見出し画像

ナンパされた。

その日は大雨だった。

病院の精密検査を、いくつも受けて、
疲れ果てて、ちょっと疲れて気味でした。

傘をさしながら、買い物に向かった。
すると、どこからか声が聞こえてきた。

声のする方向に目をやると、
ボロボロのアパートの二階に、
ヨボヨボのおばあちゃんが手招きしてる。

私は、仕方なしにおばあちゃんの所に行く。

おばあちゃんは、
あんた、どこいくのー?
大丈夫なのかい?
どこか悪いのかい?

私は、
これから食料の買い物に行くんだ!
おばあちゃんに心配されて恥ずかしいわ!

そう告げると、こっちおいで!と、
おばあちゃんが呼んでいる…。

まぁ…話し相手にでもなるか。

私はおばあちゃんの所へと向かった。

おばあちゃんは、腰が曲がりすぎぐらいで、
杖をついていた。
笑いながら、ずっと見てたんだよー。
おまえさん、どこか悪いんだろ?
ずっと気になってたんだよー。

どうしても、おまえさんに声かけたくて、
呼び止めてしまってすまないねー。

あたいも、あっちこっち悪くてねー。
嫌になっちゃうよー。
おまえさんは一人なのかい?

私は、はい、一人です。と答えると、

あたいは、子供3人いるんだけど、
ぜーんぶ男3人!困ったもんだよー!

長男の嫁が、勝手にお金持っていって、
勝手に買い物してくるんだ!

おばあちゃんは、そう言うと、
杖をつきながら部屋の奥に消えた。

オレそんなに顔色悪いのか…。
それとも、女の人って第六感があると言う。
かあちゃんと同じく、勘が鋭いのか?

おばあちゃんは、戻ってきたかと思えば、
袋いっぱいに、食糧を入れてきたではないか。

頼んでもないのに、こんなーにたくさん!
あの嫁は、あたいの金で無駄遣いしてんだ!

あたいがこんなの食べれないのを、
いい事に、自分の家のぶんを買ってるのー!

だからね…。
盗られる前に、あんたにやるよ!
買い物する予定だったんだろ?

それから、毎週火曜日の昼間においで!
嫁が来る前に、おまえさんに、やるから!

どこか、かあちゃんみたい…。
まさかな…でも…なんだろうか…。
この、懐かしさと言うか、心地よさ。

私は、
おばあちゃん!いいって!
こんなの貰えないよ!悪いって!
それなら、お金払うよ!
一袋で、千円!でどう?

おばあちゃんは、ガハハと笑って、
うんうん、しぇんえんでいいよ。
ほら、今なら雨が小降りになってるから、
今のうちに、帰りな!

私は、千円札を、おばあちゃんに渡し、
袋いっぱいの食糧を持って帰った。

袋の中には…。
確かに老人一人で食べるものではない、
グラタンの素やパスタやパスタソース、
カレーやシチューのルーもあった。
明らかに、息子さん一家の食べ物らしき、
食糧がたくさん入ってた。

おばあちゃん…騙されてるんだ。

今まで、どんな気持ちだったのだろう。
腰が悪く、買い物もできないからと、
藁にもすがる思いで、息子に相談したのに。

大金を巻き上げ、
食べもしない物を、買ってきておいて、
食べないなら貰っていきますと盗られる。

おばあちゃんは、
悲しかっただろう。
悔しかっただろう。

でも、息子を想い、何も言えずにいた。
たとえ、利用されてるとわかってても。

そんな、おばあちゃんの姿や表情が、
私の胸を切り裂く様に、辛かった。

かあちゃんと重ねてみてしまっている。

私は、
かあちゃんの金で食糧は買わないが、
勝手に材料を買って、勝手に作って、
冷凍庫と、冷蔵庫パンパンにしていた。

幼少期から、私が料理していたから、
かあちゃんの好みも好き嫌いもわかる。

でも…それだけだった。

かあちゃんは、
本当は一緒に食べたかったかもしれない。
私の作り置きのおかずを、どんな気持ちで、
食べていたのだろう。

かあちゃんは、酒ばかり飲む。
それで、気を紛らわしていたのだろうか。

私の思い出の写真や思い出の物を、
眺めながら、一人寂しくご飯を酒の肴にし、
さぼてんや観葉植物に話しかけながら、
過ごしていたのかもしれない。

仏壇のかあちゃんに、
かあちゃん、一人寂しくご飯食べて、
辛かったよな?虚しいよな?ごめんよ。
オレ…今さらそんな事に気付いてさ。
もっと、かあちゃんと一緒にご飯を、
楽しく食べればよかったよな。

もう…遅いけど…。

ん?遅くはないかも…。

かあちゃん、
おばあちゃんと引き合わせたな!
かあちゃんの仕業だろ!
あーわかった!
オレがおばあちゃんと一緒にご飯食べる!
そうだよな!この食材で作って持っていく!
ありがとうな!かあちゃん!

