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『明晰夢』


夢を見ていた。
あぁ、これは夢だとわかる夢だ。
確か、明晰夢って名前。

だって、ワタシは水底に沈んでいるんだから。
なのに、苦しくはない。
(息が出来る)
視界も、クリアだ。
少し水で動き辛いだけで、ワタシは底に沈んでいる。

何かが水面に何かが投げ込まれている。
ゆっくり沈んでくるそれは、花だった。
次から次に投げ込まれているのだろう。
沈んでくる花は、とても綺麗で。

(誰が投げてるんだろう)
ワタシは首を捻る。
誰だろう。
水に花を投げ込む様な物好きを、ワタシは知らない。
ちょっとした興味だった。

ゆっくりと水面に向けて動き出す。
ワタシの横を、花が沈んでいく。
振り向けば、花畑と言って良いほど花が水底に溜まっている。
(まるで、棺みたい)
西洋のお葬式で見る、花が敷き詰められた棺。
まるで、アレの様だ。

水面に着いた。
花の雨は先程から止んでいる。
ゆっくりと、手を水面からだす。
次に腕、そうして、顔を出した。

誰も居なかった。
其処は川なのか湖なのかもわからない。
けれど、誰も居なかったのだ。

少し残念な気持ちになる。
あれだけ沢山花をくれたのに。
「                                」
一体、誰なんだろう。
そう声に出した筈が、声は出なかった。
其処で、ワタシは、水面に映るワタシを改めて確認した。
其処に映るのは、見るに堪えない、忌まわしい、醜い、

じりじりと鳴る目覚ましで起きる。
いつもの朝。
いつもと変わらない、ワタシの部屋。
ワタシは回らない頭で考える。
(何だっけ……)
そう、夢を見ていた気がする。
「……何の夢だっけ」
大抵の夢は覚えていない。
ワタシは気にせず、日常に戻る。


……………………。
ちゃぷん、と白い花が沈む。
とぷんっ、と黄色の花が沈む。
ハラハラと、赤の花が水面に一瞬浮かんで、沈む。
水底で眠っている君に、花を投げる。
今日も、君の夢の中で花を投げている。
君が毎回、夢を忘れても。
ずっと、此処で待っている。
花を投げて、待っている。


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