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ユング心理学と神智学から解き明かすペルソナの正体

今回は『ペルソナ3』に於ける『ペルソナ』とは一体何なのかというのをユング心理学に基づいて考察していきたいと思います。


・ペルソナ/シャドウとは?

ではまずはペルソナ/シャドウという存在について考察をしていきます。
ゲーム設定では”神や悪魔の姿をしたもう一人の自分”と定義されておりますが、この設定は心理学者のカール・グスタフ・ユングが定義した「対人関係における表層人格」という意味の『ペルソナ』がルーツになっていると思われます。

ユング心理学では、心の動き(性格や思考など)は集合的無意識から生成されるものと考えられており、これをパターン化したものを”アーキタイプ(元型)”と呼んでおります。
また”アーキタイプ(元型)”は神話やおとぎ話の存在からインスピレーションを受けていると言われています。

この”アーキタイプ”は大まかに分けると4つの要素に分けることが出来ます。
ペルソナ=対人関係における表層意識
シャドウ=抑圧された無意識
┗受け入れることで本当の自分を見出すことが出来るが、否定すると敵対関係になる。(ペルソナの研究時に多くの被験者が自身のペルソナに殺されたようですが、おそらく自身のシャドウを受け入れることが出来なかったのかもしれない)
アニマ、アニムス=精神的性別とは異なる性別の意識
┗アニマ=男性が持つ受容的または女性的な要素
┗アニムス=女性が持つ理性的または男性的な要素
セルフ(自己)=意識と無意識の集合体。苦難を乗り越えることで得られる心の発達のゴール
┗仲間たちのペルソナの進化はセルフの概念からインスピレーションを受けているのかもしれません。

他にも老賢者やグレートマザーという”アーキタイプ(元型)”も存在するが
老賢者=イゴール
グレートマザー或いはアニマ=エリザベス
を表しているかもしれない。 

またタロットカードの大アルカナは”個人が経験する出来事の根底にあるパターン”を示しているのですが、これも”アーキタイプ(元型)”の一つとされています。

岳羽ゆかりを例にして考えると――
ペルソナ=誰かのために働きたい、献身的な意識→イオ/イシス
シャドウ=男性に頼りたくないという意識
アニムス=自立したいという理性的な意識
セルフ(自己)=父親の死を受け入れたことで成長を遂げた
主人公と同じ境遇を持っていることから”共感”=大アルカナ:恋愛の意味
※イオ:ギリシャの女神で嫉妬の女神ヘラにゼウスとの浮気現場を目撃された時に、ウシに変えられてしまった。
※イシス:エジプト王家に嫁いだ後の名前、神を蘇生したり治療の術に長けている。





・『ペルソナの発動』について


続いては『ペルソナの発動』の仕方について焦点を当てて考察していきます。

前述ではユング心理学に於ける『ペルソナ』とは、自我の根源に存在している神などの自然存在が元型になっている解説しましたが、この考えは各国の宗教に於ける”個人と神”の関係と似ております。
例えばキリスト教やグノーシス主義では”神とは心の中に存在しているもの”と言われており、また古代インドのヒンドゥー教などでは”神とは宇宙の根源であり、個人の根源と同じもの”と考えられております

更にヒンドゥー教など古代インドの宗教に焦点を当てて考察していきますが、『瞑想』の目的は”宇宙の根源=神”と”個人の根源”の同一化であり、これを梵我一如と言います。
梵我一如はウパニジャットというインドの聖典(ヴェーダ)に著された教えで、そこには”あなたは神(宇宙の根源)であり神はあなたである”と言う教えが書かれています。

この教えはペルソナのコミュニティが発現した時の台詞『汝は我、我は汝』と言う言葉に似ておりますし、この”我”というのは神や悪魔や過去の偉人など神聖的な存在などの事を指します。
これらのことから『ペルソナの発動』は梵我一如の悟りを目的とした『瞑想』の概念からインスピレーションを受けているのではないかと考えました。


・何故、召喚時に銃型の召喚器を使っているのか?

続いてペルソナを召喚する時に使われていた『召喚器』について考察していきます。

まずゲーム内に於ける『召喚器』について考察すると、他者が使っている召喚器でもペルソナを呼べたり、アイギスやタカヤが『召喚器』なしにペルソナを発動していたことから、『召喚器』はペルソナ発動の必須アイテムではなく、あくまでも召喚を安定させるためのサポートアイテムだと考えることが出来ます。

更に洞察を深まえていきますが召喚器は銃の形をしており、ペルソナ発動時にはこめかみや首元に当てるポーズは『自殺』を連想させます。
ユングの心理学に基づいて考察すると彼の言う『自我の死』が関連しているかもしれません。
『自我の死』とは意識をリセットし、自然な自分と調和する方法と言われております。

抽象的で分かりにくい概念なので、ユングや他の心理学者の解釈を参考にして解説すると、”精神的な死を体験すること自身の本質を理解することが出来たり、或いは神の同一化つまり『悟り』を開ける”などの解釈があります。そしてこれは梵我一如の概念と酷似しております。

この『自我の死』と『梵我一如』の2つの概念は、チベット仏教における自殺を伴う瞑想法の『ポワ』と関連性があります。

『ポワ』とはチベット仏教のゾクチェンという瞑想体系の一つで、自殺を伴う瞑想法であり”精神的な死=自我の死”に成功すると、意識を浄土に移行し、悟りを開けると言われております。

これらの事から想像するに、『ペルソナの発動の仕方』は神との同一化を目的にした『瞑想』と同一のもので、召喚器を使った発動はチベット仏教の瞑想法の『ポワ』からインスピレーションを受けたものではないかと考えました。

・ストレガは何故薬物を使っていたのか?

新垣やストレガなど自身のペルソナを制御できなくなった者たちは『薬物』を使って制御しておりましたが、これも『自我の死』が関係しているかもしれません。
サイケデリック文化では向精神薬のLSDを使用することで、『自我の死』を経験することが出来ると言われており、LSDは過剰摂取による死ぬ可能性があったり、ストレガのような者が持っている非合法的なものという点から合点がいく部分があります。

・ペルソナシリーズの元ネタ?

ペルソナやその発動方法から考察するにユング心理学の『自我の死』の概念が強く影響されていると思われます。
そして同じように『自我の死』の概念に強く影響を受けた作品にジョセフ・キャンベルが書いた本で『千の顔を持つ英雄』というタイトルのものが存在しています。

この本には”イエスの生涯”や”オルフェウスの冥界下り”などをはじめ、各国の神話に出てくる”英雄の旅の物語”は似たようなプロットになっていると言う仮説を建てております。

具体的には――
起:主人公(英雄)はありふれた日常を過ごしていたが、超自然存在に導かれ特殊な力を獲得する。
承:神話的な脅威へと立ち向かう。
転:冒険の中で”精神的な死と復活”を遂げる。
結:勝利を得て世界に平穏を齎し、冒険から帰還する。
というテンプレート構成になっている説明されています。

ペルソナ3では――
起:ただの高校生だったが、イゴールに導かれペルソナの能力に目覚める。
承:神話的な脅威へと立ち向かう。
転:ニュクスを封印するために自身を犠牲する。
結:世界を救い一時的だが仲間の元へと帰還した

この構成はペルソナ3の物語にぴったり当て嵌まりますし、タイトルの『千の顔を持つ英雄』もワイルドの能力を持った主人公を彷彿させます。
もしかするとですがペルソナの物語のプロットも『千の顔を持つ英雄』を参考にして描かれたのではないかと推測しました。


以上で今回の考察は終わります。あくまでも推測の話なので確信的な考察ではありませんが参考になればと思います。






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