ペット(※胸糞悪い表現があります)

やあ、君は旅人さんかい? この国は食べ物は美味いし、生活に困ることもない。そして何より動物が可愛いんだ。今から俺のパートナーを迎えにいくんだが良かったら来るかい?

いやぁ、マロンはとても可愛くてお利口さんなんだ。この前なんか私が名前を呼んであげたら可愛い声を出してさ。だけどこの前怪我をしてしまってね。
ほらこの子だ。可愛いだろ? ああこんな可愛いおててにかさぶたが出来てしまって。おーよしよし、もう大丈夫だからな。

「隣の奥さんがずっと苦しそうだが大丈夫か?」って。
おいおい冗談はよしてくれよ。そいつは俺の妻じゃない、俺のペットだ。「人間なのにペットなのか?」って、お前さんもしかしてこの国のペット制度を聞いていないのか?

この国では成人の年から5年間は人間の適正確認期間って言われていてな、25歳になっても社会に貢献出来ていない人間は「ペット」という仕事に就くことになってるんだ。
ペットは基本主人に命令されたことを行う。しかし、能力は個体差があってな。チッ、こいつは買った時は顔が良かったから買ってみたら、まあ不器用で飯も不味い。その癖に飯や世話代でまあ金がかかるかかる。ったく貧乏くじを引かされたもんだ。旅人さんもペットを買う時は気をつけるといい。

さて、マロンの治療も終わったし帰るとするよ。ほら行くぞ、のろいんだよお前は。ったく。

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えっと、こんにちは。私は此処の獣医の…って言わなくても分かるよね。

その顔はそうだね、ペット制度について聞きたいんだよね。私もあの人のペットの扱いは酷いと思うよ。
「ペットといえど人間なのだから病院に行くべきだ」か。そうか、他の国ではそれが当たり前なんだね。でも、此処の国ではそれが出来ないんだ。
ペットはお金を持つことができないし、脳を少し弄られているから飼い主のいうことを破ることが出来ないんだ。いや、それ以前にペットが飼い主のいうことを守らないのはおかしいというのがあるから出来ないというべきかな。

でも、ペットといえど元は人間だ。悪い環境にいれば病気になる。病気になったなら適切な治療を受けばければ悪化し、最悪の場合死に至るだろう。

そんなことみんな分かっているのに誰も助けようとしないんだ。いや、助けるという発想がないかもしれない。むしろ「治療にお金を使うなんて勿体無い。それくらいならと新しいのを買いなおす」と考える人の方が多いかもね。

私も出来れば助けてあげたいけど人間は専門外でね。本当に心苦しいよ。

「ペット制度」はこの国が数十年前に出した法案でね。実施された時は反対派もいたけど、それも一年足らずで無くなってしまったんだ。この国が長年頭を抱えていた「居場所のない無職」が、この制度を入れてからはあっという間に解決してしまったからね。
無職達はペットになることで社会に貢献出来るようになり、ペットして働いているから問題行動も起こさなくなる。無職達を養っていた親は無職達が家から出ることで負担が減り、且つ無職達の収入は全部親の懐に入ってくるんだ。無職達を抱えていた親御さんの中にはホッとしていた者もいたかもね。

ちなみにこの国に住んでいる人達は子供が3人以上いる家庭が一般的だよ。この国は子供がいればいるほど後々お得だし、特に社会に適合するのが難しそうな子であればあるほど望ましいんだ。

賢い君なら、その意味が分かるだろ?

この国の人達は動物とこうやって心を通わせあえるし、気遣いも出来るし愛も注げるのに、どうして同類になった途端に出来なくなってしまうんだろうね。 悲しいね、この国は。

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