SaaS会社はどことアライアンスを組むべきか

この投稿に非常に多くの反響を頂きとても驚いた。

多くのフォロワーを持つSaaS業界の方々に(非常にありがたいことに)スキやフォローして頂いたことが大きかったとは思うが、キーエンスやリクルート的な法人営業のテクニックやマインドセットの解説本やブログは多数あれどもいずれもダイレクトセールスが前提であること、業界の事情・特性に根差した情報は業界内の暗黙知となっており、形式知化されていることがほとんどないという点は大きいのではないかと思う。
今回もSaaS企業視点でアライアンスを解説してみたい。

※これはあくまでプロダクト(クラウドサービス含む)の流通を前提としたものであり、所謂受託請負のIT土方とはまた別の話題であるということを事前にご認識頂けると幸いである。

前提知識

改めて、基本的なことからおさらいさせてほしい。基本的なことなのでそんなん知ってるわという方はスキップしてもらうほうがいいだろう。

一次店

その名の通り、メーカーからプロダクトを仕入れてそれを二次店もしくはエンドユーザー企業に販売する会社のことである。

日系ではなく外資系SaaSが一次店を持つ場合、下記が一次店の重要なファンクションになる。
・海外からUSDで買って、日本円で国内販売する
・海外メーカー(大体アメリカ企業)と英語で販売代理店契約を結ぶ
・海外メーカーの購買窓口で英語で受発注や納期管理などを行う

これらに対応できる事務部門を持っていないもしくはリソースが限られるSIerは意外と多い。ダイレクトセールス前提ならば一次店から買う二次店という位置づけでいいじゃん、という発想になる。

ただ国内IT製品、ましてやSaaSであれば一次店が直接販売するのがメーカーの期待ではある。前述の海外メーカーならではの問題は国内取引においては起こりえないので一次・二次流通システムの意味合いが弱まるし、間に入る会社が増えると利益を分け合わないといけない。何より関わる人間が増えると調整コストが高くなりビジネスのスピードが落ちる。

二次店

一次店からプロダクトを仕入れてエンドユーザーに販売する企業のことを指す。
SaaS企業にとっては出来れば使いたくないパートナーだ。前述の記事に記載した通りSaaSはアプライアンスと比べて利益率が低いので、チャネルが多層化する二次店システムと相性が良くない。
ただ、そもそも単体製品再販で利益を出そうとしていないケースもあるので、スポット再販するならいちいち代理店契約しないで済む二次店でいいよ、もし今後もたくさん案件出てくるなら一次店契約検討しますという流れは自然ではある。なので、二次店から始まりいずれは一次店に、という時系列まで視野に入れておけばそうネガティブに捉える必要はない。大きなパートナーほど一次店契約のハードルは上がる。

メーカー

そのプロダクト開発元のことである。SaaSはただ作るだけでなくサービス運営をするのでメーカーと呼ばれると少し違和感があるが、SIerにとっては製品を作っているかそうでないかが重要なので昔ながらにメーカーと呼ばれても気にしないでほしい。IT業界では、自前で製品を作っていたらだいたいメーカーなのである。

エンドユーザー

英語の言葉の意味からすると利用者を指すのだが、SIerの商習慣的にはプロダクトを購入して使用する企業のことを指す。ちゃんと言い分けるには「エンドユーザー企業」「利用者」などと言えば分かりやすい。

大企業だと情報システム部があり、中小企業だと総務部や経理部がITを兼ねている、もしくは管理部なる部署にIT「担当」がいる場合がある。
後者は一人情シスなどと呼ばれ、ITを全然知らない経営者や上司同僚との仕事を課せられなかなか大変そうである。
後述するが、大企業の場合はIT子会社として別法人化されている場合があり、そのあたりの組織構造や役割分担を把握するのはIT営業の超基本である。

プロダクトセールスとソリューションセールス

何をもってソリューションと呼ぶかはいろいろ意見の分かれるところであるが、IT業界においては下記理解でOKだ。特にどっちが偉いということはないが、目的とマインドセットが違う。

