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妄想執筆家と人形職人のおはなし【シリーズ】

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「妄想がある限りから私は書き続ける」と豪語するジャージ女の大原と、人形を黙々と作り続ける謎多き人の月夜里による日常の話。
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妄想執筆家と人形職人のおはなし

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【私達の日常8】

てるてる坊主てる坊主、あした天気にしておくれ。

「非道いよ、こんなのあんまりだよ・・・」

私は、鏡の前で跪いていた。
まるで世界の終わりを目の前にした勇者のように立ち上がる気力を失う。
実際には、私の目の前にあったのは世界の終わりなどではなく、とても可愛らしい白いポンチョだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「あんた、大学生になってからずっとジャージばっかじゃない

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【ちょっと変哲な日常2】

今、私はとある男子校の校門前で傘を差しながら立っている。
天気は曇天、雨はしとしとと降っている。
それにしても、暇だ。
槍でも蛇でもいいから降ってこないだろうか。

何故、私がこんなことをしているのか。
それは数時間前にこんなことがあったからである。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なずなが傘を忘れたらしい」

月夜里さんが携帯をぱたりと折る。
何かを探している

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【私達の日常7】

私は女である。
繰り返す、大原香は女である。

「私って、男に見える?」

月夜里さん、そんな気持ち悪いものを見たような顔をしないで下さい。

「なんだいきなり」
「いや…、ねぇ…」

月夜里さんがフェルトを刻んでいた鋏を机に置き、こちらを向く。
顎に手をやり、うーんと唸っている。
月夜里さんってやっぱりまつげ長いんだなぁ。
こうまじまじと見れる機会そんなにないと思うから、今の

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【ちょっと変哲の日常1】

私の最近の日課は2限の授業を受けて、昼休みに学食のサンドイッチを片手に、出された課題を適当に済ましてチャイムを待つことだ。
チャイムが鳴ったら混雑の波が落ち着くまで空を眺めて待ち、空いたところで学食を出る。
行く先は言うまでもない、月夜里さんがいる505号室だ。

「やましたさーん?」

ドアを開ける。
普段なら月夜里さんが人形を作る姿が視界に入ってくるはずだ。
だが、

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【私達の日常6】

私には変わった友人がいる。
例えるなら大人になれない子供、子供のままの大人。

「大原」
「んー…」
「おい、大原」
「むむぅ…」
「……。」

しゅばっという音と共に私の原稿が姿を消す。

「わっ!ちょ、なにするの!」

私が原稿を奪った張本人を見上げる。
口に原稿を咥えたウサギのパペット人形の持ち主はいかにも不満そうにこちらを睨んでいる。

「無視したお前が悪い。責めるなら

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【私達の日常5】

私はよく変わり者だといわれる。
だが知っておいてほしい。
上には上がいるものだ。

「ん?」

頬に一瞬何か違和感を感じ、思わず足を止めて空を見上げると、大粒の雪が上から降っているではないか。

「どうしたの?」

私より数歩先に歩いていた大原こと、夢見る暴走物書きがこちらを振り返る。
私が上を見てみるように首で促すと、彼女は不思議そうに上を見上げ、そして「うげぇ」と悪態をつい

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【私達の日常4】

私には変わった友人がいる。
優しいような厳しいような不思議な人。

「あー、書き終わらないよぉー…、づかれだよー…」
「クリスマスなのに忙しそうだな、彼氏でも出来たのか?」

月夜里さんが机に伏せる私に疑問を問いかけた。
だが、興味がないのかこちらをまったく見ていない。

さっきから月夜里さんは膝に乗せている白くてもこもこしたテディベアの手足を動かすのに夢中なようだ。
テディベ

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【私達の日常3】

私には変わった知り合いがいる。
青い長袖セーターにYシャツに明らかにサイズが大きすぎているカーゴパンツ。
顔と同じく中性的な恰好、悪くいえばだらしない。

場所は変わって学外へ。
冬になると大学の教室も廊下も寒く、暖房が部屋に行き渡るまで何か温かいものを食べて熱を取り込んで凌がないと凍え死んでしまう。
このままではまずいと思い、私と月夜里さんを連れてコンビニに行くことにしました

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【私達の日常2】

私には変わった知り合いがいる。
容姿端麗、肩にかかる黒髪に魅惑の泣き黒子。
仏頂面のその人は性別不明、年齢不詳。

「ねぇねぇ」
「なんだ」
「月夜里さんって男?それとも女?」

月夜里さんは人形の服の型紙を作成をわざわざ止めてこちらを見つめる。
型紙の衣装はフリースですか、それともジャージですか?
まあそれはおいといて…、先程から月夜里さんから投げつけられる心に突き刺さるよう

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【私達の日常1】

私には変わった知り合いがいる。
3限以降の505号室に人形を抱えて現れるという謎の人物。
苗字は月夜里、名前はまだ知らない。

「ねぇねぇ」
「なんだ」
「お話してもいい?」
「かまわんが」
「そっか。じゃあ一回その忙しい手の動きを止めよう」

黙々と手のひらに収まるぐらいの小さい人形の頭に今まさに茶色い糸を縫いつけようとする手をがしっと掴む。
月夜里さんは一瞬眉間を寄せたがす

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