ゆき

ゲームとシナリオをつくっています。 とある姉弟のSSを書きます。

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最近の記事

姉弟日記 『明け暮れ』

箱の中へ押し込められた、日常の跡。 壁や床の傷に思い出を見る、引越しの日。 早朝のベランダで、 姉弟が街並みを眺めていた。 夜の闇を、陽の光が染め始める頃。 狭間の光が、くすんだ都市を美しく照らす。 太陽と月の出会いが許された、 ほんの僅かな── ── "魔法"と名のつく時間。 現実から目を背けられない現代社会で、 唯一、魔法という存在が許された刻。 その景色を無言で見つめ、姉弟は思う。 自分たちが家族として、 共に過ごした日々に似ていると。 魔法が解ければ、

    • 姉弟日記 『流水』

      小川沿いの桜並木。 春の光に満ちた木漏れ日。 あの人の姿が、眩さに霞む。 優しげに微笑みながら、 何かを俺に手渡して── 「……!」 高校生の少年が目を開けると、 そこはマンションの一室。 何故か目から流れた雫を、 静かに指で拭き取る。 こんな夢を見てしまったのは、 昨夜見つけた懐かしい品のせいだろうか。 机の引き出しの奥にあった、栞。 桜の花びらをフィルムで閉じ込めた、 あの人の手作りの栞だった。 夢で見た日に聞いた、春のまじない。 だが、そのまじないには不

      • 姉弟日記 『落花』

        まだ姉の方が背の高かった頃。 小川と隣り合った、桜並木で。 水路のせせらぎと、 はらはらと舞う花吹雪の中を、 姉弟が一緒に歩いている。 桜を眺めながら先をゆく少女が、 何かを思い出したように── ぱっと、腕を前に突き出した。 「ねえ、知ってる?」 そう切り出した少女は、 父に聞いた"おまじない"のことを話す。 『桜の花びらを  地面に落ちる前に掴めたら、幸せになれる』 弟に向けた少女の手のひらには、 桜の花びらが一枚乗っていた。 そして。 そのまま二人が始め

        • 姉弟日記 『夢幻』

          夢を見た。 自分がまだ幼い頃の、 おそらく自分の中にある 一番古い記憶を元にした夢だ。 そこで、姉さんが泣いていた。 なぜ泣いているのかは分からない。 そっと慰めようと手を伸ばすと、 それは影のように溶けて消えた。 夢は続く。 家族で過ごした家、 瓦礫で埋もれた都市、 鉄で固められた要塞。 場所が変わり時が過ぎても、 そこには必ず姉さんが…… 苦しみ涙を流す姉さんがいた。 そして、夢の終着点。 記憶の最期。 そこで、姉さんは── 体中に傷を負って、 赤黒い血

        姉弟日記 『明け暮れ』

        マガジン

        • 姉弟日記
          13本

        記事

          姉弟日記 『隙間』

          霞がかった空、立ち並ぶ石塔。 見渡す限りの灰色の世界に、 二人ぶんの足音が響く。 少女は普段のように話題探しもせず、 心地のいい沈黙に身を委ねていた。 ふと、前を歩く少年に目を向ける。 思い出の中より少し大きな彼の背中に、 空白になった家族の時間を思い知る。 歩幅の差であいた距離を埋めるよう、 少女は僅かに歩みを早めた。

          姉弟日記 『隙間』

          姉弟日記 『登山』

          とある姉弟が、まだ小学生の頃。 家族で登山をしに行くことになった。 テキパキと準備を終えた姉のとなりで、 少年の荷詰めはまだ半分くらい。 標高の高い山に初挑戦の彼は、 丁寧にカメラをケースに入れたりと、 気合を入れて山に挑もうとしている。 少年が楽しみにしているのは、 山頂から望む満天の星空。 普段都会で見上げる夜空とは、 星の数も輝きも、全く違うのだ。 ──そして当日。 目的への道のりは、想像以上に過酷だった。 日頃から体力に自信のない少年は、 へとへとになりな

          姉弟日記 『登山』

          キョウダイニッキ 『鏡写し』

          夜の都心、アルバイトへと向かう。 罪から隠れるように深く被ったパーカー。 大通りから外れた路地を、怯えながら進む。 届け物を渡すお客さんは気が立っている様子。 道端の荷を蹴る音の度に、体が震えてしまう。 その場から逃げるように、足早に去った。 帰る途中、突然中年の男性に呼び止められる。 何か声をかけられ、強引に手を握られる。 声は褒めてくれていた。私は喜べばよかった? でも、痛くて怖くて、気付けば駆け出していた。 雨が降り始める。傘は持っていない。 ちょうどいい。泣いたことを