・そのプロダクトを売ることを目的としているとプロダクトセールス
・何でもいいから顧客の要件に合うものを売るのがソリューションセールス

基本的にはSaaS提供会社はプロダクトセールス、代理店は一次・二次関わらずソリューションセールスである。
SaaS会社の営業はそのプロダクトを売る責務を背負っているし、プロダクトを売ることで利益を得るわけだから自然とプロダクトセールスをすることになる。
ただ、パートナーの中には取り扱いラインナップのうち特定のプロダクトを売ることを課せられた人たちがおり、その人たちのマインドセットはプロダクトセールスである。

文字通りに顧客やパートナーに製品紹介していくだけならばフィールドセールスなど不要でWebサイトやパワポ資料を見てもらえばいい。プロダクトセールスであろうともちゃんと顧客が「刺さる」課題を持っているかどうかをヒアリングして課題解決を訴求するスキルは必須ではあるので、モノ売り営業スタイルではなかなか売れないのだけど。

代理店は、基本的に「案件ベース」と呼ばれる製品取り扱いであり、そのサービスを売る責任はない。そのため、顧客からそれっぽい要件が出てきたらメーカーや一次店に相談してその製品を提案するか決める、というライトなスタンスである。
大手のSIerになってくると取り扱い製品の数が莫大なので、紹介された製品全部覚えて能動的に提案していくなどということは不可能なのである。実際多くのSIer は特定の製品を売るという発想は非常に薄く、顧客がこういう製品欲しいと言ってきたときに初めて動き出す。
これはメーカーの担当者としては頭の痛い問題でありつつ、アライアンス担当者の行動力・営業力が問われるものである。

代理店内の販促企画と営業

大手のSIerだとプロダクト販促担当部署と、アカウント担当営業部署に分かれている。ある意味では一次店の中に、一次店機能と二次店機能の両方が存在している形になる。
実際に顧客を持っているのはアカウント営業なので、そのアカウント営業を動かすためのコミュニケーションが必要だ。

販促や企画部門はメーカーとの仕入業務や契約など割と事務的な仕事に終始してしまいがちであるが、「この製品をこうやってどんな顧客に持っていけ」と営業たちにある程度働きかけできる力がある人たちもいる。

後者はメーカーの世界観だといい意味で「ガバナンスが効いている」と言われたりする。そういう代理店ならば販促企画に営業かければある程度案件創出に繋がる場合が多い。
ガバナンスが効いてない(もしくは販促企画担当者に全然社内影響力がない)と、いくら販促企画と話をしてもちっとも案件が出てこない。これは代理店営業になりたての人がよく陥る失敗だが、経験者にとっては当たり前のことである。
代理店を動かす鉄則は多面作戦なので、販促企画と話をしつつ、現場にもアプローチする必要はある。人間誰しも人づてで聞く話よりも、直接自分の耳で聞く一次情報の方が刺さりやすいものである。

基本的に代理店内で売れていない製品の扱いは悪い。販促企画の人たちは基本的に紳士的な人たちが多く、あまり態度に出さないのでわかりにくいのだけど、全然売れてない製品のメーカーがやたらと会いに来ても「ああ、またこの製品の販促施策を考えなきゃいけないのか。面倒だな。」くらいにしか思われないかもしれない。一応代理店契約をした手前、メーカーを邪険にはしないという気持ちは持ってくれている。

さて、その製品が売れてきたという事実があれば人間見る目が変わってくる。意外と皆さん取り扱い製品ごとの売上やARRなんかはチェックしないので「半期の振り返りのために売上情報を整理してご説明したい」とかメールに書いておくと大体アポが取れて、「おお、こんなに売れていたのか」「こんな重要顧客に売れたのか」「見込み案件はこんなにあるのか」とかポジティブに捉えてくれたりする。
そうなるとこちらのもので「内部展示会に出せないですか」「講演とデモは当社でやるので、一緒にセミナーしましょう(もちろん集客は代理店さんの方でお願いします)」とか割と図々しく色んな提案ができるようになる。売れていないときとは雲泥の違いであるが、ビジネスだからそんなものである。

ここまでくると代理店内の営業現場と販促企画の両面作戦がどんどん回るようになり、有力なパートナーとして立ち上がっていく。逆に言うと、こういうことができていないと、そのパートナーからの売上はたいして見込めないだろう。

