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#10 因果論を棄てよ

このマガジンでは、哲学者のヴィトゲンシュタインの言葉をお題にして、思いつくままに文章を書いて気づきを得るということをしています。

今回は「因果論をすてよ」という言葉をお題にして、思いつくままに文章を書いていきます。



ヴィトゲンシュタインは、なぜ「因果論を棄てよ」というのでしょうか。

因果論とは「原因」から「結果」を導くというものです。つまり、「ある原因があるから、今の結果に繋がっている」という考え方です。

ヴィトゲンシュタインは、この「ある原因があるから、今の結果に繋がっている」という考えを棄てなさいといっているといいでしょう。

では、この「因果論」とは異なる考え方があるのでしょうか。

心理学者のアドラーは、「目的論」というものを唱えています。

目的論とは「ある現象が、その原因によって生じたのではなく、その結果のために生じたとする推論方式」であります。

つまり、この目的論とは、因果論を裏返し理論となります。

たとえば、因果論で物事を考えるならば、「体調不良の原因は働きすぎ」と捉えます。

しかし、目的論によると「体調不良が起こった原因は身体を休ませるために起こった」ということになります。

この二つの理論を比べると、因果論は演繹的思考であり左脳的といえ、目的論は右脳的な帰納的ということがいえます。

では、どちらの考え方のほうが生きるうえで有効かというと、目的論だといえるでしょう。

なぜなら、目的論の方が自分を責めなくてすむからです。

因果論だと、「あの時、無理をしなければよかった」と自分を責めたりしますが、目的論だと、「身体が疲れているので、仕方がない休もう」と思えるようになります。

つまり、因果論より目的論で生きていたほうが「開き直り」ができるようになるため、結果を前向きにとらえられるようになります。

しかし、因果論だと「どうしてあの時、あの選択をしてしまったのか」という後悔の念が生まれてしまうために、意識が後ろ向きになってしまいます。

とはいえ、目的論もその思考方法は、原因と結果いう関係性の中にあるため、ある意味では因果論ということにもなります。

では、原因と結果を超えた論があるのでしょうか。

そこで、考えられるのが「論そのものを棄てよ」ということになるります。

つまり、「考えるな、感じろ」ということです。

この「考えるな、感じろ」は、ブルースリー的思想であり、東洋思想の極意ということがいえます。

そして、この「考えるな感じろ」の源流は、中国でいうなら老荘思想であり、日本でいうなら「随神(かんながら)」の古神道の思想に繋がるといっていいでしょう。

では老荘思想では、考えるをやめてどのように感じることを導き出したかというと「自然を観察する」ということでした。

老子は、自然を観察することで、この自然の理に気づいてその理を自身の生き方に当てはめています。

自然の理に自分をあてはめるという行為は、感覚的にならないと出来ないことであるため、思考でしようとすると無理が生まれてきます。

たとえば、自然は常に「あるがままな」ので、思考で「あるがまま」を実践しようとすると無理が生じてしまいます。

日本の神道的思想も、この「あるがまま」の自然の理に従うことで生まれた思想です。

随神の意味は「神のめしますまま」でという意味であり、古神道は自然を神と見立てるアニミズムの姿勢をとっていたため、「神」、つまり「自然にお任せします」というのが随神の思想となります。

これは、あくまでも私の推測ですが、ヴィトゲンシュタインは、おそらく「論を棄てて、自然の導きで生きよ」といいたかったのだと思います。

思考的生き方は、考えを二分する生き方であるため、「喜び」もあれば「苦しみ」も生まれてしまいます。

しかし、自然の理に従って生きていれば、どんな結果であったとしても、それはすべて「あるがまま」の出来事でしかないため、「原因」と「結果」という二元的思考が消えていくのです。

また、自然に従って生きていると、大概のことが心地よかったりします。しかし、思考的な生き方は自我的な生き方であるため、そこに自然の要素が含排除されていて、自然そのものが持っている心地よさが取り除かれていたりします。

こういったことから、論を棄てるということは、「自然に従って生きる」ということであり、自然に従って生きるということは、「心地よく生きる」ということになります。

「自然」は常に「心地よさ」の中にあります。

そして、「自然」とはネイチャーという意味ではなく、「生まれ持った素材をフルに使って生きる」ということです。

おそらく、哲学者でありながら庭師として働いたことのあるヴィトゲンシュタインは、その思考の源流にはこういった「自然的価値観」が含まれていたのではないかと推測するのです。


*お題として参考にさせてもらうのは、ディスカヴァー・トゥエンティワンさんの「ヴィトゲンシュタイン 世界が変わる言葉」という本の中で紹介されているものです。


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