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「論理国語」でChatGPT

Google for Education認定トレーナーの笠原です。

新学期が始まりましたが皆様はいかがお過ごしでしょうか。今週から新年度の授業も始まっているところだと思います。今年度は高校2年生で新学習指導要領の新科目が始まります。自分も「論理国語」に挑戦しているところです。

なかなか「論理国語」でどこに力点を置いたら良いかということに悩んでいるところなのですが、ウォーミングアップの一環としてChatGPTを活用した授業をやってみました。

「論理パズル」をChatGPTに解かせる

「論理国語」の教科書には「論理パズル」も紹介されています。勤務校の採用している教科書では、有名な「帽子パズル」が掲載されています。

実際の教科書の掲載文章は以下の『プチ哲学』です。

教科書の学習課題ではこの問題について「何が情報になって答えがわかったのかを説明してみる」ことがメインになっているちょっとしたコラムとして扱われています。

今回は、これをネタにして生徒に説明そのものを考えてもらうことをメインにするのではなく、ChatGPTにこの問題を解いてもらうための命令文を考えるという授業を行ってみました。

要するに「自分の欲しい答えをChatGPTから得るための表現を考える」という授業です。最近は、対話型AIが注目されていることもあってプロンプトエンジニアリングがかなり注目されています。もちろん、本格的なプロンプトの書き方になると日常的な言語表現とはちょっと異なるものになってしまうので、今回はあくまで日常的な表現でどこまでやれるかを考えてもらいました。

授業の流れ

授業の展開は以下の通りです。今回の授業は新年度のウォーミングアップ的な意図も強いのでそれほどガチガチの構成はしていません。

1.「帽子パズル」の回答を考える(教科書の学習課題の通り)

本来は「答えがわからないからChatGPTに尋ねる」という使い方が普通だとは思いますが、今回は授業なので先に自分たちで答えを考えてもらういます。

後から実際にChatGPTに尋ねてみると「人間の考え方とは違う」ということがかなり体感できます。そのため、本来の使い方とは違うのですが、先にパズルの答えを自分たちで考えてみることを重視してみました。

2.ChatGPTへの命令を考える

ここが今回のメインの活動です。帽子パズルをChatGPTに解かせるための命令を生徒に考えてもらいます。

当然ながら、ChatGPTがこの問題を解くためには、問題の設定、詳細な条件の説明、何を答えて欲しいのか、どの程度説明して欲しいのかなど、自分たちが欲しい情報を明確に言語化しなければいけないわけです。

なお、今回は新年度ということもあり、人間関係づくりも兼ねてグループワークです。

3.ChatGPTに命令を入れてみて得られた回答を分析する

実際に命令ができたら、その文言を教員に提出してもらい、教員がChatGPTに文言を打ち込み、回答を出力します。

生徒はその回答を見て、自分の欲しい答えや説明が得られたかを検討し、もし不十分であれば自分たちの命令の表現の何が不十分だったかを考え、命令の改善を考えます。

実際にやってみて

上記の流れで実際に授業をやってみて感じたのは以下のようなことです。

  • 実際、ChatGPTを使う時には回答が不十分なときは追加で質問をしてやり取りをしながら欲しい答えを探っていくが、授業だとそういう展開は難しい。基本的に「一発勝負」で正解を出そうというやり方になってしまう。この点は使い方としてやや不自然な気がする。

  • 教員が生徒の作った回答を打ち込んで、その回答が出力される様子を教室で共有したので、他のグループの命令の成否を見て自分たちの命令をよく考え直すという活動ができていた。

  • AIが何を出力するかはランダム。同じような命令でも上手く行く時もあれば失敗する時もある。意外と雑な命令でも成功してしまう時がある。雑な命令で成功されてしまうと、授業の狙いとしては不完全燃焼感はある。

  • うまく答えが得られなくても「まあ、AIはまだまだ思い通りにはいかない性能だからねぇ」という話をしているので、失敗を恐れずに気軽にチャレンジできる雰囲気になり、新学期の課題としてはちょうどいい。

  • 自分たちの考えたことにすぐにフィードバックとして回答が返ってくるのが面白いようである。そして、AIの出した回答を思わず分析したくなるようである。

  • 試行錯誤を苦にならずに挑戦できるのが良い雰囲気である。

  • 生徒の様子を見ている学習活動として気軽で、楽しくて、解いてみたくなるものであるようである。

今回の授業としては割と思いつきのまま生徒に投げた授業なので、AIの機嫌によってだいぶ狙っている「表現力のトレーニング」ができるかどうかが振り回されてしまうので、雑な授業だと思いますがもう少し工夫すれば面白い展開がありそうだと感じます。

生徒の感想を見ると「自分の言葉遣いへの気づき」や「AIの出してくる情報に対する信頼度への気づき」や「普段の授業と対話型AIとの関連性」などを見出してくれていました。使ってみてそのツールやテクノロジーの良し悪しを体感しているという印象です。

排除せず、上手く付き合うために

どうしてもChatGPTについてはレポート作成の時に悪用されるようなことが取り沙汰され、学校にとってはネガティブなツールであると思われがちです。そのため、議論の様子を見ていると学校から締め出す方向に議論が進みそうな気配があります。

しかしながら、学校から締め出しても生徒が無防備にアクセスする可能性は排除することはできません。むしろ締め出してしまうと、何も学校が準備しない状態で、手軽さだけに注目して楽するためのツールとして生徒がChatGPTを不用意に使ってしまうという状況が生まれる恐れが大いにあります。

むしろ、生徒に隠し立てすることができないのであれば、授業で善し悪しや特性を体験したり考えたりする時間や機会を用意したいと個人的には思います。

積極的に使わせるにはまだまだ問題が多いようには感じますが、紹介したり体験させたりすることで、道具としての性質を考えてもらう機会は大切なのではないかと思います。

使ってみると「情報としては全然信頼ならない場合も多い」などはすぐに分かりますし、体験すればそれをそのまま安易に使おうという発想は減っていくと感じます。

まだ、議論するべきことは多いので、安易には授業で使いづらいですが、上手く試せる機会は伺っていきたいですね。

注意点

今回の授業についてはいくつか注意点があります

  • 利用規約などの問題があるので、原則として生徒にChatGPTに打ち込みをさせることはできません。あくまで生徒から得た回答を教員が打ち込むという展開がグレーゾーンかと思われます。

  • 論理パズルについてGPT3.5だと、今のところ正しい答えが出てきませんでした。かなり粘ったのですが、上手くいかなかったです。ただ、これも時期によっては改善されるかとは思います。

  • 日々出力が変わってしまうので授業としての再現性は保証しづらいことかと思われます。

  • Bingは検索で答えを持ってくる面もあるので、割と雑な振り方でも答えが出てしまうのでこの授業展開は向きません。

  • 生成型AIの特徴や社会の中の議論などはちゃんと教える時間はとったほうが良い印象です。

くれぐれも生徒には使わせるのはかなりハードルがあり、問題もあるので注意してください。まずは、教員がデモンストレーションするところから使い方を探った方がよさそうです。


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