次の日、グラタンの鍋を持って、
おばあちゃんのアパートに向かった。

あれ?チャイムがない…。
どんだけボロボロなんだよ…。

ドアをドンドンと叩いた。

しばらくすると、おばあちゃんが、
杖をついてドアを開けてくれた。

おばあちゃん!
昨日もらった食材でグラタンってヤツ、
作ったんだ!一緒に食べよう!

おばあちゃんは、困っていた。
いやいや、恥ずかしながら、
あたいの家は、物で溢れかえって、
よそ様を上げる事は出来ないよ…。

うーん…わかった!
オレの家に招待してあげるよ!
ちょっと待ってて!この鍋を置いてくる!

私は急いで、グラタンの鍋を家に置いて、
またおばあちゃんの家に行く。

おばあちゃんは、少し身綺麗にしてた。
そんな、かしこまらなくていいのに…。

おばあちゃんを、ゆっくり階段から、
おろして、杖をつく手の反対の手を、
ぐっと抱え込んで、ゆっくり、ゆっくり、
私の部屋に、案内した。

そして、腰が痛かろうと思い、
椅子を用意して、座ってもらった。

グラタンを、オーブントースターで、
焼くのだが、時間がかかる。

その間、かあちゃんの話しや、
昨日思った事、そして行動に移した事を、
おばあちゃんに色々話した。

おばあちゃんは、
かあちゃんの仏壇に手を合わしてくれた。

そして、グラタンは、出来上がり、
おばあちゃんに、熱いから少し冷まそう!

と、食卓テーブルに座りながら、
おばあちゃんと楽しく話した。

そろそろ冷めたかな?
一緒に、グラタンを食べ始めた。

おばあちゃんは、美味しいねー!
おまえさん料理がうまいねー!
こんな料理、息子達に食べさせたかったよ。

あたいは、洋物の食べ物がわからなくてね、
いつも、和食の食べ物ばかり食べさせてたよ。

申し訳ない事してたね…。


おばあちゃん、オレのかあちゃんは、
料理自体ぜんぜーん出来なかったんだ!
だから、おばあちゃんの料理を食べれて、
オレはその息子さん達が羨ましいよ!

おばあちゃんは、ガハハと笑い。
そうか、そうか、だからおまえさんは、
料理が美味いんだなー。
あたいは、おまえさんの母さんが、
すごく羨ましいったらないよー!

なあ!おばあちゃん!
今度、おばあちゃんの料理食べたい!
オレの家の台所使っていいからさ!

ダメかな…。
おばあちゃんの料理を教えて欲しいんだ。

おばあちゃんは、
そんな、人に見せれる食べ物じゃないよ!
あたいの料理を、知ってどうすんだい?
いいから、いいから、勘弁しておくれよ!

考える…ここは無理にお願いしては、
いけないな…ついついわがまま言って、
おばあちゃんを、困らせてしまった。

私は、
わかった!じゃあ火曜日は、
おばあちゃん家に迎えに行くから、
そして、オレが料理作るから、
千円はナシにして!

そう言うと、
おばあちゃんは、またガハハと笑い、
あたいも外に出るのがおっくうになって、
ついつい、家に引きこもってしまってね。
その案に、乗ろうじゃないか!

あの嫁の買ってきた食材を、
たくさん使っておくれよ!

こうやって、誰かと一緒にご飯を、
食べるなんて、もう何年もなかった。
いいもんだね…。

やったー!じゃあオレが食べた事の無い、
料理、たくさん作ってあげるからね!
おばあちゃんと話すのも楽しいし!

帰り送っていくよ!
次の火曜日またおばあちゃんの家に、
行くからね!食材用意して待っててね!

そして、おばあちゃんを、
アパートの部屋まで送り、家路へと帰る。

空を見上げて、
なあ、かあちゃん。
おばあちゃんは、かあちゃんに似てるよ。
だから、すごく嬉しいんだ。
かあちゃんも見ただろ?
かあちゃん、引き合わせたとしたら、
かあちゃんは、やっぱりすごいな!
死んでまで、オレの事考えてくれたんだ!
ありがとうな、かあちゃん。

早く火曜日にならないかな…。

なーんだ、人付き合い出来てるじゃん。

この記事が参加している募集

最近の学び

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?