嘘つきくんと与太郎くん

彼はいつも嘘をつく。

「防空壕ってあるじゃん。あれは日本という国は地下にあった名残なんだぜ」
「影ってあるだろ?あれって生まれた時に国から配布される監視役なんだぜ」
「鉛筆ってあるだろ?あれさ、実はシシャモがモデルになってるんだぜ」

みんなは彼のことを「嘘つき」だと言う。彼の嘘はどれも嘘だと分かるようなものばかりだった。周りの人達は彼の話に耳を傾けない。だって、本当のことを言うと怒ってしまうから。

「そうなんだ」

僕は彼の話に頷く。彼は楽しそうに嘘を繰り返す。
みんな、僕のことを見て「優しいね」と言う。

「そうかなぁ」と、僕は答えた。

中学生になって、僕達が通う学校はバラバラになった。彼と再開したのは大人になってからだった。

「俺の嘘に付き合ってくれてありがとう。お前と離れるまでは自分中心の世界が当たり前だと思っていた。結局のところ、俺は寂しかったんだと思う。だから、本当に感謝してる」

スーツ姿がよく似合う彼は僕に言った。碌な大人にならないと思っていた。なのに、どうして。どうしてこうなったんだ。

「僕は」

君が必死に嘘ついてる姿が可笑しくて、心の中で笑っていたんだ。僕にしか縋りつけないお馬鹿な君を見て、楽しんでいただけなんだ。

だから、お願いだから、どうか。

「僕は気にしてないよ。元気そうで何より」

思ってもいないことを口にしながら、彼に笑む。彼は嘘つきだった。そうだ、彼は嘘つきだった。

「お前は相変わらず優しいな」

嘘つきをやめた彼の言葉は僕のいけないところを抉る。僕は「そうかなぁ」という言葉を吐瀉物のように撒き散らした。


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