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バトル百合小説アンソロジー『一蓮托生』の感想を語る会

 六名の"強い"作家さま方のお力により、"闘う女性の百合小説"をテーマとして誕生した、バトル百合小説アンソロジー『一蓮托生』
 普段は2人組で百合漫画や小説を発表しているsizukuokaだが、さゆとは主催兼執筆者として、ぽいぽいは表紙イラスト・カバーデザイン担当としてアンソロジーに参加した。
 この記事では、座談会形式で掲載作品の感想を語る。

※以降ネタバレがありますので、未読の方は本編を先に読まれることをおすすめします。

各掲載作品のあらすじはこちら↓

バトル百合とは?

ぽいぽい(以下 ぽ):バトル百合の定義て難しいね。

さゆと(以下 さ):恋愛もので好きな人を取り合うことを「バトル」と表現する人もいるしね。そもそも「百合」が個々人によって違う。スポーツものの勝ち負けをバトルと呼ぶ人もいるし。
 それで、『バトル百合小説アンソロジー 一蓮托生』ではバトル百合を定義したんだよね。

【バトル百合とは】
 バトルシーンが作中で一番の見どころになっている百合作品。
 ただし、ここでのバトルとは、敵の身体を傷つける、もしくは殺すという意思を持って武力を行使することや自分の血が流れることを厭わない戦闘行為などを差します。
 スポーツでのバトルは種目によって違いがあり、バトル百合の定義が難しくなるので今回は含まないものとします。

ぽ:上は『一蓮托生』での定義です。スポーツは含まないってあるけどさゆと氏はどう考えてる?

さ:やっぱりバトル百合ではないって感じる。(※超個人的かつ主観的な意見です)
 バトル百合と思って読んじゃったから物足りなかった作品もあった…最初からスポーツものと思っていればもっと楽しめたと思う。

ぽ:格闘技スポーツ漫画もあるけど、そういったものは作品はバトルとは言えない?

さ:バトルとはちょっと違うんじゃないかなぁ。でも何かを懸けて戦うような緊迫感のあるものはバトルだと感じることもある。
 一般的な競技としてのスポーツに限っていうと、怪我したり命を失うものもあるかもしれないけど、ルールがあって、ルールで守られているでしょ。例えば二人が戦っていて、スポーツだと審判が間に入ったら闘いを止める。けどバトルだったら関係ないじゃん。誰かが割って入っても闘い続けていいし、闘う限りは命の保証もない。負けたら終わり。

ぽ:(と、さゆと氏は言っているけれど、自分としてはスポーツもバトルと言ってよい、少なくとも共通項はあると言ってよいと思うのよね。まあつまるところ、あなたの心の中のバトル百合を信じろ)​

『あけないよるへとつづくみち』橘こっとんさん

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ぽ:最後の作品から語ろう。

さ:オッケー。『あけよる』はもうほんとに面白い。強すぎる。

ぽ:もはや語るは及ばずという感。それぐらい面白いよね。

さ:個人的に思うのは、ヒルダさんとカサンドラちゃんの関係性はハッピーエンドだよね、ということ。作品の順番を決めるときにきなこさんが「読後感がよかった」と仰っていたんだけど、すごく爽やか
 『凍てつく焔の花園にて』も爽やかだった。すごく好きな作品なので読んで欲しい。というか、この記事見てる人で読んでない人のほうが珍しいと思う。

ぽ:(深く頷く)

さ:客観的に見るとバッドエンドかも知れないけれど、ヒルダさんがカサンドラちゃんを裏切ることはなさそう。二人にしてみればハッピーエンドだと思う。

ぽ:うんうん。でもこっとんさんとしてはヒルダさんはえげつない最悪女だとお話していたようだった。
 自分たちの創作キャラへの見方が"陽のフィルタ"よりなのかも。様々な描写から明るさ・希望と言った文脈を読み取りやすいというか。

