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妹さんの感想文#03『きまぐれテンプテーション』

※2024年4月 見出し画像を新調。


ミステリ。サスペンス。陰陽師モノ。ホラー。
これらは、多くの書籍や映画、アニメなどでも根強い人気を獲得しているジャンルである。

作品ごとにテイストの違いはあれど、たとえば〈これらのジャンルを絶対的に避けている読書家〉というのは少数派であろう。積極的に愛好しているとまでは言わずとも「面白そうなものがあれば読む」くらいの距離感で楽しんでいる人が多いのではないだろうか。

しかし、こうした人気ジャンルと呼べる創作物であっても、大多数の読書好きや映画好きからは認知されず、まして「購入して楽しみました!」と大衆に語られることなんて期待することさえ難しい媒体がある。

お察しの通り、いわゆる〈エロゲ〉はその典型例だ。

未成年は購入することができず、流行の小説や漫画と一緒に売られているわけでもない〈エロゲ〉という媒体は、どうしてもシナリオやゲームとしてのクオリティと知名度が比例しない。

無論「大衆にどんどん売り込もう!」などと言える媒体ではないのだが、いち読書好きとしては「たとえ自分の大好物といえるジャンルであっても、たとえ毎日のように書店や図書館に通って本を読み耽ったとしても、ほとんど自分のセンサーに引っ掛からず、そのジャンルを好む人の多くが存在すら知らないまま過ごしている媒体・物語がある」という現実に、ある種の恐怖と絶望を感じてしまうのもまた事実。

未成年や「えちえちなのは苦手だ」という方にプレイさせることはできないにしろ、ミステリを好む人に、ホラーやアクションを好む人に、音楽バンドモノを好む人に、青春恋愛モノを好む人に、少しくらいは「そのジャンルの物語はここにもありますよ」と伝えたい──。
そんなことを思ってしまう日もある。

前置きが長くなったが、そのような動機もあって、作業の息抜きがてら〈最近プレイしたエロゲ〉の簡単な感想というか紹介というか、そのようなものを書いてみようと思う。

今回ピックアップするのは、ミステリであり、サスペンスであり、私も大好物な陰陽師モノであり、そして幽霊や妖怪などが登場する系ホラーでもあるエロゲ『きまぐれテンプテーション』だ。



概要


最初に書いておくと、この『きまぐれテンプテーション』は、同ブランドから発売されているエロゲ『なないろリンカネーション』および『あけいろ怪奇譚』と世界観を共有している。

まあ〈舞台となる土地が同じ〉かつ〈過去作のキャラクターが間接的に登場する〉程度の繋がりしかなく、物語は独立しているため今作からプレイしても何ら問題はないのだが、過去作もプレイしていると、より深く物語の背景までを楽しむことができる。

また、このゲームは全年齢版も発売されている。なので  メインヒロインが最初からキワドイ格好をしていることにさえ目を瞑れば  気軽に楽しめるだろう。

全年齢版は3000円ほど。成人向けでも4000円しない程度の価格で購入できるため、お財布にも優しいゲームだ。



↓ 過去作の感想記事も書いてます ↓



あらすじ


とあるマンションで、四人の年若い女性が怪死した──。
それぞれが契約していたと思われる部屋で発見された遺体には傷や痣などの目立つ外傷こそなかったが、どの遺体も腹が裂かれ、臓器だけが抜き取られていた。

何故、女性たちは死んでしまったのか。
マンションの中で何が起きたのか。
それを知る手掛かりはない。
事情を知っていそうな大家も行方不明。
マンションに入った者は原因不明の体調不良を訴えるため、部屋全体で大麻が栽培されている明らかにヤバい部屋の中すら  詳しく調べることができない。

そこで警察は、幽霊や妖怪、怪異などといった不可思議なものに関する専門機関〈陰陽寮〉に協力を依頼。大学生でありながら陰陽師として働いている主人公『巽 悠久たつみ はるひさ)』は、この奇妙な集団死の謎を調べるためマンションに派遣される。

術っぽいものは使えない代わりに霊障や呪いなどへの強い耐性をもち、また陰陽師としてもそれなりに場数を踏んでいる悠久は、油断するわけでも、かといって緊張しすぎるわけでもなくマンションに到着したのだが……

待っていたのは、共に調査にあたるよう指示された協力者。
爆乳淫乱ピンク系悪魔(サキュバス)娘『アンネリーゼ』だった──。


入り口がオートロックであるため、自分がいる部屋の番号を伝えてくるアンネリーゼ



大学生陰陽師が爆乳淫乱ピンク悪魔娘とイチャイチャしながらマンション住民集団死の謎を解明する胸糞系ミステリ・サスペンス・ホラー


本作をひとことで言い表すとするなら、このような感じだろうか。

陰陽師である悠久は、自身が師と仰ぐ女性からの指示を受けて、イギリスのウェールズからやってきたと語るアンネリーゼと一緒にマンションの空き部屋を拠点としながら「住人たちはどうして死んだのか」「マンションで何が起こったのか」といったようなことを調べてゆく。

そして「漫画やアニメを通して憧れていた日本での永住を認めてもらうため仕事を手伝う」というアンネリーゼは、調査を手伝いつつ、スキあらば悠久とのイチャイチャ & 性交に及ぼうとする。
サキュバスだからね。仕方ないね。

