…はっ!そうだ!たばこ!
すっかり忘れていた。
日頃たばこには縁がなく認識が甘かったのだ。
ない頭で考える…どうしよう…。
そこに見つけたのが…
ココアシガレッドというものだ。
見た目はたばこを連想させるもので、
中身は白い棒状のものがいくつも入っていて、
たばこに見立てたものだ。
それを買って、急いで家路に向かう。
今日のかあちゃんは機嫌がいい、
間違っちゃった。てへ。と言えば、
許してくれるかもしれない。
そんな期待をしつつ、ただいまーと帰った。
そして、ココアシガレットを渡したのだ。

ん?これは何?どう言う事かな?

ピキピキとひきつる笑顔でかあちゃんは冷静を装い聞いていた。

あれ?たばこ買った事なかったから、わかんなくて間違ってコレ買って来ちゃった。

とこちらも譲らずおっちょこちょいな可愛げのある子を演じた。

かあちゃんは客人に謝って、

この子ったら、たばこ買った事ないから間違ってしまったみたいなの。
ごめんなさいね…後できちんと叱るから…。

と良い母親像を作り上げて言う。
最後の叱るからと言うフレーズに冷や汗が出て
やばい…殺される…逃げなければ…。
お母様、遊んできてもよろしいですか?
と聞くと、不自然な笑顔で行っておいでと言ったので、そくさっさと逃げた。

夕方過ぎても帰れなかった。
帰れば殺されると本気で思っていた。
どーしょー。はぁ…ダメだ殺される…。
怖いよー嫌だよーブルブル震えながら、
公園に隠れていた。

近くのおばちゃんが私を探しに来た。

あんたのかあちゃん、暴れて大変なんだよ。
あんたの事連れてこいって言って酔っ払いながら近所中に叫んで暴れて手に負えないよ。

おばちゃんごめんよ。
今すぐかあちゃんとこ行ってくるよ。

急いで帰ると、アパートの前の道路で大の字で暴れてるかあちゃんがいた。
そのまわりには大勢の人達がなだめていた。

迷惑かけてすみませんと謝りながら、
かあちゃんの所に行く。

かあちゃんは、私を見つけると泣きながら、
襲いかかってきた。

お前は、バカにしてんのか!
ふざけんじゃねーよ!
言ったよな?粗相のない様にって!
お前のせいだ!
お前は本当に性格悪いな!
かあちゃんが恥かいて喜んでるんだろ!
おい、おい、ん?なんか文句あんのか?
言ってみろよ!言ってみろって!

と殴られ続けた。
まわりの人達に取り押さえられても、
なおも、かあちゃんは私を蹴り踏み続ける。

かあちゃんごめんよ。
すみませんでした…。
泣いて謝る事しか出来ない。

しばらくするとかあちゃんはぐったりした。
お隣さん達にかあちゃんを家に連れてってもらい、本当にご迷惑かけてすみませんでした!
と謝り倒した。
その間、かあちゃんはまた酒をあびるほど飲んでは、グチグチと文句を言っていた。

かあちゃん大丈夫?

暴れていた為あっちこっちに擦り傷があり、
そしてだいぶ汚れていた。

かあちゃん、今から風呂炊くからね。
服脱いで置いといて、後で手洗いしないと汚れ落ちないから…。

かあちゃんは下着姿でまだぐったりしてた。

かあちゃん風呂炊けたよ。
一緒に入ろ。

かあちゃんをなんとか風呂場に連れて行き、
頭からつま先まで石鹸で洗って、リンスをお湯で溶かしてかあちゃんの髪の毛に流し、湯船にかあちゃんを入れた。
かあちゃんはほとんど放心状態であった。
その間、私も全身洗って湯船に浸かる。

かあちゃん、熱くないかい?
ほら、こことここと、怪我してるよ。
痛くないかい?大丈夫?

かあちゃんは、酔いも覚めたのか、
私を抱きしめてきた。

かあちゃんはダメだね…。
お前に迷惑かけてばかりだ。
かあちゃんは、やっぱりお前がいないと、
ダメな人間だよ。
かあちゃんの事キライになっただろ?
よその子になりたいって思うだろ?

そんなかあちゃんを抱きしめて、
かあちゃんの顔を見つめて、
弱気なかあちゃんは、キライだ。
かあちゃんはダメなんかじゃないよ。
かあちゃんの事大好きだもん。
ほら、笑ってよ。
ごめんよ、逃げて。
でももう大丈夫だよ。そばにいるから。

のぼせそうだったので、
かあちゃんあがろうと言うと、
かあちゃんはそうだね、上がろう!
と元気を取り戻してくれた。

残り湯でかあちゃんの汚れた服を手洗いし、
洗濯をした。

かあちゃんは、いつの間にかお小遣いを貯めていた缶の中の探り、いくら貯まってるか数えていた。
そして、缶ごと取り上げて。

お前無駄使いしただろ。
これは没収するよ。
またはじめから貯めてくんだね。

そう言う、かあちゃんは優しく笑ってた。

最近は、たばこを吸う人も減り、だいぶ環境も変わりつつあります。

でも私は、こんな出来事を思い出してくれる、
たばこの匂いは大好きなんです。


くだらない内容なのに長文になってしまった事を申し訳なく思います…。

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