生きることが優先される生き物

「先生、何を見てるんですか?」
「君も覗いてみるかい?」
「ベットに寝かされた人間がもう一人の人間にご飯をあげてますね」
「これは介護っていうんだ。君はこれが何日続くと思うかい?」
「え? どういう意味ですか?」
「まあまあ細かいことはまだ考えなくていいよ。で、何日くらいだと思う?」
「そんなの『死ぬ』までじゃないんですか?」
「それは『寿命』のという意味で間違いないかい?」
「あ、はい」
「なるほどね。これはこれで興味深い答えだ」
「さっきからなんですか?」
「人間ではない君が人間と同じ返答をするとはなんだか面白いなと思ってね」
「そうですか」
「ちなみに前回見た人間は死ぬまでご飯を与えていたよ」
「ということは正解ですか?」

「いや残念ながら不正解だよ。今見ている人は途中からご飯を与えられなくなった。つまり、生きているうちに世話している人にを見捨てられたんだよ」

「酷い話ですね」
「君はこれを酷い話だと思うんだね。ちょっと立場を変えてみよう。この人にご飯を与えていくためにはお金が必要である。お金を稼ぐには大抵の人間は外に出稼ぎにいくらしい。しかし、働いたら疲れるものだ。疲れて帰ってきたら、今度はこっちの世話をしないといけない」
「うんうん」
「感謝されるのならまだ救いはあるかもしれないが、泣いて呻いて貶されてを毎日繰り返されていたらどうなると思う?」
「それはその、疲れるかもしれないですね」

「その通りさ。普通に考えて、生を満喫している人間と死に向かっている人間が同じように生きられないのは当たり前なんだよ」

「はあ、そういうものですか」
「この手の話をした際に身内の介護を経験した人間からは嫌悪感があまり検出されなかったんだ。これは推測だけど、もしかしたら彼らは介護を放棄した人の気持ちに似た感情を抱いたことがあったのかもしれないね。まあ彼らが直接言ったわけじゃないから僕の考えが正しいかは分からないけど」
「だからといって、そのようなことをしてはいけないと思います」
「それは君の意見? それとも今まで見てきた人間を見ての感想?」

「―――それは、分かりません」
「ごめんね、ちょっと意地悪な質問だったかな」

「要するに人間社会でも生きる力があるものが優先されるって話さ。人間からしたら「狂ってる」と後ろ指を指されるかもしれないけど、僕はよくあることだと思うよ」
「人間というのは難しい生き物ですね」
「そうだね。逆をいえば人間はとても調べがいのある生き物だよ。そう思わないかい?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?