さ:それはあるかもしれない。「登場人物が幸せそうならオッケー☆」みたいなところはある。

ぽ:あと、東ドイツにちょっと詳しくなった気になれるのが好き。例えば東ドイツでは配給が行列になりやすい、みたいな描写を、なんでもない風に差し込めるのが強いし、そういう描写で自分はより引き込まれた気がする。

さ:すごく入念に下調べされてるんだなっていうのが伝わってくるね。
 こっとんさんの歴史ものは、舞台設定と百合感情の結びつきがすごく強い。「この国・この時代だからこその百合」を描かれている。大好きな部分だし、一番の見どころだと思う。

ぽ:バトル百合としても面白い。これはバトル漫画で得た知識なので確実に真理なんですが、"戦いは始まる前に終わっている"んですよね。つまり戦闘の勝敗を分けるのはそれまでの積み重ね。
 描写の積み重ねで得られた緊迫感を、ラストで一気に引き絞る『あけないよるへとつづくみち』は、バトルの真理だなと。

さ:うんうん、確かに。
 ヒルダさんが「なんかめっちゃ強い女の人」っていう設定も好きだった。理屈じゃなく「東独の強い女」という存在、バトル百合のために生まれてきてくれたんだと思った。好きになっちゃうしかない。

『インタヴューウィズウィッチガール』ピクルズジンジャーさん

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さ:設定もキャラも描写もレベルが高いよね。

ぽ:語り口でも魅せるお方だなと。『邪魔をしないで、わたし達これからいい所』でもそう感じたよ。

さ:語り口といえば、長めの1文もすっと理解できてしまうのが凄まじいよね…。
 それにバトルシーンも良い! 喧嘩も派手だし、魔法少女斗劇(ウィッチガールバトルショー)も遠慮ないのがいい。ジョージナちゃんには申し訳ないけど、推しが血に濡れてる姿は最高。

ぽ:(流石血を見るのが大好きなさゆと氏、興奮した様子だ)

さ:全ての描写に意味があるのがすごい。
 この前Twitterで「プロットは頭の中で作る」と仰っていたのが信じられない。どの描写も絶対必要な部分だもん。展開もきれいで無駄がない。冒頭の引力も強くて、のっけから物語に没入しちゃう。

ぽ:そういえば文字数がオーバーしてしまったということで文字数減のため下読みさせて頂いた時も「完成度が高すぎてどこを削ればいいのか全然わからんッ!」と話し合っていたっけ。

さ:今となっては懐かしいね。
 キャラクターでは主人公のかれんちゃんが大好き。他の方もおっしゃってたけど、負けて地面を這いつくばっても、女王としての意地を通しきるところがとてもカッコいい。魔法少女への執着がぶっ飛んでいるところも魅力的。
 かれんちゃんが現実にいたら絶対近づきたくないけど、フィクションだからこそ現実にいるはずないキャラクターが超絶面白い。ピクルズさんはそのぶっ飛び具合が上手い!

ぽ:作者のピクルズさんは「どうしようもないほど堕ちた魔法少女が描きたい」とおっしゃっていたよね。個人的には当時のかれんちゃん自身を"どうしようもない"と評価できるところに、救いを感じるなと。これも陽のフィルタで通して見た考えかも知れないけれど。

さ:本作は『マリア・ガーネットとマルガリタ・アメジスト、天国を奪い取る。』のスピンオフなんだけど、本編もめっちゃ面白かった~。『一蓮托生』を読んだ人はぜひこちらも読んで欲しい。
 マリア・ガーネットちゃん=ジョージナちゃんなの。だから、ジョージナちゃんがウィッチガールバトルショーの女王様になった後の物語が読めちゃうんだよ! しかも30万字超えの大ボリュームで!

