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妹さんの感想文#02『あけいろ怪奇譚』

※2024年4月 見出し画像を新調。


突然だが、私は〈学校の怪談〉という言葉にときめいてしまう世代だ。

1990年頃からの第二次オカルトブームにおいて爆発的な人気を獲得した〈学校の怪談〉というジャンルは、大雑把に言えば〈ホラー〉の一種でありながら、しかし〈学校〉を主題としたことから小中学生らの当事者意識をくすぐり、その心を鷲掴みにし、多くのトラウマ や性癖 を作り上げた特別な存在感をもつジャンルである。

かくいう私も、ノストラダムスの大予言などブームの盛り上がりが最高潮に達したタイミングからは少し遅れた世代ではあるが、それでも書籍や映画やアニメなどで〈学校の怪談〉というジャンルは浴びていた。

現在でも都市伝説や妖怪モノと交わるかたちで書籍やゲームなどに登場したりすることを考えれば、これはすでに安定した〈人気ジャンル〉になっていると考えていいだろう。

今回ピックアップするのは、そんな〈学校の怪談〉系のひとつ。
その名も『あけいろ怪奇譚』である。




概要


『あけいろ怪奇譚』は、PCゲームブランド「シルキーズプラス WASABI」様から発売されている成人向けPCゲームである。当然 “未成年” および “性的なシーンやグロテスクなシーンが苦手な人” にオススメすることはできない。

また本作は、同ブランドから発売されている『なないろリンカネーション』の続編というか “シリーズ第二作目” 的な立ち位置にある作品だ。独立した作品であるため今作からプレイしても何ら問題はないが、前作のキャラクターが少しだけ登場したりする。


↓ 前作の感想記事も書いてます ↓



大まかなあらすじ


四人の女子生徒が自殺した。
死因は、学園の屋上からの飛び降り。
学園の生徒たちが語る噂によると、彼女たちは《旧校舎の幽霊》に呪い殺された……らしい。
とある下駄箱。殺したい相手の名前を書いてそこに入れておくと《旧校舎の幽霊》が呪い殺してくれる──。
そんな、ありきたりな噂だ。

そして同時期、夜な夜な奇妙な夢を見るようになった主人公は、とある出来事から「自分が《旧校舎の幽霊》に呪われている」ということを知る……。


このゲーム『あけいろ怪奇譚』の導入部を大雑把に紹介すると以上のような感じだ。端的には「悪霊に呪われてしまった主人公たちが、学園に巣食う悪霊や七不思議の謎を解明してゆく」というストーリーである。

最初にも書いたように、このゲームは〈学校の怪談〉系のテイストを含んでいる。普段あまりノベルゲームをプレイしない人でも〈学校の怪談〉系が好きであれば無理なく楽しめるだろう。




「力を持つ大人たちが解決してくれない」という面白さ


本作の主人公は『佐伯 社(さえき やしろ)』という青年だ。
彼はごく普通の学生であるが、どういう理由か《旧校舎の幽霊》と噂される悪霊によって呪われてしまった。
しかも《旧校舎の幽霊》は学園に巣食っているため、社と一緒に過ごすことの多かった友人たち──中島 修司(なかじま しゅうじ)と 雛森 佳奈(ひなもり かな)も呪いに巻き込まれてしまう。

当然、悪霊に呪われて健康な生活が送れるわけもない。《旧校舎の幽霊》に呪われた者はいずれ学校の屋上から投身自殺させられてしまう。すでに犠牲者は出ている。
自分たちに残された時間が僅かであると察した社たち三人は、学園側から依頼を受けて調査に来た霊能探偵事務所に所属する銀髪少女『ベルベット』と出会い、彼女と協力して《旧校舎の幽霊》の謎を解き明かしてゆく。

以上のように、このゲーム『あけいろ怪奇譚』に出てくる主要な登場人物は概ね〈普通の学生たち〉である。

○ 作中で「社はお社」と言われるほど幽霊を引き寄せやすい体質ではあるが自覚はなく、呪いの影響で幽霊が見えるようになっただけの社。
○ ノリはいい性格だが幽霊とかそういう怖いものがとても苦手で、しかも霊感ゼロなので直接襲われなければ幽霊を見ることすらできない修司。
○ 前作に登場した加賀見家の遠縁の親戚であり、現在は加賀見家に居候させてもらっているが、幽霊を見たり話すことができるだけで、霊と戦えるような力は持っていない佳奈。
○ 霊能探偵事務所に所属し、霊と戦える力は持っているが、社たちを守りきれるほどではないベルベット。

悪霊どころの存在ではない〈鬼〉を複数使役し、座敷わらしにも守られていた前作の主人公とは異なり、本作の主人公たちは悪霊に襲われても抵抗できるような力など持っていない。例外としてベルベットは戦えるが、社たちを守りながら、攻撃的な霊を相手にして戦えるような力はない。

