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法人で加入する生命保険の保障額(保険金)の考え方 Part2

こんにちは。SKPです。
前回、法人で加入する生命保険の保険金の考え方の一つ、「会社をまもるための資金」について紹介しました。

今回はもう一つの考え方についてご紹介します。これらは別々の内容にはなるのですが、2つセットで「全体を網羅した保障」となります。

代表者(役員)の家族を守るための資金

会社の従業員にもしものことがあった場合、会社がどのような対応をとるのかは、各々の会社の規定(福利厚生規定や退職金規定)に則ります。当然、それは代表者である役員も同じです。

代表者が亡くなった際、会社そのものへの保障は十分に確保していても、代表者の個人への保障がなければ、遺族への保障はないことになってしまいます。

役員退職金、役員退職慰労金などと呼ばれますが、これらが満足に支払えるように保障を確保しておく、ということも大切な課題です。

この役員退職慰労金は「支払わなければならない」という性質のものではありません。ですが、亡くなった代表者の家族の今後の生活や、代表者本人の心情としては「あるべきだ」となるものだと思います。

そのため、役員退職慰労金がどの程度の金額なのかを計算し、会社を守るための資金と併せて保障、つまり保険金の金額を設定するのが好ましいのです。

役員退職金(想定額)の決め方・考え方

既に会社に役員退職金規定が定められているのであればそれに則って。ないのであれば、想定額として定型的な計算式に当てはめて計算するのが一般的です。

この『役員退職金』は税務調査や裁判でも争点となりやすい部分です。ある種「自分で有利なように決めてしまえる」という部分ですから。

仮に不当に過大だと判断された場合は「否認=損金と認められない」となります。認められないということは「退職金」が経費とならず、余計な法人税がかかるということです。

ここで用いている計算式は「平均功績倍率法」といって一般的な計算基準です。

計算式 : 役員報酬月額(現時点) × 在任年数 × 功績倍率

今回は「保障額」をどう算定するのか、がベースとなるため「死亡退職金」が前提となりますが、通常の退職時でも用いることができる計算方法です。

功績倍率というのは「会社への貢献度」を数値化したようなものなのですが、ここで問題となるのが「功績倍率は何倍が適切?」という点です。

これには明確な基準がありません。過去の判例(東京高裁S56.11.18、最高裁S60.9.17)より社長は3.0倍程度というのが定着していますが、3.0倍よりも低い倍率を適正とする判例も多くあります。

想定額の計算においては、便宜上何かの数値を当てはめなければなりませんが、実際には類似業種の実態がどうなのか、また役職により異なります。

簡易的に計算する場合は2倍~3倍を想定して計算するのが無難でしょう。ただそれで実際に支払って100%大丈夫(経費として認められる)というものではないことだけは注意が必要です。

役員退職慰労金の上乗せ分「功労加算金」

これの有無は、その会社の「役員退職金規定」がどのようになっているのか、によりますが、「会社に特別な功労があった者に退職金を上乗せする」という功労加算金がある場合があります。

当然、規定として認めている場合には、これも「確保しておくべき保障」に含める必要がありますので計算に含めます。この功労加算金の算定方法は以下の計算式です。

計算式 : 役員退職慰労金 × 0%~〇〇%

あくまでも「規定に則って」掛け合わせる%は変わりますが、創業社長の場合、便宜上30%を用いていることが多いです。ただ、これにも明確な基準はありません。

なお、功労加算金も退職金の一部ですので、先ほどの「不当に高い」という判定に含まれる、ということには注意が必要です。

どういうことかというと、仮に税務調査や裁判の際に「今回の役員退職金の功績倍率は3.0倍が妥当だ」となったとしましょう。

役員報酬が月額100万円で10年勤めていたとします。功績倍率が3.0倍の場合、役員退職慰労金を平均功績倍率法で計算すると

100万円 × 10年 × 3.0倍 = 3,000万円

となります。これに功労加算金として30%上乗せされるとします。そうすると3000万円×30%=900万円上乗せされる計算となり、合計の退職金は3900万円ということになります。

これを功績倍率に逆算すると『3900万円 ÷ 100万円 ÷ 10年 =功績倍率 3.9倍』となり、実際は0.9倍分はオーバーしており過大だと判断されるということです。この二つは分けてではなく、合わせて考えるということが大切になります。

弔慰金

最後に「弔慰金」です。これは上記2点とは少し性格が異なります。弔慰金とは亡くなった人を弔い、遺族を慰める趣旨で渡される金銭のことをいいます。少し乱暴ですが退職金は「本人のため」、弔慰金は「遺族のため」というようなイメージです。

今回は死亡退職を想定していますので、退職金との意味も似てきますが、死亡退職金(退職手当等)と弔慰金では相続税法上の扱いに明確な違いがあります。

【相続税法 基本通達 3-20 一部抜粋】 弔慰金(非課税額の規定)
(1) 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の3年分に相当する金額

(2) 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の半年分に相当する金額

死亡退職金との違いや法令の詳細は触れませんが、弔慰金の金額概算にはこの通達3-20(1)及び(2)を基礎として、現状の役員報酬月額に3年(36か月)か半年(6か月)を掛けて計算するのが良いでしょう。なお概算時には6か月を採用することが多いです。

状況が変われば見直すことが大切

これら「役員退職慰労金(+功労加算金)」「弔慰金」を合計したものが、現時点で想定できる『役員の家族を守るための資金』となります。

当然、役員の在任年数は年を経過する度に増えていきますし、役員報酬額も常に一定とは限りません。しかし、この算定をした段階で、現時点想定額の資金がない場合は、当然これらを支払うことはできません。

また『会社を守るための資金』が不足していれば、『役員の家族を守る資金』にお金を回すことができません。バランスを見て、両方を担保することを考えなければなりません。

この想定額は、年を追うごとに、状況が変わるごとに変化します。つまり「保障しておかなければならない資金」が変わっていくということです。

一度想定額を算定し、その保障を確保したとしても、年に1回程度見直し、必要があれば「保障をどのように確保するのか」を考えるということが大切となります。




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