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姉弟日記 『猫の日』

とある姉弟がまだ幼い頃。
休日に家族で、親戚の家へ遊びに行った。

家で出迎えてくれたのは、
親戚の一家と、一匹の猫。

少女は猫へ「こんにちは」と微笑むが、
その一匹は挨拶を無視して逃げてしまう。

──毎年のように繰り返された光景。

少女がこの家に来た一番の目的は、
今年こそ猫と友達になるためだった。

親戚一家への挨拶を終わらせ、
大人達がお茶を飲み始めたら。
お待ちかねの、子供の時間の始まりだ。

さっそく家中をくまなく探し、
猫を見つけだすと少女は──

「にゃーお……」

まねき猫みたいに手を丸めながら、
甘えるような猫の声マネをした。

だが、猫はそんな親愛の証を無視して、
あろうことか別室で図鑑を読む、
弟のもとへと駆け寄ったではないか。
何故か猫は、弟にだけは懐いているのだ。

悔しげにむっとする少女の表情は、
すぐに不敵な笑みへと変わる。
今年の私は、去年までとは違うのだと……

少女と猫、小さな攻防戦の火蓋が切られた。


少女が訪れた、猫のいる親戚の家。

彼女は持参したリュックに手を入れ、
猫と友達になるための秘密兵器を取り出す。

それは──猫耳のカチューシャ。

以前に遊園地で買ってもらったものだ。
これを使えばきっとあの猫も、
自分を仲間だと思ってくれるに違いない。

再び家を探し回り、隠れた猫を見つける。
そして、少女は猫耳を頭に着け、
猫のマネをして四つん這いで近付いていく。

標的に気付かれるが、逃げる様子はない。
ついに、しっぽに触れようとしたその時──

少女は突然の衝撃に襲われ、
気付けばごろごろと床を転がっていた。

少女の頭部へと放たれた、神速の猫パンチ。

痛くはなかったが、驚きに退いた少女を横目に、
猫はまた弟の陰へと隠れてしまった。

少女はむっと頬を膨らませながら、
次の秘密兵器をリュックから出し始める。

こうなったら、どんな手段を使ってでも、
必ずあの猫と友達になってみせる……

闘志を瞳に宿す少女が、
猫じゃらしの双刃を手に構えた。


親戚の家で開幕した、少女と猫の戦い。
夕方になり、そろそろお別れの時間だ。

帰宅のために少年が姉を呼びに行くと、
リビングにあるソファでは……

一日中、猫と戯れて疲れたのか、
少女がすやすやと眠っていた。
その様ときたら、おかしなもので。

頭に猫耳をつけ、両手には猫じゃらし。
好物の魚がプリントされたTシャツに、
頬に生えたマジックペンの猫ヒゲ。
猫の鳴き声みたいな寝言を零している。

そして──

その膝の上では、安心しきったように、
猫が丸まって一緒に眠っていた。

少年は呆れたように、ため息を吐く。
この家で姉が猫にちょっかいを出す度に、
何故か猫は彼のもとへと逃げてきた。

実のところ、少年は猫が苦手。
どう接すればいいのか分からないから、
近付かれる度に気が気でなかったのだ。

姉のせいで、今日読み切ろうと持参した
宇宙図鑑は読めず仕舞い。

弟はスマホで、眠る少女と猫を撮る。
──この写真は誰に見せることもしない。

やっと叶った、猫と友達になる姉の望み。
それを姉に黙っていることが、
彼が考えた小さな仕返しなのだった。

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