ぽ:自分もいつか読みたい。絶対に面白い作品だよね。

『花の徴』杜岳望淵さん

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さ:世界の描き方が特徴的で素敵。『一蓮托生』掲載作はファンタジーと一口でいっても、その傾向は作品ごとに本当に様々で面白いよね。

ぽ:分かる。全然ジャンルが違う。

さ:書き方がそう感じさせるのかな。バトル描写もめちゃくちゃかっこよかった。個人的には時代劇の殺陣を見ているようなイメージだったよ。どうやったらそんなかっこいい言い回しができるようになるのか知りたい。
 しかも、主人公視点では軽く明るく、世界を描くときは美しく幻想的な言い回しになる。場面ごとに印象が全然違うのにうまくマッチしている。何重にも楽しめるよね。

ぽ:この作品で前半・後半の空気が変わった感があるよね。描写されていない部分がより深みを与えている印象がある。

さ:わかる、色々考察しちゃう。
 作中では深く言及されてないけど、"悪魔"というからには(悪魔本人の意思とは関係なく)願いを叶える代わりに契約者に魂以上のとんでもない代償を払わせるのだろうなとか。シアンちゃんリノちゃんの立ち位置は二人の魔女と重ね合わせになっているかなとか。

ぽ:なるほど確かに! そういえばリノちゃんが色んな武器を使ってる理由について、こっとんさんの感想(※)では"これまでに吸収した他の奏者の魔装"なんじゃないかと推察されていたけれど。自分は全然そこまで読み込めていなかった……深い……。

さ:どうなのか気になるよね。

ぽ:願いの両立が本当に不可能なのかについても、まだ語られてない部分がありそう。ぱっと見だと願いの両立はできそうだけれど作者の杜岳さんによると「両立はできない」と。きっと何か縛りがあるのかなとか。

さ:いくらでも考えられちゃう。
 杜岳さん、「第一稿は文字数がもっと多かったので、思い切ってばっさり削った」とも仰っていたから、描かれている以上のことを練られていたんだろうなぁ。もっと知りたい。その辺りがどうなっていくのかは――

ぽ:続編、楽しみだね~~~。

さ&ぽ:(揃って悪い笑みを浮かべる)

『50回目のムラサキ』あべかわきなこさん

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ぽ:テンションの乱高下がめちゃくちゃ楽しい! コメディ百合の希望だね。明るくて楽しい百合だと感じた。
 けれど作者のきなこさん的には割とシリアスなお話として書いていた、というように見えたのが印象的。

さ:そう? きなこさんも基本的には楽しいお話を書かれたと自認していると思うけれど。なんにせよ、すごく面白い作品だよね。バトル百合小説アンソロジーの中堅。

ぽ:うん、それは間違いない。あとチラリズムは哲学。

さ:きなこさんのチラリズムとおっぱいネタには並々ならぬ愛を感じる。

ぽ:『女領主とその女中』にもその愛はたっぷり詰まっていた。

さ:そういえばラスト、星ちゃんが未来に生まれる子だと判明するけれど、あれって結構重いよね。

ぽ:というと?

さ:9月の関西コミティアのときにきなこさんとも語り合ったのだけれど。
 星ちゃんが前世の記憶を持って未来の世界に生まれた時点では、50回目の紫ちゃんは既に死んでいる。にも関わらず15年か16年もの間、星ちゃんはバクを倒すために鍛錬を続けた点が"エモエモのエモ"だなと。

ぽ:な、なるほど……?(分かってない) あれ、さゆと氏いったい何をしているの?

さ:どうも伝わっていないようだから、ちょっと作るわ。パワポで。

ぽ:パワポ。

さ:できたわ。時系列がややこしいからね、これを見ればわかるはず。

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ぽ:(すごい……恐ろしく速い資料作成…)あ、すごく分かりやすい! 

さ:まず第1のポイントは、「星ちゃんが生まれたときにはムラサキお姉様はすでに死んでいる(バクに食われている)こと」。本編では星ちゃんとムラサキお姉様が出会ってから日をあけずに星ちゃんが生まれているから、前世の記憶を持っている星ちゃんは「もう少し早く生まれていれば、ムラサキお姉様を助けることができたのに」と思うはず。
 さらに第2のポイントで、「お姉様が既に死んでいることを知りながら、過去に戻って戦える年齢になるまで鍛錬を続ける」ことをやってのける。想い人はもう死んでるのに15年も努力続けられる? 普通無理でしょ。それをやってのけた結果、星ちゃんは過去を変えてお姉様と共に生きる未来を手に入れた。

ぽ:なるほどなるほど……確かに"エモエモのエモ"だね!