SaaSビジネスメソッドとの喰い合わせ

割と誤解されるが、パートナービジネスというのはモダンでソフィスティケートされたものではなく、アナログで伝統的、泥臭い営業活動の積み上げだ。全然格好良くない。むしろダイレクトセールスよりも人間関係で物事が決まったりする。
そのためSaaSの最新ビジネスメソッドとの食い合わせはイマイチである。

Product led organization

代理店を使って製品を売ろうとしている場合、それらプロダクトを開発しているメーカーは、通常Sales led organizasationの発想だ。プロダクトレッド方式と代理店ビジネスは逆方向を向いている。代理店を動かすというのは、アカウントマネージャーやSEを多数抱える代理店のリソースを分けてもらい、営業活動して受注して導入するのが基本的な構図だ。

営業リソースを使って顧客上層部にリーチせずに、オンラインサインアップしてクレジットカードで支払いして、ジワジワユーザーを増やしていくボトムアップ型とは根本的に相容れない。ほとんどのSIerにはカスタマーサスセスという概念はなく、とにかく何千万円や何億円という注文書を追いかける人たちなのだ。身も蓋もない言い方をすれば、売上予算が巨大過ぎてジワジワ利用者数が伸びていくのを待ってなどいられない。

「The Model」との喰い合わせ

「The Model」とは相性が悪いというよりも、それでは十分な売上や案件創出ができないSaaS企業が代理店ビジネスに手を出すというケースが多いのではないか。

Zoomがいい例だが、Zoomは割と大手SIerが代理店として動いている。恐らく中小企業はオンライン決済でライセンス買って、大企業は手厚いサポートとリスクヘッジを求めてNESICとか日商エレクトロニクスからZoom買うのではないだろうか。この場合ZoomにとってはPLGとSLGの二刀流となる。日本のSaaS企業も大企業を攻めるのに自前の直販営業部隊だけでは歯が立たないので代理店を立てるという発想が今後も主流になる気がする。

別業界からIT業界に来た人たちがよく言うのが「代理店なんか使わずに直販すればいい」「カード決済にすれば与信管理も要らない」だが、残念ながらSMBならともかくエンタープライズはそれだとワークしないケースが多い。
よく知らない製品をよく知らない会社から買いたがる大企業はいない。よく知らない製品でも、よく知ってるSIerが「当社がしっかりサポートします」という一言とともに提案するから関心を示すというのはよくある話だ。

アライアンス先候補となるIT業界のプレイヤーを細分化

アライアンス先候補を見る時、第一に考えるべきは下記2点だ。

・自分たち(SaaS企業)のセールスターゲット層の「直販」顧客を持っているか
・どれだけたくさん持っているか

その後は
・自社SaaS製品を取り扱うことが、代理店にとってどんなメリットになるか

である。
結局どちらも必要な観点ではあるが、根本的に客層が合わないとアライアンスのメリットはほぼゼロだ。それを棚上げたまま販社の取り扱いメリットを考えても時間の無駄なので、筆者としてはまず前者に着目することをオススメする。

とは言え、いきなり「貴社の顧客数は何社ですか?」と聞かれてもよほど親切な人でないと教えてくれないだろうが、だいたいアライアンスの商談は一時間くらいは貰えるので上手いこと聞き出して欲しい
先に対象市場や実績が多い顧客層はどんなところだとスライドに書いておくのがオススメだ。その流れで「こういうお客さんいます?」と聞けば割と自然にヒアリングできる。

そのような観点を持って、この後を読み進めて欲しい。

大手SIerグループ内のディストリビューター

NEC、富士通、日立、NTTデータ、CTC、、、といった大手SIerはいくつかの子会社を持っている。そのうちの1つないしは複数がグループ内ディストリビューターという役割を担っている。

MicrosoftとかCiscoとか、よほどメジャーな製品でなければ親玉であるグループ内親会社SIerはメーカーとの代理店契約を締結しない。
なぜかというと、彼らにとって事業に貢献できるプロダクトというのは年間10億円売れるとかそういうレベルだからだ。年間1億売れるポテンシャル歩かないか分からないような製品は子会社に任せておいて、(何度か出てきたフレーズだが)ちょうど案件があれば提案するくらいがいい塩梅なのだ。

