姉弟日記 『夢幻』
夢を見た。
自分がまだ幼い頃の、
おそらく自分の中にある
一番古い記憶を元にした夢だ。
そこで、姉さんが泣いていた。
なぜ泣いているのかは分からない。
そっと慰めようと手を伸ばすと、
それは影のように溶けて消えた。
夢は続く。
家族で過ごした家、
瓦礫で埋もれた都市、
鉄で固められた要塞。
場所が変わり時が過ぎても、
そこには必ず姉さんが……
苦しみ涙を流す姉さんがいた。
そして、夢の終着点。
記憶の最期。
そこで、姉さんは──
体中に傷を負って、
赤黒い血で塗れていた。
頭部から頬へと流れる血は、
まるで涙のようにも見える。
だが、その口元は確かに笑んでいた。
十数年の不幸を忘れたほどに、歪んだ笑み。
人生の目的を果たしたような安堵と共に、
そこで夢は途切れた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?