さ:でしょう? 星ちゃんはすごいんだよ!(推しを語るときのオタクの顔) そんな話を、きなこさんと語ってたの。

ぽ:羨ましい!

ぽ:(きなこさん、『女領主とその女中』の頃からさらに文章力が上がってらっしゃる……"強い"ですわね……)

『血潮に弾痕』新芽夏夜さん

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ぽ:できらぁ! えっ3万字で群像劇を!?

さ:これをよく3万字に収められた。

ぽ:とてつもない意欲作だなと感じました、好き。そしてこっとんさんの感想でも述べられていて確かにと思ったのは、制圧戦闘のえげつなさ。敵一人に対して、複数人で一方的に狙い撃ちしてた。

さ:相手を倒すための行動は徹底的にやるほうが好きだから、すごく納得できた。
 よくある展開として、主人公を崖から突き落とした悪役が、主人公が死んでいるか確認せず立ち去っていくようなテンプレートシチュエーションがあるでしょ。あれには不満を呈さざるを得ない。その後、実は生きてた主人公が悪役を倒す展開になるじゃん。なんできちんとトドメを刺しておかなかったの? って思う。呼吸が止まっていることを確認するまでが殺し合いだから。

ぽ:こだわりやねぇ。それでいうと『血潮に弾痕』は徹底的に殺す気だったのが良い、ということだよね。

さ:(大きく頷く)。それから澄ちゃんもよかった。
 一方ではアカネちゃんに優しく勉強を教え、一方では銃を手にクールに戦うというギャップがいい。

ぽ:ポニテ is justis.

さ:ぽいぽいさんのポニテ好きはブレないね(笑)

ぽ:さりげない動作も良かった。澄ちゃんが引き金を引き切らずに安全装置を掛けたのは、ダブルアクション式の拳銃ならではの使い方。これもなかなか難しいらしいから、澄ちゃんは拳銃を使い慣れているんだなあと思ったよ。

さ:透明感のある描写にバトルの重厚さが加わって、新鮮だったしすごくクセになる。美味しかったです。

ぽ:それが言いたかった。ガラス細工みたいな描き方、すごく好き。そこにバトルのダイナミズムが加わって、なんというか、幅の広がりを感じる。

さ:分かりみが深い。本作はスピンオフなんだけど、元の作品はバトルまったく関係なかったもんね。

ぽ:個人的に血涙だったのは、5万字ver.(第一稿)では存在した"澄ちゃんと道行さんのちょっと百合めいた会話シーン"が尺の都合で(恐らく泣く泣く)カットされていた点。

さ:確かに、5万字ver.から加筆して本1冊分になっちゃったバージョンも読みたかった。その辺りは続編とかね。
 せっかく公式サイトあるんだし、作品掲載もアリだと思うんよね私は。参加者さんにはログイン情報お伝えしてるし、小説やあとがきの掲載もウェルカム!

ぽ:バトル百合でもっと色々新芽さんの作品を読みたい!

『神籬の兎』さゆと

さ:もう神籬についてはだいぶ語り尽くしたと思う。

ぽ:確かに。
(とか言いつつ思いのほか話に花が咲いてしまったのでよもやま話として別記事に)

ぽ:(さゆと氏、これからも応援していますよ……!)

最後に

さ:この感想を終える前に伝えたいことが1つある。

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さ:皆様、お気づきになられましたか?

注釈

※ 執筆者の橘こっとんさんが書いてくださった『一蓮托生』の感想。すばらしい熱意と解像度なのでぜひご覧ください。


バトル百合小説アンソロジー 一蓮托生 公式サイト

今後の頒布スケジュール、作品・作者紹介、その他アンソロジーの情報を掲載しています。

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