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#97 賢治へ影響を与えた様々な思想【宮沢賢治とエミリィ・ディキンスン その35】

(続き)

○ 賢治へ影響を与えた様々な思想

宮沢賢治の作品には、エマーソンや法華経以外にも、宮沢家が信仰していた浄土真宗や、キリスト教が影響を与えているとの指摘もあります。他にも、当時の世界の先端の思想の数々が作品に影響を及ぼしているとも言われ、作品中に名前が登場する思想家なども多くいます。

トルストイやウィリアム・モリスからの影響はよく指摘されているとことですが、他にも、「ペンネンネンネンネン・ネネム」に「ニイチャ」として登場するドイツの哲学者・ニーチェは、エマーソンの思想から影響を受けた人物と言われています。

また、エマーソンの名前が登場する「農民芸術の興隆」の中だけでも、「ダニエル・デフォー」(ロビンソン・クルーソーの作者)、「オスカー・ワイルド」(アイルランド出身の詩人)、「ウィリアム・モリス」(「モダンデザインの父」と言われるイギリス人)、「トルストイ」(ロシアの作家)、「シュペングラー」(ドイツの哲学者)、「ワーグナー」(ドイツの作曲家)、「モネ」「セザンヌ」(フランスの画家)、「ロマン・ロラン」(フランスの小説家)などが登場します。詩人から音楽家・画家、そしてアメリカからヨーロッパまで、賢治が様々なジャンルを網羅し理解していたことが推察されます。

賢治の「心象スケッチ」という作品のスタイルは、ドイツ自然主義のホルツからの影響であるという指摘もあり、現代日本では無名のホルツが書いたドイツ語の原書を、賢治が持っていたという記録も残っています。

このように、世界中の様々なジャンルにアンテナを張っていた賢治の思想は、哲学、文学、音楽など、ジャンルの細分化が進んだ現代では、1つのジャンルから捉えようとした場合、その全体を捉えることが困難と思われます。また、それぞれの思想に対する賢治の理解度が一定水準を超え、思想としての整合性が保たれていることが、賢治作品を様々な角度から解釈することを可能にし、時に解釈をめぐる論争が巻き起こるのではないかと思われます。しかし、様々な思想が、賢治の中で消化されて一体化していたとすれば、それらの解釈は、どれも正しいとも言えるのではないでしょうか。

(続く)

2023(令和5)年11月7日(火)

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