住人が怪死したマンション内の調査──という閉塞感と重苦しさに包まれた舞台設定において、しかし悠久とアンネリーゼの掛け合いは軽妙で、流行りのラノベやアニメを楽しむような気分で物語を読み進めることができる。

この「軽妙さ」は『きまぐれテンプテーション』の大きな魅力だろう。



とはいえ、この物語の本筋は 悪魔で あくまでミステリであり、サスペンスであり、そしてホラーだ。

このゲームでは〈部屋を調べる〉〈人と話す〉〈移動する〉というような選択肢の中から次の行為を選ぶことでシナリオが進行する。つまりプレイヤーの選択により物語の展開と結末は変化を見せる。

軽妙な会話に油断し、アンネリーゼとのイチャラブに熱中するあまり、自分たちが〈呪われたマンションの中〉にいることを忘れて無警戒なまま過ごすならば──

あるいは、マンションの謎や悲劇の真相を解き明かすことに熱中し、アンネリーゼとの関係や他の登場人物との会話に興味を持たず、雑に聞き流したりするならば──


当然、最後に残るのは、後悔と、喪失と、死だけである。



被害者は誰? 容疑者は誰? そんなこと自分で調べなさい──のDIY精神で楽しむ火サス


死亡した女性たちが住んでいたと思われる部屋には、それぞれ〈天使〉を名乗る女性が現れる。

○ 殺風景な部屋の中で祈りを捧げるように手を組み、優しく穏やかな言葉で〈教え〉について説いてくるが、悠久たちが近付こうとすれば牽制するように言葉を発し、こちらからの質問に対しては「共に祈りましょう」というような定型句を繰り返す女性──『サリィ』。

○ お菓子やジュースのゴミ、あるいは衣類などに埋もれた部屋でふわふわと宙に浮いたまま、眠ったりスマホを弄ったりしているだけで、こちらが何を言ってもほとんど興味を示さない少女──『ロゥジィ』。

○ 部屋の中で大麻を栽培し、いつも煙(おそらくタバコではない)をふかしながら馴れ馴れしく話し掛けてくるが、些細なことでもキレはじめる情緒の不安定さと学生服風の服を身に纏った少女──『クーリィ』。

○ 本が多いくらいしか特徴らしい特徴のない部屋にて、PCで絵を描きながら静かに過ごしているだけだが、ときおり何かに怯えるような様子を見せるメガネ少女──『ハーヴィー』。

彼女たち四人は〈マザー〉なる人物から与えられたという〈聖名〉を自称するが、その正体は死亡した住人たちであると見当をつけた悠久とアンネリーゼは、外部の協力者を通して警察から提供される情報を活用しつつ、彼女たちの部屋を訪れては会話をして情報を引き出す。

悠久たちに情報を提供してくれる部署は〈刑事十三課〉という、まあ有り体に言えば「幽霊とか妖怪とかを見たり感じたりすることのできる人員で構成された、周囲の部署から見れば何をやっているのかもよくわからない閑職」である。そのため警察内での縄張り争いを経て悠久たちに提供される情報はそう多くなく、重要そうな情報も遅れて届いたりする。諸事情により悠久たちが外部と連絡を取れる時間も限られるため、外部からの支援は最低限のものとなる。

最初、天使たちについて悠久たちが得ることのできる情報は「ファンタジーか何かに出てくるようなコスプレっぽい格好をしていること」と「会話がなかなか成り立たない」ということくらいのもの。

単純に殺されただけなのか、あるいは殺した側なのかも不明。
マンションの謎について何かを知っているのかも不明。
生前の実名や来歴も不明。

そんな謎だらけの〈天使〉たちと会話をし、あるいは部屋の様子から情報を得て、遅れて知らされる警察からの情報を活用しながら、次のアプローチを考える。

この繰り返しが、悠久たちの基本的な調査スタイルとなる。
つまりは刑事モノの火サスだ。
こういうの大好物です。




最終的な感想とか


本当はもっと紹介めいたことを書きたいが、あまり冗長すぎるのも作品の魅力を損なってしまうため、そろそろ感想を少しだけ書いて〆とする。

今作はミステリであり、サスペンスであり、ホラーでもある。
それは過去作にあたる『なないろリンカネーション』および『あけいろ怪奇譚』とも共通する要素だが、今作では刑事モノのような雰囲気を堪能できた代わりに “泣かされる要素” は省かれていた印象がある。

当然、制作側の意図や試みを否定したいわけではない。謎の真相は堅実さとトリッキーさの塩梅が「イイ感じ」であったように思うし、陰陽師モノの長編ラノベや漫画などに飛び出していけそうな展開も胸が熱くなる。単独の作品としては「すごくよかった!」という感想に辿り着く。

しかし『なないろリンカネーション』で泣かされた一人としては、また、あの優しさと切なさで胸をいっぱいにする物語を堪能したいとも思ってしまうのが正直なところだ。パラレルワールド的な設定とはいえ“続編”に近い作品だからこその不満点と言える。

また日本における信仰などを暇潰し程度に調べる趣味をもつ身としては、各地の信仰や宗教というものに触れる機会も多そうな〈陰陽師〉という立場をもつ者が〈カルト〉のように不安定な語を普通に使うあたりにも少し引っ掛かりはしたが、まあ不満らしい不満はその程度。

総評のようなことを言わせてもらうならば「買ってよかった!」である。

アンネリーゼ役である歩サラさんの声と演技も素晴らしく、ますますファンになってしまいました。



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