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濱口作品に見るディープな人のつながり〜『偶然と想像』

千葉県柏にあるキネマ旬報シアターというミニシアターへ、濱口竜介監督「偶然と想像」を観に行く。

何日か前の晩、やはり濱口監督の「PASSION」を観て、これは行かなけりゃと思ったのだ。

キネ旬シアターでは現在濱口竜介監督作品を特集上映していて「偶然と想像」以外にも村上春樹の短編の映画化「ドライブ・マイ・カー」や演技未経験の人たちをキャストに起用した「ハッピーアワー」などがかかっている。

濱口監督の映画に触れたのはたまたまスカパー日本映画専門チャンネルでやっていた「ハッピーアワー」や「親密さ。」を見たのがきっかけだ。

最初は多少しんどいなーと思いつつ見ていたが(笑)、そのうち何となくその魅力にハマってしまった。

濱口竜介監督の映画はどれもとんでもなく長い。ほとんどの作品が2時間半から3時間越えだ。

主要な登場人物は2、3名、しかも物語らしい物語はほとんどないと言ってよく、地味っちゃ地味だ。人によっては退屈だったりやや忍耐が必要だったりするかもしれない。

確かに長いことは長い。でもそれだけ時間をかけて登場人物たちの関係をじっくり描き出していくのだ。

物語を観るというより、人を視るという感じ。ちょっと演劇に近い。映画を観ているうちに、登場する人たちと同じ空間と時間をともにしているような気すらしてくる。

僕たちのほとんどは、ふだんマニュアル的、予定調和的なコミュニケーションを繰り返してばかりで、あまり深い人間関係も築けずにいるのではないかという気がする。

反面、濱口作品の登場人物たちは、恋人同士や古くからの友人関係だからかもしれないが、とにかく関係が濃密だ。こんなにディープな対話を日常的に行なうことはまずないだろう。

深いコミュニケーションを行なうにはそれなりの「場」が必要だ。濱口映画の長さはその「場」をつくりだすためのプロセスではないかと思う。

今回観た「偶然と想像」は、短編3作のオムニバスなので多少は見やすいかもしれない。にしてもトータルは2時間越えだ。

どの話も登場人物は2人から3人、舞台設定はほぼワン・シチュエーション。

ミニマルなだけに濃いわー、どの話も。

どこかで「濱口映画の登場人物はみなセリフまわしがモノトーンだ」といった感想を見た記憶があるけど

2話目の大学教授と教授にハニトラをかけようとする元教え子とのやりとりは、モノトーンで行われるからこそおかしさが倍増するのではと思う。

3話目はパソコンウイルスの蔓延で大混乱を経た世の中という設定。いまのコロナ禍の社会を連想させる。

「PASSION」に続き河合青葉卜部房子が共演、また2話目で教授を演じた渋川清彦も「PASSION」と全然違う役柄で驚いた。役者ってすごいわ。

前述したように物語を観ようとするより、人を視ていただきたい。こんなに濃密な関係をもとうとしている人たちを視る機会は、現実にはめったにないだろうから。


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