それでも、SIerのグループ内企業が技術的責任を持ってくれる技術サポート体制があるというのは彼らにとって重要だ。
メーカー営業が親会社SIer(多くの場合は本丸である富士通やNEC本体など)に営業かける際に「貴社グループ会社の◯◯社が技術サポートできますよ」も言える。直接取引しない相手であっても営業活動の対象になる。
また、顧客との商談においてメーカーやのSEを連れていくといかにも作業はメーカーに丸投げで、中抜きしますねと顧客に宣言しているようなものだ。同じ冠を持った子会社がちゃんとやりますという姿勢を見せる方がエンドユーザーの信頼を得やすい。

連結会計対象だとグループ内売上にはなるので経営的にはありがたいし、大した縁もゆかりもない外注先にお金が流れるよりはずっといい。

直接販売しない一次店は望ましくないと書いたが、このケースは別枠だ。よほど強力な製品を持っているのでなければ、大手SIerと組むには、そのための手段としてグループ内ディストリビューターと組むのはお勧めだ。

流通系

直接販売をしない、IT製品の卸売りに徹する企業のことだ。ダイワボウ情報システム、SB&CS(以前はソフトバンクBBと呼ばれていた)、ネットワールド(大塚商会子会社)、シネックスインフォテックの4社がメジャーどころだ。

これら企業の強みは、非常に多くのIT企業との取引口座があることである。

外資・日系問わず多くのメーカーが上記のうち最低1社とは一次店契約をすることが多い。案件ベースで売ってくれるSIerといちいち代理店契約を結ぶのはお互い工数が大きすぎるので、「ここから買えますよ」という選択肢を示せるとお互い楽だ。

ただし流通系はSIerではないので、テクニカルサポート要員が少ないという弱みがある。顧客サポートは流通系とエンドユーザーの間にいる二次店SIerにやってもらうという前提はあれども、SIerだって今後売れるかどうかわからないプロダクトに技術者をすぐ付けられるわけではない。

となると、回り廻ってメーカーがエンドユーザーをサポートするということになる。日本メーカーの場合はこのパターンがとても多い。メーカーとエンドユーザーの間に立派なIT企業が2社も入るのに、そのどちらも販売しかしないという不思議な状態になるのだが、これはよくあることだ。

それを分かった上で流通系を通すかどうかという販社戦略判断になる。

大手ユーザーグループ内IT子会社

もともとは大企業のIT部門が経営戦略の一環というか、大人の事情で分社化されて出来上がった企業だ。

会社の成り立ちからしてグループ企業のITお守りなので、外販SIerよりも更に特定の製品を担ぐという発想が希薄である。

かなりの大企業グループで、このようなIT子会社内に営業部隊がいるといわゆる販社として機能するが、それがないと親会社にいる情報企画部門みたいなところの言う通りに開発構築やユーザーサポート実務とただ請けることになる。後者の場合ははっきり言って代理店としての活動は期待できず、例によって案件が出てきたら〜のやり取りが始まるのみだ。

そのあたりは社名からだけでは判断できない。例えば伊藤忠テクノソリューションズという会社は外販比率が高くて親会社のIT部門ではなくグループ外に販売して売上を作るというトップレベルのSIerである。
また、グループ内本体(親会社)はスコープ外で、グループ会社のシステムだけ担当範囲というケースもあるので注意が必要だ。

グループ内の関係会社が合計100社いますみたいな大企業だと、アライアンス組めるメリットは非常に大きい。その場合は代理店販売というより、直接販売に近くなっていく。

運用などの現場実務に特化したIT子会社の場合は、SaaSのカスタマーサクセスマネージャーがあれこれ新しい活用提案を持っていってもやる気を出さないケースがあるのも要注意だ。
彼らは運用委託費用として固定金額を親会社などから貰っており、それがどれだけ活用されていてもいなくてもその売上金額は変わらない。活用されないシステムは運用サポート工数が低いので、導入されたSaaSが活用されずに契約だけ続くのが実は一番ありがたいというカスタマーサクセスとは真逆の実態があったりする。
もちろん、SaaSが活用されないと解約になるので結果グループ内IT子会社の委託業務の売上が減ってしまうが、それは中長期で物事わ、見るから短期で見るかの違いである。