そのため社たち四人は、幽霊があまり活動的ではない昼間の学園で学生生活を送りながら(例えば学食でカレーやうどんを食べながら)情報交換や相談をし、放課後の図書室などに集まって調査を始める。無論、幽霊が活発になる時間帯までには調査を終えるし、ヤバい霊に遭遇したらすぐに逃げる。

このゲームを始めて私がまず魅力として感じたのは、こうした「普通の学生たちが自力で問題解決にあたる青春映画っぽさ」だ。
端的に言えば、このゲームは〈ジュブナイル系〉なのである。

ジュブナイル系物語の進行は、あくまで子供たちが中心となる。
たまに大人も混ざるが、それは決して子供たちから主役の座を奪い取ったり、積極的に先導して即座に問題を解決してしまう性質のものではない。

この『あけいろ怪奇譚』でもそれは同じだ。
社たちの周囲には〈悪霊騒ぎを独力で解決できるような力を持つ者〉が複数いる。佳奈が居候している加賀見家もそうであるし、ベルベットが所属する霊能探偵事務所の所長も悪霊くらいは簡単に消し飛ばせる。

だが一部のルートを除いて、彼らはあまり社たちの手助けをしてくれない。
力をもつ大人たちが主導権を奪うのは、社たちの力が及ばず「主人公たちが悪霊騒ぎを解決する」という結末そのものが無くなるときだけである。




死者や妖怪を通して〈成長〉を考える


社たちは〈子供〉とも〈大人〉とも言えない立場で物語に投入される。
そして《旧校舎の幽霊》の謎を追う中で、自分が特別な存在になったような陶酔感を味わったり、自分が振るった力の強大さに恐怖したり、さらなる力を持つ存在に手も足も出ないという事実に打ちのめされたり、力を持つ誰かを安易に頼ろうとして諌められたりしながら、多くのことを学んで成長してゆく。まさに〈ジュブナイル系〉と言っていいだろう。

だが、本作はあくまで〈学校の怪談〉系ミステリー。
社たちの成長を示すのは、彼ら自身の過去や周囲の人間との対比ではない。
死者、あるいは妖怪だ。

死んだときの感情や人間関係に囚われた霊たちに〈成長〉はない。
怪異や妖怪たちは〈人間的な意味での成長〉こそしないが〈人間とは異なる視点での成長〉をすることもあるし、あるいは〈人間との関係性〉を変化させたりもする。

生者と死者。人間と妖怪。
それらの〈違い〉を痛烈に意識させられるような出来事が繰り返される物語のなかで、これからの人生を生きるために奔走する社たちの成長はかえって明瞭となる。

幽霊や妖怪という存在を考えることで、人間として生きる姿を捉える──。
そうした、昔話や怪談話などにおいて大切に語られてきた部分を真正面から踏襲している点も、個人的には高く評価したいポイントだ。



トイレの花子さんズ


本作には『トイレの花子さんズ』という怪異が登場する。
文字通り「トイレの花子さん」の複数形だ。
複数形と言っても二人や三人ではない。数十人規模である
素直に笑った。

一見するとネタ要素でしかない花子さんズであるが、ルートによっては重要な存在となる。詳しくはネタバレになるので伏せるが、この花子さんに惚れる人は多いはずだ。




不満点


物語に対する不満ではないが、シナリオの途中でムービー的に挟まれる演出が長く、しかもクリックで飛ばすことができないというのは小さなイライラ要素になってしまった。

アニメや映画のエンドロールのように〈飛ばさないだけの理由〉があるならば楽しめるが、ただ幽霊が数十秒ほど唸ってるだけの声すら飛ばすことができず、何度も聞かされる理由は何だったのだろうか。

他にも細かく気になる部分はあったが、これが最も大きな不満点だ。






とまあ、ネタバレなしの紹介と感想はこのくらいとして。
以下、ネタバレ注意で、もうちょっとだけ思ったことを。






トゥルーエンドで示される『なないろリンカネーション』の本領


トゥルーエンドでは、朱子や原田 望についての過去が掘り下げられた。
人を呪い殺していた悪霊にも過去の悲しみや怒り、未練がある。それをただ祓い飛ばすのではなく、できる限り悔いのないようにして、旅立ちまで手助けする。
それは前作『なないろリンカネーション』において徹頭徹尾に掲げられていた《お役目》の考え方である。幽霊が自分から相談にすら来ていた前作とは毛色の異なる本作であるが、このルートをプレイしたことで「なるほど。これは『なないろリンカネーション』の続編だ」と自然に理解することができた。

そして、このルートをプレイするまでは「決して台詞の多いわけではない朱子役にメインヒロイン級の声優さんを使ってるのすごいな……」と思っていたが、トゥルーエンドではその理由も必要性もよく分かった。

朱子はメインヒロインだった。←

朱子の「あなたは私の……恩人です」はズルすぎる。
前作をプレイしている方なら、このセリフは突き刺さることだろう。




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