          キョウダイニッキ 『鏡写し』

          姉弟日記 『冷雨』

          どこかの異分岐の世界。 ある大義を成すために組織された部隊。 その日の訓練を終えた少年が、 基地の通路を歩いている。 今日も、結果は散々だった。 これでは落ちこぼれと罵られても仕方がない。 窓から見える空は雨雲に覆われ、 さらに気を滅入らせる。 ふと、屋外で空を見上げる少女が目に入る。 あれは──姉さんだ。 雨の中で一体何をしているのかと、 外へ出て姉の元へと近付く。 人の気配に気付いていないのか、 少女は天を仰ぎ続けている。 そんな姉の背中を見つめながら、 少年

          姉弟日記 『冷雨』

          姉弟日記 『ホワイトデー』

          都心に建つショッピグモール。 少女はコソコソと物陰に隠れながら、 “とある人物“を尾行していた。 その標的は──少女の弟。 探偵ドラマを観て会得した尾行術で、 誰からも不審に思われることなく追跡する。 彼は洋菓子の専門店へと入っていき、 そして静かに品々を見定め始めた。 今日は、ホワイトデーなのだ。 弟はバレンタインのお返しを選ぼうと、 慣れない買い物に一人で来たらしい。 少女はモヤモヤとした気持ちを抱く。 何故なら──渡す相手が分からないから。 弟はその日の

          姉弟日記 『ホワイトデー』

          姉弟日記 『猫の日』

          とある姉弟がまだ幼い頃。 休日に家族で、親戚の家へ遊びに行った。 家で出迎えてくれたのは、 親戚の一家と、一匹の猫。 少女は猫へ「こんにちは」と微笑むが、 その一匹は挨拶を無視して逃げてしまう。 ──毎年のように繰り返された光景。 少女がこの家に来た一番の目的は、 今年こそ猫と友達になるためだった。 親戚一家への挨拶を終わらせ、 大人達がお茶を飲み始めたら。 お待ちかねの、子供の時間の始まりだ。 さっそく家中をくまなく探し、 猫を見つけだすと少女は── 「にゃー

          姉弟日記 『猫の日』

          姉弟日記 『バレンタイン』

          パキパキ、カラカラ。 折られた板チョコの欠片が、 ガラスボウルに溜まっていく。 幼い少女が、踏み台の上に立ちながら、 広々としたキッチンでチョコ作りをしている。 今日は、バレンタインデー。 少女はチョコをひと欠片つまみ、 口へと放って、その美味しさに微笑む。 さすがはスーパーの棚から厳選した板チョコだ。 すぐ隣で冷蔵庫が開く音。 そこにいたのは、少女の弟だ。 少女は咄嗟に腕を下ろして、 くすぐり攻撃に備えて脇腹をガードする。 ──だが、彼はジュースを取り出すだ

          姉弟日記 『バレンタイン』

          姉弟日記 『初詣』

          とある姉弟がまだ幼い頃のこと。 雪の積もった日に、家族で出かけた初詣。 二人は何をお願いするのかな? という両親からの問いに、 少女は微笑みながらこう答える。 「今年もみんなが幸せでありますように!」 片や少年はくだらなさそうに、 「俺は別に」とだけ。 彼は神様なんていないと思っていたし、 姉みたいに幸福を願いたい人など 数える程しかいなかった。 賽銭箱の前に並んだ一家は、 作法を順番に確認しながら、 礼をして手を合わせる。 「……………………」 少年は頭の中で

          姉弟日記 『初詣』

          姉弟日記のこと

          とある姉弟の日常を描くショートストーリー。 ■ 登場人物 □ 姉 いつも笑顔で、何でも卒なくこなす少女。 ひよこが好きでグッズなどを集めている。 お姉さんだからと弟の世話を焼きがち。 □ 弟 おとなしくて物知りな少年。 愛読書は図鑑で、星が好き。人見知り。 いたずらで姉にちょっかいを出しがち。 □ 父親 優しくて、少し頼りないお父さん。 □ 母親 優しくて、病気がちなお母さん。

          姉弟日記のこと