そうなるとSaaS企業がやるべきことはこのようなIT子会社ばかりでなく本体のユーザー部門や企画部門に訪問してオンボーディングや活用促進のための商談をするなのだが、余計なことはして欲しくないと感じるIT子会社があれこれ言い訳してそれをさせてくれない場合もある。
グループ内IT会社に関わらず、その先にいるエンドユーザーやキーパーソンにリーチするには目の前の人たちのと信頼関係構築が求められるという昔ながらの営業の基礎である。

大手SIer

もう何度も名前が出てきている会社たちだ。日本で一番大きいのはNTTデータで、その次が富士通である。それに近いレベルだと日立製作所やNECといった電機メーカー系になる。
後は商社系大手のCTCは名門だし、インテック・TISといった準大手クラスを擁するITホールディングスも強力なプレイヤーである。

繰り返しになるがこの手の大手があなたたちのSaaSを率先して売ろうとするのとはほとんどない。はじめから期待しない方がいい。

彼が積極的に提案するのはCisco製品を用いたネットワークインテグレーション、VMwareの仮想PC(VDI)、Microsoft 365、SAP、スクラッチのシステム開発である。

営業担当者1人が持っている毎月の売上予算額は尋常ではなく、それはこれを読んでいるあなたの会社の年商より大きいかもしれない。月に数億円売るのは普通の人たちだ。

ここも大手ユーザーグループ内IT子会社と同じく、運用受託をする部門の人たちはあまり積極的にメーカーがエンドユーザーに新機能紹介やカスタマー作成活動をすることを好まないことが多い。余計な仕事を増やしてくれるなというのが彼らのスタンスだからだ。

ただ新機能の検証やそれを使うための構成変更なんかのイベントがあると追加作業費用を取れたりするので嬉しいと思われるときもある。とはいえそれは人件費をチャージできればというケースであって、無償で支援して顧客が成功することでLTVが増えるというSaaSの理屈とは別の価値観で動いている。何度もくどいようで恐縮だが製品再販自体から得られる利益はたかが知れているのだ。

中堅〜中小SIer

イメージとしては社員数が1000人以下、営業が30人以下のIT企業だ。この手の企業は「新規開拓が大事だ」と言っているが、ほとんどそれは上手くいかない。尖ったSaaSやパッケージ型の自社製品を持っているわけではないので、The Model型のマーケティングから始まるファネルのアレは通じないし、かと言ってひたすらコールドコールしてもただのIT受託会社のアポ取りに応じる企業は少ないだろう。

結果として彼らの多くは既存顧客をしっかり維持するための堅実かつ保守的な活動と、大手SIerの下請けとして利益率の低い仕事を受けているケースが多い。

あなたのSaaSのアライアンスとして優れているかどうかは、彼らの持つ既存顧客層もその数次第だろう。例えば、仮に文教や医療といった特殊な市場に自社製品を訴求したいならば、そこに強い中小SIerと組むメリットは十分にあるだろう。

下請として大手SIerの受託仕事だけしているSIerの場合は、私の経験上では組むメリットはない。そのような会社の営業にSaaSやパッケージ製品の特徴を掴んで営業行為をするという能力やマインドセットはないし、大手SIerは製品の提供をそういう会社に期待していない。

大手通信キャリア

NTTコミュニケーションズ、KDDI、ソフトバンクの3社を指す。少し前までドコモがいたが、今はNTTコミュニケーションズに吸収されている。少し経路が違うがNTT東西もここに含めていいだろう。申し訳ないが楽天モバイルのことは私に知見がなくよく分からない。

これら企業の最大の強みはとにかく顧客の数と営業担当者の数が多いことだ。どんな企業もインターネット回線や電話や携帯電話を使うので、少なくとも上記のどこかと何かしら取引がある。

弱みとしては、SIerではないので、システムインテグレーションをできる部署や社員の数が限られていることだ。端的に言えば電話や回線やデータセンターを売るのが彼らの仕事なので、それと親和性の低いSaaSや IT製品の再販とは相性が悪い。
あとはあまり複雑な手離れ悪いシステムも彼らの好みではない。利益率が高い本業のサービスを売りたいわけなので、そのついでとして提案するSaaSに足を引っ張られてプロジェクトが長期化して検収が出ないとかは最悪のパターンだからだ。

2010年代からはスマートフォンにアプリ入れれば使えるSaaSを担ぐことが多い。電話帳とか位置情報チェック機能付き勤怠管理とかそういうやつだ。もちろん端末管理などのセキュリティ系も含む。

キャリア本業と親和性の高いSaaSを開発しているならば、大手キャリアはかなり強力な販売チャネルになりえると言える。一部を除いてSaaSは基本的にSI力を必要としないので、SI力よりも何百人(もっと多い?)という営業担当者を日本各地に配備している方がSaaS企業にとっては魅力がある。

地場SIer

少し変わった視点になるが、地方市場を攻めるならば地場SIerというチャネルもある。

長野県の電算はIT業界では地場大手として有名で、実はインテックはもともと富山創業であり北陸ではすごく強い。

地方のエンドユーザー、その中でも特に自治体は地元企業を大事にするきらいがある。民需の市場規模としては断然東京大阪など都市部の方が大きいが、公共系や地銀といった特殊な市場を攻略するにはこういったプレイヤーとの協業が必要になるケースもある。

もし文教系や自治体といった地方比率の高い市場をターゲットとしているSaaSならばこういう企業とガッチリ組むのはよいだろう。彼らは人づきあいを大切にする、基本的にいい人たちで、東京からメーカーの営業マンが出張してきてくれるというのを好意的に捉えてくれることが多い。仲良くなると、東京者には理解の及ばないいろんな商習慣を教えてくれることだろう。

大手広域系

これもIT業界用語でリコー、富士フィルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)、コニカミノルタ、京セラドキュメントソリューションズといった複合機を売っている会社だ。
前述の電話やインターネット回線同様、複合機やコピー機もほとんどの会社に最低一台はあるので顧客の数は膨大だ。

複合機自体IT製品の一つではあるし、そのチャネルを用いて多様なIT製品を仕入販売するという活動は以前から行われている。

ただし、SIに近い事業部門を持つとはいえ、やはり彼らも純粋なSIerではない。本業である複合機を売るのに比べればSaaSを含むITソリューションの提案は強くない。

SaaSというのは構築は要らないし、保守サポートは開発元がサービス運営の一環として受け持つのが普通なので、そういう意味では通信キャリア同様かなり相性は良い。

ただし、大手企業が広域系販社から高額なITソリューションを買うことはあまりないというのが頭の痛いところである。エンタープライズともなればそこに営業したい大手SIerはいくらでもいるので、わざわざオフィス機器が本業の広域系からシステムを買う理由がない。
広域系と組むメリットは、ダイレクトセールスではリーチできないエンタープライズ層を獲得するというよりも、現行市場の中堅~中小へ素早くたくさん売る販路拡大という意味合いの方が強いと思う。「それならば自前の営業部隊でThe Modelやる方がいいよ。リードは山ほどあるんだから。」ということなるかもしれ

終わりに

ここまでしっかり読んでくれた人にはよく分かるように、アライアンスに成功の法則はない。ただし、基本的なことを知ることで、無駄な時間浪費を避けることはできる。
アライアンス系の商談は割とアポが取りやすいが、実案件に繋がるケースは結構少ない。代理店候補との商談が盛り上がっていたのに、その後全然案件も出てこず次のアクションもないという経験をした人は多いだろう(もちろん私もだ)。

アライアンスというのは仲間づくりであり、上手くパートナーと一緒に実績を出して先方担当者が喜んでくれるというのはとてもうれしいものである。個人的にはSaaSのエコシステムが拡がっていくとみんなハッピーになり、とても良いことだと思う。

少しでも、これをお読み頂いた皆さんのお役に立てたら幸いである。

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